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348]
令和五年十一月公演(十一月十日) 第二部「奥州安達原」 三段目 その2
☆袖萩祭文の段
呂勢太夫 清治
「たださへ曇る雪空に、」から呂勢の繰り出す微妙な揺れある旋律に、早くも心が動かされ、「一間に直す白梅も無常を急ぐ‥」情景に陰翳が差して来ます。故に袖萩の出が必然と思われ、待たれるのです。「娘お君に手を引かれ‥走らんとすれど、」に清治の三味線が絶妙に入り、呂勢の抑揚、間に絡みつつ、「この垣一重が鉄の」を哀切極まりないものとします。
しかも美しい。汚辱の中で袖萩は美しい。
「琴の組とは引きかへて、」などは玉が零れるような美しさで、呂勢の語りは悲惨にして無惨な「これはまたあんまりきつい落ち果てやう、」の袖萩を浄瑠璃の珠玉の流れの中で磨き、輝かせている様です。まことに袖萩とはそういう存在なのです。屈辱と汚濁の底から一転して「美」に変化する存在。呂勢と清治師はそこを極めようとしているのでしょう。
後で述べる様に袖萩とは東西のダイナミズムの間に翻弄されて死んだとはいえ、「袖萩祭文」で見事に甦るのです。甦りを「美」として実現するのは呂勢と清治師。
観客にとってはその「美」は想定外だったかも知れませんが。
その想定外こそX次元への道なのです。
但し{仗の厳格、浜夕の滋味は呂勢には表現し難かった様です。
呂勢の素晴らしい「間」と「間」に滴る珠玉の様な清治師の三味線を堪能した段でした。
☆貞任物語の段
錣太夫 宗助
錣太夫は大車輪の奮闘振りで、特に{仗、浜夕がニンに合い、「そんなよい孫産んだ娘、」と浜夕が慈しみの心が溢れるのを抑えながら言う詞は胸に響きました。「折しも」は少し弱かったのですが、宗任の出現、義家登場をよく整理し観客に印象付けました。女声も巧みで、「かうなり果てた身の上、‥」は切実です。
そして終盤、貞任、宗任、義家の勢揃い。其々の詞を力強く語って、玉男師、玉助、玉佳の人形をしっかり支え、観客に満足を与えました。
人形の出来栄えが良く、浜夕の傘姿は寂しく美しく(簑二郎)、玉男師の則氏は「鐘の声」まであくまで端正、一転しての貞任の荒々しさが見事です。かてて加えて、娘お君はたかが子役とあなどる勿れ、出色の出来。可愛くいじらしく、「さする背中も釘氷、」辺りの、袖萩をさする手つきには心が締め付けられました。勘次郎、新しい才能の出現です。
錣は熱演で声を振り絞り、舞台を盛り上げるので、観客は見応えがあったと大いに満足した事と思います。
千秋 
2023/11/17(Fri) 19:14
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347]
令和五年十一月公演(十一月十日) 第二部「奥州安達原」 三段目 その1
11月になっても暑い日が続いて爽やかな気候とは言えず、体調も不安定になりがちです。開演前になっても空席が目立ち、シニアの健康が心配されましたが、直前には前方席はほぼ満席となりました。新人間国宝玉男師を初め、和生師、清治師御三方の揃い踏みとあって、期待が高まったのでしょう。
☆朱雀堤の段
藤太夫 清志郎
「さればにや少将は‥」から滑かに始まり、三味線も美しく、さあこれからと期待が膨らみました。しかし全体的に滑か過ぎて平板になりメリハリに乏しく、淡々と進むばかりで、六などの男達の野卑にリアルさはあるものの、袖萩の「行き先を思ひ廻せば夜の目も合はず、」は深みがありません。瓜割のワル振りも普通、{仗と袖萩の出会いもあっさり。
つまりは人物描写が甘く、これからの展開に資する力が弱いのが残念でした。
但し登場人物が多く、語り分けが大変な中で、よく整理して観客を混乱させなかったのは、手腕の一つでしょう。
☆敷妙使者の段
希太夫 清丈
{仗直方とその妻浜夕という老夫婦の会話は「奥歯、漏れくるまばら声」である筈なのですが、無駄な高音と大声で、老人とはとても思えない。その上旋律流れず、リズム無しときては、折角の劇的な場面もただ説明となり、肩透かしとなりました。{仗は「元来それがしは平家、‥」と述べる通り、論理的でその分自己に厳しく、苦しみも一入なのですが、希太夫はその論理に同調せず、どこか他人事です。
「八幡太郎参上」に重み無く、声か大きくなるだけで、「‥時しもあれ」と言っても、その「時」
は終に出現しませんでした。
☆矢の根の段
芳穂太夫 錦糸
三味線はリズム良く澄み切った音色で浄瑠璃を先導します。芳穂は「娘は立って行く」だけで新しい局面を開き、聴衆の展望を明るくしました。ここに至ってやっと劇中人物が立ち上がってきたのです。
「中納言則氏卿、」と言う声と共に、厳かにしずしずと登場する則氏は、流石玉男師の遣う人形だけあって、堂々たる格式の高さが感じられ、大きく見えて立派でした。その顔も端正にして申し分無く、あたりを払う威厳がある中に、何処か下心が漂うあたり玉男師の、表現への精進振りが示されます。
芳穂はこの段を切り開こうという気概があるので、思い切りよし、口跡よしで、「これはまた思ひがけもない、‥」にはリズムもあって、それが「‥白々しさ」という裏をかえって明白に示します。南兵衛、則氏、義家の絡みも緊迫して面白く、則氏が「さこそあらん。」と{仗を責め立てる梅の論理の決めつけ方も、逃れ難い締め付け感があって、説得力がありました。
つまりこの段は芳穂と錦糸の三味線が相俟って、丸本の二次元から三次元の劇へと進んだのであって、やがては四次、五次‥X次と高次の劇が立ち現れる可能性を示したのです。
千秋 
2023/11/17(Fri) 19:08
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346]
十一月公演評
気候なり体調なりで、
この程度の仕上がりとなりました。
拙遅だけは避けたつもりです。
勘定場 
2023/11/08(Wed) 17:16
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345]
拾壱月
穏やかではあるが、
天候の激変は否めない。
今後は暖秋で推移し、、
そして急転直下冬に突入するのではなかろうか。
地球温暖化は常なるものとなったようである。
勘定場 
2023/11/01(Wed) 16:11
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344]
祝
久しぶりにHPを訪ねたところ25周年ということ。
おめでとうございます。
義太夫の魅力をこれからもHPを通して学ばせていただきます。
さらなる継続をお祈りしております。
通りすがり 
2023/11/01(Wed) 12:58
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343]
答え合わせ
浄曲窟「三味線組曲」の解答を掲載しました。
勘定場 
2023/10/12(Thu) 16:46
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342]
「音曲の司」二十五周年
つひに無能無才にしてこの一筋につながる
勘定場 
2023/10/01(Sun) 09:23
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341]
拾月
季節は秋、
と言いたいところだが、
ここ数年は晩夏から初冬へ直結している。
村の鎮守の神様も、
豊年満作の秋とはこのような時候であったかと、
不審がっておられるに違いない。
勘定場 
2023/10/01(Sun) 09:22
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340]
玖月
うち続く残暑、
それもそのはず、
八月十五夜は今月末の二十九日なのである。
風に揺らぐススキの穂に季節を感じる日を、
ただ待つばかりである。
勘定場 
2023/09/01(Fri) 08:47
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339]
至評
千秋氏の評言は至高のものであり、
曲の解説としても類を見ないものとなっております。
これが実際に公演をご覧になっての劇評ならばと、
生憎の公演中止が惜しまれてなりません。
勘定場 
2023/08/11(Fri) 14:23
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