【豊沢広助 三味線の手 節と手順】

(2016.07.25)
(2016.09.20補訂)
提供者:ね太郎
 
 七世豊沢広助の『三味線の手 節と手順』のうち曲節例示部分を掲載した。曲節名、曲名、詞、解説は音源に従い翻字した。[ ]はね太郎による補記。演奏を含む解説はmp3ファイルを掲載し翻字に代えた。
【なお、飯島()の紹介する原LP音源とは配列が異なり、また、一部欠落(※※)がある。(別ファイル参照)(2016.09.20補記)】
   飯島 満 七代目豊沢広助『義太夫の種類と曲節』無形文化遺産部プロジェクト報告
 さらに、鶴沢清八の「義太夫節の種類と解説」のうち、関連する曲節例を併記した。清八のテキストは広助の型を参照したとされ、詞章の傍線と合わせ、曲節の理解の参考になると考えられる。もっとも傍線については『意図を量りかねるものもある』との指摘がある(下記飯島論文)。広助の録音に際しても同様のテキストがあったと推測されるが未見(No.120a、299参照)。また広助には『義太夫 節と手順』がある。
 『義太夫節の種類と解説』からの引用は『飯島満:資料紹介 二代目鶴沢清八『義太夫節の種類と解説』』(無形文化財の伝承に関する資料集 33-59所収)を参照し、その付番を利用した。LP版に実演が収録されず番号のない例は適宜付番し『×』を加えた。原本の傍線は赤字表記とした。
 豊沢広助『三味線の手 節と手順』と鶴沢清八『義太夫節の種類と解説』の作成の経緯、相互の関連については祐田論文および飯島論文を参照されたい。
 
録音年月日について
 
広助『三味線の手 節と手順』1955.12.12 文化財保護委員会1955.3 文化庁
1955.12
1955.2.10
1955.2.12
清八『義太夫節の種類と解説』1955.2.10 文化財保護委員会1955.3 文化庁
1958.3
1958.2.4-10
1:放送文化財保存目録1971.10.31 p128
2:義太夫節の様式展開 p128 但し 広助の録音の名称は『義太夫節解説』
3:祐田善雄 浄瑠璃史論考 p499
 
 
曲節名50音索引  原LP版一覧との対照表
 
 
No曲節名曲名
001西風三段目こそは入りにける
002東風四段目こそは入りにける  [解説(翻字略)]
003東(春太夫節のオクリ)廿四孝四段目十種香臥所へ行く水の
  清八 例004 東風の中 四段目物 廿四孝四段目 「伏戸へ行く水の」
004駒太夫のオクリ祇園祭礼信仰記上燗屋つれて走り行く
  清八 例039 駒太夫オクリ 一の谷二段目切 「こそは急ぎ行く」
005世話物のオクリかまどへさしかかる  [解説(翻字略)]
○ いままでのは弾き出しのオクリ これからは文章の中のオクリ
006小オクリ忠臣蔵四段目奥は
  清八 例022 小オクリ 忠臣蔵四段目 「かゝる折にも花やかに 奥は  外にも沢山あり」
007ギンオクリ玉藻前三段目寂しき黄昏や間毎に照らす
  清八 例035 ギンオクリ 玉藻前三段目 「淋しき黄昏や 間毎を照らす銀燭の」
008ウキオクリ太功記十段目長柄の銚子蝶花形門出を祝ふ熨斗昆布結ぶは
  清八 例026 ウオクリ 太功記十段目 「首途を祝う熨斗昆布 結ぶは
009網戸オクリ楠昔話三の口どんぶりこ杖を力に老の足
010林清オクリ三十三間堂平太郎住家杖は我が子を力草柳が元へとたどり行く
  清八 例015 林清オクリ 三十三間堂柳 「杖は我子を力草柳が元ヘとたどり行く
011ハリオクリお駒才三城木屋親の心のそこひやみとぼ/\奥へ入りにけり
  清八 例032 オクリカヽリ 恋娘昔八丈城木屋 「そこひ闇 とぼ/\奥へ入りにけり
012ハズミオクリ桂川連理柵帯屋跡に引添ひ出来合ひの壷を被つた色事仕打連れ勝手へ入る跡は
  清八 例030 ハズミオクリ 桂川帯屋の段 「あとに引添い出来合の 壷をかぶった色事師打連れ
013音頭オクリ忠臣蔵七段目一力茶屋めれんになさで置くべきかと騒ぎに紛れ入りにける
  清八 例029 ヲンドオクリ 忠臣蔵七段目 「みれんになさで置くべきかと騒ぎに 紛れ入りにける
014イロオクリ加賀見山七つ目仏間へさして日も西へ
  清八 例038 イロオクリ 楠三段目 「手を引き合うておじうばは一間へ
015中オクリ忠臣蔵四段目お乗物に引添ひ/\御菩提
  清八 例020 中オクリ 忠臣蔵四段目 「引添い只のオクリ御菩提所へと急ぎ行く」 は只のオクリである。
016フシオクリ忠臣蔵道行都の これはどの道行にもございます。このフシ送りで幕が切って落とされるんでございます
  清八 例024 フシオクリ 千本桜道行 「大和地さして」
017相の山オクリ紙子仕立両面鑑大文字屋胸をさすって奥の間へ襖
  清八 例028 相の山オクリ 揚巻助六大文字屋の段 「奥の間へ襖押明け入りにける」
018ヒナオクリ妹背山三段目首取り乗する弘誓の船あなたの岸より
  清八 例021 ウラフシオクリ 妹背山三段目 「あなたの岸より」
019武者オクリ一の谷陣屋呼ばわる声ともろともに一間へ
  清八 例013 武者オクリ 一の谷陣屋の段 「呼はる声と諸共に一間へこそは入相の
020クラサハオクリ摂州合邦辻合邦庵室しんたる夜の道
  清八 例*010 オクリ 合邦庵室「しんたる夜の道には暗からねど」
021宮戸オクリ心中天網島紙屋内すぐに仏なり
  清八 例011 宮戸オクリ 心中天網島紙治 「すぐに仏なり」
○ 三重の部
022普通三重本蔵下屋敷行く水も
  清八 例040 引トリ三重 増補忠臣蔵本蔵下邸 行く水の
023上三重三十三所壺坂寺たどり行く
  清八 例041 上三重 三十三所壺阪 コレハ高ク云ウコトたどり行く
024下三重鎌倉三代記八つ目入相時
  清八 例042 下三重 鎌倉三代記八ツ目 入相時[過]
025ウレイ三重忠臣蔵四段目浮き世なれ 下三重とウレイ三重はほぼ同じような語り風でございますが、下三重は「入相時」、「時」から声をあげるんでございます。ウレイ三重の方は「浮き世な」最後の「れ」の字からあげる、これだけが違うだけでございます。もっとも三味線の弾き方はお聞きの通りウレイ三重の方がだいぶん手数が込んでおります。
  清八 例043 下三重 忠臣蔵四段目 浮世なれ  マクラ故此三重は低く云うこと」
026段切リのウレイ三重[沼津]合はす火影は親子の別れ後に見捨てゝ別れ行く
  清八 例044 ウレイ三重 伊賀越沼津 「合はす火影は親子の名残りあとに 見捨てゝ別れ行く
027ウレイ三重ガカリ忠臣講釈喜内住家笑い顔しおれ勇んで
  清八 例045 ウレイ三重カヽリ 中心講釈喜内住家 「涙の種の笑い顔 ウレイ三重カヽリ志おれ キオイ三重ニナル勇んで 出て行く」
028ウレイワリ三重忠臣蔵九段目一夜ぎり心残して
  清八 例047 念仏三重 忠臣蔵九段目 「一夜ぎり 心残して出て行く」 (註)九段目段切を念仏三重ということ摂津大掾より教授されしもの
029キオイ三重加賀見山長局奥の間へ真一文字に
  清八 例048 キオイ三重 加賀見山長局 「奥の間へ真一文字にかけり行く」
030シコロ三重伊賀越沼津瀬川につづく池添も足に任せて 慕ひ行
  清八 例049 キオイ三重 伊賀越沼津 「瀬川に続く池添も足に任せて 慕い行く
031引取三重忠臣蔵七段目一力茶屋場明かりを照らす障子の内影を隠すや
  清八 例050 引取三重 忠臣蔵七段目 「明りを照らす障子の内 蔭を隠すや
032サグリ三重朝顔日記宿屋女の念力あとを慕うて これは盲人のはいるときに使う手でございます
  清八 例052 サグリ三重 朝顔日記宿屋 「女の念力あとを慕うてサグリ
033大三重(だいさんじゅう)菅原伝授道明寺尽きぬ思ひに堰き兼ぬる涙の玉の
  清八 例054 大三重 菅原伝授道明寺 「思いにせきかぬる涙の玉の」
034道具返し(三重の弾き出し)(詞なし)
035鹿オドリお駒才三城木屋(詞なし)
  清八 例318 鹿ヲドリ 恋娘昔八丈城木屋 「言うも更なる繁華の地」
036鹿オドリ恋女房染分手綱沓掛村(詞なし)
  清八 例320 鹿ヲドリ 恋女房沓掛村 吉凶しの身は世に連れて与の助が」
○ この他に壺坂寺・千本桜すしや・義士銘々伝赤垣等はオクリ・三重・鹿オドリでもなく別に弾き出しがございます。
037弾き出し(二上り)壺坂夢が
038弾き出し(三下り)千本桜すしや春は来ねども花咲かす
  清八 例009 千本桜寿しや 「これはマクラ弾出しは三下り歌で中ホドニ「オクリ」あり この所少しサラリと弾き語るも亦その通り」
039ハルフシ一の谷陣屋相模は障子押し開き
  清八 例058 ハルフシ 一の谷陣屋 「相模は障子押開らき」
040同じハルフシで違う手廿四孝四段目あでやかなりしその風情
041同じくハルブシの替り菅原三段目佐太村南無阿弥陀仏と鉦打ち納め
  清八 例060 ハルフシ 菅原三段目佐太村 「鉦打納め  これは初代此大夫風のハルフシである。」
042フシハル菅原四段目小太郎ともに奥へ/\と若君諸共誘はせ後先見廻し夫に向ひ
043同じくフシハルの変わった手先代萩御殿茶飯釜の湯の試を千松に
044同じく替わり手忠臣蔵七段目一力茶屋場思ひ付いたる延べ鏡出して写して読み取る文章
  清八 例062 ハルフシ 忠臣蔵七段目 「思いついたる延べ鏡 フシハル出して写して読取る文章
045フシオチ太功記十段目やう/\涙押しとゞめ
  清八 例061 ハルフシ 太功記十段目 「やう/\涙押止め」
046本ブシ心中天網島紙屋内定木を枕うたたねのあたる炬燵の小春時
  清八 例075 本ブシ 天網島紙治 「定木を枕転寝の 当る炬燵の小春時
047フシハルカカリ三十三所壺坂かゝることとは露知らず
  清八 例077 フシハルカヽリ 三十三所壺阪 斯かることとは露知らず
048同じくフシハルカカリの替わり手加賀見山長局聞く辻占にお初がお初がハッと見やる空には一群の
  清八 例078 フシハルカヽリ 加賀見山長局 とまり烏の泣きつれて
049大(おお)ブシ忠臣講釈喜内住家舁いて出でたる亡骸に書残したる
  清八 例076 本ブシ 忠臣講釈喜内 「舁いて出たる亡骸に 書残したるもしほ草
050地フシ阿波鳴門八つ目順礼に御報謝と言ふも優しき国訛
  清八 例079 地フシ 阿波鳴戸八ツ目 「巡礼に御報謝と 言うも優しき国訛り
051地フシノルカカリ三十三間堂柳はや東雲の街道筋
  清八 例080 地フシハルカヽリ 三十三間堂柳 早東雲の街道筋
052地のアゲブシ一の谷陣屋中にひときわ優れし緋縅
053同じく替え手三十三間堂柳哀れと思し給はれよ
  清八 例081 ウフシ上 三十三間堂柳 「哀れと思し 給はれよ
054ウキブシ箱根霊験記躄瀧猫なで声の面憎さ
  清八 例083 地ウフシ 箱根霊験記滝の段 猫なで声のウフシ面憎さ
055同じく替え手花上野志渡寺あんぐりと刀を鞘に納めた顔
  清八 例084 地ウフシ 花上野志度寺 「あんぐりと刀を鞘に ウフシ納めた顔
056同じく替え手恋女房沓掛村今日はしやり無理銭受け取ると上がり口に達磨催促
  清八 例085 地ウフシ 恋女房沓掛村 「受取と 揚り口に ウフシだるま催促
057中ブシ三勝半七酒屋園もうぢ/\手をつかへ
  清八 例086 中フシ 三勝半七酒屋 「園もうぢ/\ 手を仕え
058同じく替え手菅原三段目佐太村 御恩も送らず先立つ不孝御赦されて下されい
  清八 例087 中フシ 菅原三段目佐太村 「御恩も送らず先立不幸 御赦されて下れい
059中ブシノル一の谷陣屋悲しやとくどき歎かせ給ふにぞ
  清八 例088 中フシ 一の谷陣屋 「胸もせまりて悲しやと くどき嘆かせ給うにぞ
060本ブシのカカリ太功記十段目三人は涙押包み奥の仏間と湯殿口入るや
  清八 例089 本ブシカヽリ 太功記十段目 「三人は涙押包み 奥の仏間と湯殿口入るや
061同じく替わり手三十三所壺坂寺声澄みていとしん/\と殊勝なる
  清八 例090 本ブシカヽリ 三十三所壺阪 「声すみて いとしん/\と殊勝なる
062ワリ三ツブシ天網島紙屋内内に情けぞ寵りける
  清八 例091 ワリ三ツユリフシ 天網島紙治 内に情ぞこもりける
063ワリ四ツブシ天網島河庄魂抜けてとぼ/\うか/\身をこがす
064フシカカリ新版歌祭文野崎村五条袈裟思ひ切つたる目の中に
  清八 例095 フシカヽリ 歌祭文野崎村 「五条袈裟 思い切ったる目の中に
065同じく替え手三十三所壺坂寺哀れなりける次第なり
  清八 例096 フシカヽリ 三十三所壺阪 「哀れなりける次第なり
066半太夫ハルブシ楠昔話どんぶりこ今こゝに思ひ合はせし河内の国
  清八 例063 ハルフシ 楠三段目 「今爰に思い合せし河内の国
○ これよりハルブシの各名人の特[ ]いたしました
067春太夫ハルブシお染久松質店いそいそ帰る辻占をお染はいさみ
  清八 例064 「ハルフシ」の各名人特演例 お染久松質店  「いそ/\帰る辻占をお染は勇み」二世此大夫 
068同じく二世綱太夫勢州阿漕浦平次内仕習ひ易き下司仕事
  清八 例065 「ハルフシ」の各名人特演例 阿漕浦平治内  仕習い安き下司仕事」二世綱大夫 
069同じく駒太夫廿四孝十種香こなたには心そぞろに
  清八 例066 「ハルフシ」の各名人特演例 廿四孝十種香  「こなたには心そゞろに」初代鐘大夫 
070同じく重太夫朝顔宿屋 しばしは旅と綴りけん昔の人の筆のあと
  清八 例067 「ハルフシ」の各名人特演例 朝顔日記宿屋  「暫しは旅とつゞりけん昔の人の筆の跡」重大夫 
071ツギブシ太功記十段目百万石に優るぞや
  清八 例068 ツギフシ 太功記十段目 「百万石に増るぞや」  丸本には中フシとあり、五字落しとも云う
072地ハル先代萩御殿場ドレ拵へうとかい立て傍に飾る黒棚より
  清八 例036 ギンオクリ 先代萩御殿 「かたえに飾る黒柵より 取出す錦の袋物」
073同じくウク千本桜すしや思ひ召されん申し訳過ぎつる春の頃
  清八 例069 地ウ 千本桜寿しや 「思し召されん申釈 地ウ過つる春の頃
074同じく替え手太功記十段目世にあらうか解けて逢ふ夜のきぬ/\も
  清八 例070 地ウ、地ハル 太功記十段目 ハルウ解けて逢夜のきぬ/\も
075同じく替え手阿波鳴門八つ目聞分けて去んだがよいぞやと言ひつゝ内へ針箱の
  清八 例071 地ウ、地ハル 阿波鳴戸八ツ目 地ハルウ言ひつゝ内に針箱の
076同じく替え手先代萩御殿ひもじうない何ともないと渋面作り
077同じく替え手鳴戸八つ目コレマ今一度顔をと引き寄せて
  清八 例072 地ウ、地ハル 阿波鳴戸八ツ目 「マ一度顔をと地上引きよせて
078同じく入忠臣蔵六段目勘平内さてもさても世の中に俺が様な因果な者が
  清八 例073 地ウ、地ハル 忠臣蔵六段目 地ハルウ扨も/\世の中におれが様な因果なものが」
079同じくイチウク玉藻前三段目前生の報ひか罪か悲しやと
080地上ウク先代萩御殿鉄石心さすが女の愚に返り人目なければ伏し転び死骸にひしと抱きつき前後不覚に嘆きしはことわり
  清八 例074 地上ウ 先代萩御殿   「遉が女の愚に返り人目なければ伏し転び死骸にひしと抱きつき前后不覚に歎きしは理り過ぎて道理なり」
081地中忠臣蔵四段目つぶさに承知せられよと懐中より御書取り出し
○ 落シの部
082大オトシ太功記十段目はら/\/\雨か涙の汐境浪立ち騒ぐごとくな[り]
  清八 例097 大落シ 太功記十段目 「雨か涙の汐境浪立騒ぐ如くなり
083同じく大オトシ代用忠臣蔵四段目さてこそ末世に大星が忠臣義心の名を上げし根ざしはかくと知られけり
  清八 例098 筑前オトシ 忠臣蔵四段目 「忠臣義心の名を揚し根ざしは斯としられけり
084同じくことば大オトシ忠臣蔵六段目両人共にまづまづまづまづまづ聞いてたべ 忠臣蔵の浄瑠璃には大オトシがないんでございます。あの大物の九段目でさえないのんいに。それでただいまの四段目の「根ざしはかくと知られけり」が大オトシ代用。
085筑前オトシ加賀見山長局錦と替る麻の衣女鏡と知られけり
  清八 例099 筑前オトシ 加賀見山長局 「錦とかわる麻のきぬ女鑑と知られけり
086中オトシ菅原三段目佐太村その風情物ぐるはしき風情なり
  清八 例101 中オトシ 菅原三段目佐太村 「有様は物狂はしき風情なり」 (文弥オトシでやる場合もある)
  清八 例*102 文弥オトシ  菅原三段目佐太村 「有様は物狂はしき風情なり
087上総オトシ菅原四段目寺子屋 何れもは門火/\と門火を頼み頼まるる
  清八 例104 カズサオトシ 菅原四段目 「門火/\と門火を頼み頼まるゝ
088景事オトシ一の谷二段目切流しの枝いたはしくも又道理なり
  清八 例106 ケイジオトシ(駒太夫風) 一の谷二段目流しの枝 痛はしくも亦道理なり
089文弥オトシ太功記十段目曇りなき涙に誠あらはせり
  清八 例111 文弥オトシ 太功記十段目 「曇りなき涙に誠あらはせり
090キオイオトシ伊賀越八つ目岡崎くれよかしと庭にまろびつ這廻り抱きしめたる我が身も雪と消ゆべき風情なり
  清八 例107 キオイオトシ 伊賀越岡崎 「抱き入れたる我が身も雪と消ゆべき風情なり
091同じく替え手三勝半七酒屋内と外一度にわつと湧き出づる涙浪花江泉川小きんを汲み出すごとくなり
  清八 例109 キオイオトシ 三勝半七酒屋 「涙浪花江泉川小きんを汲出す如くなり
092三ツ間オトシ花上野志渡寺座敷の内もお手車乳母も衣裳を着飾つて
093四ツ間オトシ玉藻前三段目かこち給へば初花も共に涙にむせかへり
094五ツ間オトシお俊伝兵衛堀川女の道を立てとほす娘の手前面目ない
095四ツオリオトシ心中天網島河庄帰る姿もいた/\しくあと見送り声を上げ
096セキオトシ玉藻前三段目こればっかりがと言いさして声曇らせば初花姫
097ハズミオトシ玉藻前三段目胸に迫つて一言もお礼は口へは出ぬはいなア
098五字オトシ一の谷三段目陣屋いかゞ過ぎ行き給ふらん未来の迷ひこれ一つ
099これよりハズミ忠臣義士伝本蔵下屋敷主人桃井若狭之助忍びと見えて
  清八 例162 ハヅミ 増補忠臣蔵本蔵下邸 「主人桃の井若狭之助忍びと
100同じく替え手菅原伝授四段目寺子屋 松王は駕籠に揺られて立ち帰る
  清八 例165 ハヅミフシ 菅原四段目 「松王は駕にゆられて立帰る」
101同じく替え手一の谷二の中組討 船一艘もあらざれば詮方波に
102同じく替え手千本桜すしやお触れのあつた内侍六代維盛弥助めせしめて
103同じく替え手箱根霊験記躄瀧こいつあかなわぬとして来いなと尻引っからげ大磯さして駈けり行く
104同じく津賀太夫が申しましたハズミ こいつあかなわぬと逃げて行く
  清八 例167 ハヅミ津賀太夫クセ いざり滝の段 こいつは叶はぬと逃て行く
105江戸ハズミ蝶花形八つ目小坂部館まだ十才の腕白盛り
  清八 例168 江戸ハヅミ 蝶花形八ツ目 「まだ十才の腕白ざかり
106ノリハズミ八陣守護城正清本城のうこれ待つてと雛絹が取付き縋るを振払い見返りもせず駈けり行く
  清八 例169 ノリハヅミ 八陣ハツ目 「母上さらばと言捨てゝこそ欠り行く」
107モロハズミ蝶花形八つ目股立ちりゝしく身ごしらへ
  清八 例170 モロハヅミ 蝶花形八ツ目 股立ちりゝしく身ごしらえ」
108拍子堀川猿廻し 婿入り姿ものっしりとのっしりと
  清八 例171 拍子 堀川猿廻し 聟入姿ものつしりと/\」
109同じく替え手ひらかな盛衰記逆櫓ヤッシヽヽやっしっし/\/\
  清八 例172 拍子 ひらかな盛衰記さかろ ヤツシイシヽヤツシツシ シヽヤツシツシ
110ノル堀川猿廻しアアいやゝのいやゝのアヽあた世話な家持よりは金持が
  清八 例173 ノル 堀川猿廻し 「アヽいやゝの/\アヽあた世話な家持よりは金持に
111詞ノリ太功記十段目これ見給へ光秀殿 俗に言うにはサワリサワリと申しますが決してサワリじゃあございません。地合でありながら言葉で半分言うので詞ノリというのがホンモンでございます
  清八 例174 ノル 太功記十段目 コレ見給へ光秀どの・・・・より以下」
  清八 例255 四ツ間 太功記十段目 「コレ見給へ光秀殿」
112同じ替え手菅原四段目寺子屋私が伜は器量よしお見違へ下さるなと
  清八 例175 ノル 菅原四段目 「私が倅は器量よしお見違え下さるなと」
○ 次は普通のノリでございますが、このノリも大ノリ中ノリとノリにもいろいろございます。
113大ノリ太功記十段目夕顔棚のこなたより顕れ出たる武智光秀 大ノリのうちでも大きいのり。なるべく豪快に弾きます
  清八 例176 本大ノリ 太功記十段目 「現はれ出たる武智光秀」 の出の合の手
114中ノリ菅原四段目 されば/\北嵯峨の御かくれ家 間が中ノリになるだけでございます
  清八 例177 中ノリ 菅原四段目 「さらば/\北嵯峨の御かくれが・・・より以下」
  清八 例210 アシライ 菅原四段目 「されば/\北嵯峨の御かくれ家時平の家来が聞出し召取りに向うと聞それがし山伏の姿となり危い所奪い取ったり」
115大和地のノリ傾城反魂香吃又将監内オオよい所へ酒肴幸ひ/\盃も戴いて
  清八 例178 大和地とはノル事 反魂香吃又 「よい所へ酒肴幸い/\盃も戴いて
116トル恋娘昔八丈城木屋堅い商売城木屋と門へ印しの杉ならで
  清八 例179 トルと言事 恋娘昔八丈城木屋 「堅い商売城木屋と門に印しの杉ならで
117同じく替え手一の谷組討鞍の塩手やしお/\と
  清八 例180 トルと言事 一の谷二の中 弓手に御首たずさえて
118トルカカリ菅原三段目佐太村なむあみだ笠打かぶり西へ行足十万億土
  清八 例181 トルカヽリ 菅原三段目佐太村 「なむあみだ笠打かぶり西え行く足
119同じく替え手伊賀越沼津影に巣をはり待かける これは三下がりでございます
  清八 例182 トルカヽリ 伊賀越沼津 「稲村の影に巣を張り待かける
120クル三十三所壺坂折しも坂の下よりも詠歌を道の枝折にて
  清八 例184 上クル 三十三所壺阪 「折りしも坂の下よりも詠歌を道のしおりにて
120a 上クルとございますがこれは大落しの前提ではらはら涙 雨か涙の汐境 大落しに申し上げましたら略いたします。
  清八 例183 上クル 太功記十段目 「はら/\/\雨か涙の汐ざかい
121クルカン三十三所壺坂寺神ならぬ身の浅ましやかかる憂目は前の世の報ひか罪かエエ情なや
  清八 例186 クルカン 三十三所壺阪 かゝる憂目は先の世の報いか罪かエヽ情なや
122クリ上ゲ菅原四段目寺子屋疱瘡まで仕舞うた事じやとせき上てかっぱと
  清八 例187 クリ上ゲ 菅原四段目 「疱瘡まで仕舞うた事じやとせき上てかっぱと」
123同じくクリ上ゲの替え手太功記十段目祝言さえも済まぬ内討死とは曲がない
  清八 例188 クリ上ゲ 太功記十段目 「祝言さえも済まぬ内討死とは曲がない
124八ツグリ一の谷三段目陣屋聞へぬ我子やなつかしの此笛やと
  清八 例189 八ツグリ 一の谷陣屋 「聞えぬ我子やなつかしの此笛やと
125同じく替え手忠臣蔵九段目山科白髪のコレ此首聟殿へ進ぜたさ
  清八 例190 上八ツグリ 忠臣蔵山科 「白髪のコレ此首聟殿に進ぜたさ
126上八ツグリ日蓮記三段目勘作内わつとばかりに泣き倒れ性根正体なかりしが
  清八 例185 上クル 日蓮記三段目 「わっと斗りに泣倒れ正根正体なかりしが
127ヒロイ明がらす山名屋塀の外面を見下して
  清八 例192 ヒロイ 明がらす山名屋 「そつと高欄より塀の外面を見下して
128ヒロイ阿波鳴門八つ目巡礼歌ドレ/\報謝進ぜよと盆に白げの志し
  清八 例193 ヒロイ 阿波鳴戸八ツ目 「ドレ/\報謝進ぜよと盆に白げの志し
129長地朝顔宿屋秋月の娘深雪は身につもる歎きの数の重りて塒失ふ目なし鳥
  清八 例194 長地 朝顔日記宿屋 娘御雪は身に積る嘆きのかずの重なりて塒失う目なし鳥
130長地カカリ合邦辻庵室親里も今は心の頼みにてなれし
  清八 例196 長地カヽリ 合邦ヶ辻庵室 「親里も今は心の頼みにて
131同じく替え手三十三所壺坂寺まめやかに夫の手助け賃仕事つづれさせてふ洗濯や
  清八 例197 長地カヽリ 三十三所壺阪 「まめやかに夫の手助け賃仕事
132同じく替え手三十三間堂柳じっとこらえて立寄れど得も岩代の結び松われは柳のみどり子が
  清八 例198 長地カヽリ 三十三間堂柳 「じっとこらえて立寄れど得も岩代の結び松
133コハリ太功記十段目猪首に着なす鍬形のあたり眩ゆきいでたちは
134同じく替え手玉藻前三段目いづれも立寄って御成敗なされよとよろぼひ/\首取り上げ
135義士銘々伝本蔵下屋敷殿も見下し御落涙袖や袴に雨車軸流れて外へ小柴垣
  清八 例×101 中オトシ 増補忠臣蔵本蔵下邸 「流れて外へ小柴垣庭にふちなす斗りなり
  清八 例*103 文弥オトシ 増補忠臣蔵本蔵下邸 「流れて外へ小柴垣庭にふちなす斗りなり
136同じく替え手先代萩御殿忠義は先代末代までまたあるまじき烈女の鑑いまにその名は芳しき
137矢トメ上千本桜すしや手負いに取り付き天命知れや不孝の罪
  清八 例199 矢トメ上 千本桜寿し屋 「母は取付天命知れや不幸の罪」
138同じく替え手千本桜すしや可愛や金吾は深手の別れ
  清八 例200 矢トメ上 千本桜寿し屋 可愛や金吾は深手の別れ」
139次も同じことです忠臣蔵七段目一力茶屋場ヤア/\/\それは本かいな
  清八 例201 矢トメ上 忠臣蔵七ツ目 「ヤア/\/\夫はマア本かいなア
140カン恋飛脚大和往来新口村長き親子の別れともやすかたならで安き気も
  清八 例202 カン 恋飛脚新口村 「永き親子の別れとも安方ならで安き気も
141もうひとつ替え手を申し上げます三勝半七酒屋去年の秋の煩ひにいつそ死んでしまうたら
  清八 例203 カン 三勝半七酒屋 「去年の秋のわづらいにいつそ死んで仕舞うたら
142ウレイハルブシ朝顔日記宿屋朝顔殿朝顔殿と呼立る無残なるかな秋月の
  清八 例205 ウレイハルフシ 朝顔日記宿屋 「呼立る無残なるかな秋月の
143同じく替え手御所桜三段目始終のやうす聞く信夫
  清八 例206 ウレイハルフシ 御所桜三段目 始終の様子聞く信夫
144ハズミハルブシ和田合戦三の切市若初陣館をば出るも思ひ見る思ひ
  清八 例207 ハヅミハルフシ 和田合戦三の切 館をば出るも思い見る思い
145ハルブシカカリ玉藻前三段目哀れはかなき有様を
  清八 例208 ウギンハルフシカヽリ 玉藻前三段目 露を待間やかげろうの哀れはかなき有様を」
146替え手一の谷陣屋武士を捨て住所さえ定めなき
  清八 例209 ハルフシカヽリ 一の谷陣屋 「武士を捨て住所さえ定めなき
147二ツユリ安達原三段目身に応ゆるは血筋の縁
  清八 例113 二ツユリ 安達原三段目 「身に応ゆるは血筋の縁
148三ツユリ玉藻前三段目胸にひつしと萩の方途方涙に暮れ給ふ
  清八 例114 三ツユリ 玉藻前三段目 「胸にひつしと萩の方途方涙に暮れ給う
149四ツユリ菅原四段目散りぬる命是非もなや
  清八 例121 四ツユリ 菅原四段目 「散りぬる命是非もなや
150五ツユリ廿四孝三段目勘助住家まゝならぬこそ恨みなれ
  清八 例122 五ツユリ 廿四孝三段目 「此手柏の二タ面まゝならぬこそ恨みなれ
151六ツユリ先代萩御殿直してあふぐ扇さへ骨も砕くる思ひなり
  清八 例123 六ツユリ 廿四孝四段目 「いはいに向い手を合せ」」
152七ツユリ妹背山杉酒屋云はうとすれば胸迫り
  清八 例124 七ツユリ お初徳兵衛教興寺 「どちらをさしてよかろうやらと三人うろうろ立ちさわぐ
153九ツユリ千本桜すしやどうと伏し身を震はして泣きければ
  清八 例125 九ツユリ 千本桜寿し 「預りましたとどうと伏し身を震はして泣きければ
154ツキユリ揚巻助六大文字屋とつかわ出るもゆっくりと泣に逝ると哀れなり
  清八 例127 ツキユリ 揚巻助六大文字屋 「とつかわ出るもゆっくりと泣に逝ると哀れなり
155ユリナガシお俊伝兵衛堀川仰ぐも我れを渋団扇眼さえ不自由な暮らしなり
  清八 例128 ユリナガシ お俊伝兵衛堀川の段 「仰ぐも我れを渋団扇眼さえ不自由な暮らしなり
156ハルユリ桂川連理柵帯屋胸に釘打つ長右衛門面目涙に暮れ居たる
  清八 例116 中フシ三ツユリ 桂川帯屋の段 「胸に釘打つ長右衛門面目涙に暮れ居たる
157ウキユリ新版歌祭文野崎村気の毒さ振りの肌着に玉の汗
  清八 例118 中フシ三ツユリ 歌祭文野崎村 「気の毒さ振りの肌着に玉の汗
158シブユリ妹背門松質店夢合せ幾瀬の思いぞ辛気なる
  清八 例117 中フシ三ツユリ 妹背の門松質店 「夢合せ幾瀬の思いぞ辛気なる
159ウキギンユリ忠臣蔵九段目只アイ/\も口の内帽子まばゆき風情なり
  清八 例119 裏三ツユリ 忠臣蔵九段目 「只アイ/\も口の内帽子まばゆき風情なり
160クルマユリ心中天網島紙治内心の限りくどき立て恨み歎くぞ誠なる
  清八 例094 色三ツユリ雛型ブシ 天網島紙冶 「心の限りくどき立て 恨み歎くぞ誠なる
161ハネユリ一の谷陣屋よるもよられず悲しさの千々に砕くる物思い
  清八 例120 フシアト三ツユリ 一の谷陣屋 「よるもよられず悲しさの千々に砕くる物思い
162オルユリお染久松野崎村骨身に応え久松お染何と返事もないじゃくり
  清八 例129 オルユリ 歌祭文野崎村 「骨身に応え久松お染何と返事もないじゃくり
163キオイユリ累物語埴生村彼の男納戸へこそは入りにけり
  清八 例130 キオイユリ 累物語埴生村 「いそ/\として彼の男納戸へこそは入りにけり
164ユリブシ廿四孝十種香立戻って手を合はせ御経読誦の鈴の音
  清八 例131 ユリフシ 廿四孝四段目 「立戻って手を合はせ御経読誦の鈴の音
165同じく替え手千本桜すしや知らぬ道をば行き迷う
  清八 例132 ユリフシ 千本桜寿し屋 知らぬ道をば行き迷う
○ ギンの部
166枕のウキギンお俊伝兵衛堀川同じ都も世につれて
  清八 例133 枕のウギン お俊伝兵衛堀川 同じ都も世につれて
167同じく文章の中のウキギンお俊伝兵衛堀川言葉に否も泣顔を隠す硯の海山と
  清八 例135 ウギン お俊伝兵衛堀川 「詞に否も泣顔を隠す硯の海山と
168同じく替え手白石噺揚屋宮城野が部屋は上品奥二階箪笥長持鏡台の
  清八 例136 ウギン 白石噺揚屋 「部屋は上品奥二階箪笥長持鏡台の
169同じく替え手先代萩御殿湯の試みを千松に飲ます茶碗も楽ならで
170ハリギン加賀見山長局胸撫で下ろし手を組んで思い詰たる其顔色
  清八 例137 ハリギン 加賀見山長局 「胸撫で下ろし手を組んで思い詰たる其顔色
171同じく替え手忠臣蔵九段目 枝打払えば雪散って延るはすぐなる竹の力
  清八 例138 ハリギン 忠臣蔵九段目 「枝打払えば雪散って延るはすぐなる竹の力
172同じく替え手妹背門松質店心は跡に沖の船裾もゆら/\走り行く
  清八 例139 ハリギン 妹背の門松質店 「心は爰に沖の船裾もほら/\走り行く
173同じく替え手新版歌祭文野崎村燃ゆる思いは娘気の細き線香に立つ煙
  清八 例140 ハリギン 歌祭文野崎村 「燃ゆる思いは娘気の細き線香に立つ煙
174中ギン加賀見山長局憂涙包むに余る小風呂敷
  清八 例141 中ギン 加賀見山長局 「憂涙包むに余る小風呂敷
175同じく替え手一の谷三段目陣屋纜にや障子に写るかげろうの
  清八 例142 中ギン 一の谷陣屋 「纜にや障子に写るかげろうの
176ワリギン勢州阿漕浦平治内涙の雨身に降りかゝるを身に受けて
  清八 例144 ツリギン 勢州阿漕ヶ浦平治内 「思いやるせも涙の雨身に降りかゝるを身に受けて
177江戸ギン一の谷陣屋さしもの平山あしらひ兼ね浜辺をさして
  清八 例152 江戸ギン 橋弁慶 「肌に練の御あはせ・・・・・以下」
178説経ギン妹背門松質店[蔵前]心は先へ
179ユリギン伊賀越岡崎両腰そっと道端の雪かき集め押隠す
  清八 例145 ユリギン 伊賀越岡崎 「両腰そっと道端の雪かき集め押隠す
180ノルギン太功記妙心寺軍配取って一戦に
  清八 例146 地中ギン 太功記妙心寺 「父に替って某が軍配取って一戦に
181ノリギン替わり手和田合戦市若初陣縋れば払う愛別離苦
  清八 例147 地中ギン 和田合戦市若初陣 「礼義に隠す涙の袖縋れば払う愛別離苦」
182ウラギン花上野志渡寺額を土にうづくまる
  清八 例148 ウラギン 花上野志度寺 「偏に願上ますと額を土にうづくまる
183ハヤギン一の谷二の中組討ことありと須磨の磯辺へ出でられしが
  清八 例149 ウラギン 一の谷組打 「告知らす事有りて須磨の磯辺へ出られしが
184スエギン忠臣蔵道行薩垂峠にさしかゝり見返れば
  清八 例164 ハヅミ 忠臣蔵道行 さった峠にさしかゝり見返れば」
185揚ギン一の谷陣屋さらばさらばおさらばと声も涙にかきくもり別れて
  清八 例150 揚ギン 一の谷陣屋 「さらば/\おさらばの声も涙にかきくもり
186同じく替え手玉藻前三段目そのお言葉たとえ何れの胤なりとも
  清八 例151 揚ギン 玉藻前三段目 「そのお言葉たとえ何れの胤なりとも
187地中ハル忠臣義士伝本蔵下屋敷我身ぞ知る三世の縁も浅草の
  清八 例153 地ハルフシ 増補忠臣蔵本蔵下邸 「我身ぞ知る三世の縁も浅草の
188同じく替え手一の谷陣屋申し上ぐれば御涙を浮め給い
  清八 例154 地ハルフシ 一の谷三段目陣屋 「申し上ぐれば御涙を浮め給い
189同じくウクお俊伝兵衛堀川嘘とは知れど老の身は
190同じく替え手千本桜すしやこちらはこゝに天井抜け寝て花やろと
191地色 菅原四段目かゝる所へ春藤玄番首みる役は松王丸 これは地合ともつかず色ともつかず両方を兼ねておりますので地色と申します。「かかる所へ春藤玄番」だけが地色でございます。
  清八 例155 地色ハル 菅原四段目 かゝる所へ春藤玄番
192同じく地色のハル恋飛脚新口村言葉の端に孫右衛門さてはそうかと恩愛の
  清八 例156 地色ハル 恋飛脚新口村 言葉の端に孫右衛門さてはさうかと」
193同じく替え手傾城反魂香吃の又平将監も不便さの これは河内ハリマと申し上げます。一説に。
194同じくウク千本桜すしや 様子聞たかいがみの権太勝手口より躍り出で
  清八 例157 地色ウ 千本桜寿し屋 様子聞たか 此間ホス いがみの権太
195同じく中玉藻前三段目母の嘆きにかきくもる
  清八 例161 地色中 玉藻前三段目 母の嘆きにかきくもる
196同じく上三十三所壺阪寺 ハハハアヽヽヽヽ有難や忝なや
  清八 例158 地色上 三十三所壺阪 「ハハ、ハアヽヽヽヽ有難や忝なやこれより」
197太功記十段目はっと驚き口に手を当てアヽコレ/\声が高い初菊殿 これは各段如何なる義太夫にもございます
  清八 例159 色ドメ 太功記十段目 「はっと驚き口に手を当て
198同じく色ドメ太功記十段目かけ戻ってハッタとにらみ
  清八 例160 色ドメ 太功記十段目 「かけ戻ってハッタとにらみ
199タタキ妹背門松質店裸にしたかぬくもりのさめぬを待てど身は寒き
200同じく替え手白石噺揚屋宮城野が部屋は上品奥二階
  清八 例211 タヽキ 白石噺揚屋 「宮城野が部屋は上品奥二階
201同じく替え手廿四孝四段目十種香鈴ンの音
  清八 例212 タヽキ 廿四孝四段目 「鈴ンの音こなたも同じ松虫の
202[同じく替え手][お俊伝兵衛堀川][契]りやと枕につとう露涙
  清八 例213 タヽキ お俊伝兵衛堀川 「薄き親子の契りやと枕につとう露涙
203下タタキ花上野志渡寺 伏拝む手に露涙
  清八 例215 下タタキ 花上野志度寺 「伏し拝む手に露なみだ
204ハリタタキ太功記十段目どう急がるゝものぞいのと泣く泣く取り出す緋縅の
  清八 例216 ハルタヽキ 太功記十段目 「急がるゝ物ぞいのと泣々取り出す緋威の
205同じく替え手三十三所壺坂寺乱るゝ心取直し上る段さえ四ツ五ツ早暁の鐘の声
  清八 例217 ハルタヽキ 三十三所壺阪 「乱るゝ心取直し上る段さえ四ツ五ツ
206中タタキ玉藻前三段目用意の褥四隅には
  清八 例218 中タヽキカヽリ 玉藻前三段目 「取出す用意の褥四隅には
207同じく替え手先代萩御殿お末が業を信楽や
  清八 例219 中タヽキカヽリ 先代萩御殿 「楽ならでお末が業を信楽や
208タタキカカリ太功記十段目かゝれとてしもうば玉の
  清八 例220 ウタヽキカヽリ 太功記十段目 「別れの涙かゝれとてしもうば玉の
209同じく替え手日吉丸三段目片時も思い忘るゝひまもなう
  清八 例221 ウタタヽキカヽリ 日吉丸三段目 「片時も思い忘るゝひまもなう
210大マワシ恋飛脚新口村落人の
  清八 例222 大マワシ 恋飛脚新口村 落人の
211小マワシ妹背門松質店草鞋とく/\お上に揚り
  清八 例223 小マワシ 妹背門松質店 「草鞋とく/\お上へ揚り
212同じく替え手蝶花形八ツ目心も先きへ飛石伝い
  清八 例224 小マワシ 蝶花形八ツ目 「心も先きえ飛石伝い
213六法太功記十段目真柴が武勇仮名書き
  清八 例225 六法 太功記十段目 「真柴が武勇仮名書きに
214同じく替え手三勝半七酒屋茜染今色上し艶で姿
  清八 例227 六法 三勝半七酒屋 茜染今色上し艶で姿
215ウラ六法菅原伝授四段目あとは門火にえひもせず
  清八 例228 ウラ六法 菅原四段目 「あとは門火にえひもせず
216ウレイ六法迎駕聚楽町小梅も梅の花ちらしやがて茜の知るべまで
  清八 例229 ウレイ六法 迎駕聚楽町 小梅も梅の花ちらしやがて茜の知るべまで」
217位(くらい)忠臣蔵四段目入来る上使は石堂右馬之丞
  清八 例230 位フシ 忠臣蔵四段目 「入来る上使は石堂右馬之丞
218位オチ忠臣蔵六段目身をへり下り述ければ 行儀とも申しましす。行儀と位オチと三味線の手數にしたら一撥か二撥違うだけで名前が違うんでございます
  清八 例231 行儀(位オチとも云う ) 忠臣蔵六段目 「身をへり下り述ければ
219行儀忠臣蔵九段目幸ひ今日は日柄もよしサ御用意なされ下さりませと相述ぶる 「くださりませ」の「と」の一字手が違うだけでございます
  清八 例232 行儀(位オチとも云う ) 忠臣蔵九段目 「御用意なされ下さりませと相述る
220景事ブシ忠臣蔵道行連れて親子の二人連れ 道行ものは全部景事で申しますとにかく一番派手な語り風でございます。皆音がギンに懸かっております
221ヒナガタ忠臣蔵九段目あの力弥様の御屋敷はもうここかえわしや恥ずかしいとなまめかし
  清八 例233 雛形フシ 忠臣蔵九段目 「もう比処かえわしや恥しいとなまめかし
222シャキリ忠臣蔵九段目由良殿といふも涙にむせ返れば
  清八 例234 シヤキリ 忠臣蔵九段目 「由良殿と言うも涙にむせ返れば
223シャリセン 只今の文章の次でございます忠臣蔵九段目妻や娘はあるにもあられず
  清八 例235 シヤリセン 忠臣蔵九段目 「むせ返れば妻や娘は有るにもあられず
224長持日蓮記三段目勘作住家返らぬ事を口説き立てそこよこゝよと駆け廻り
225伐害(ばつがい)安達原三段目申し申しとのびあがり かたわの出るときに用いるフシでございます 他に志渡寺の坊太郎これはおしでございます、躄瀧の勝五郎これはあしなえでござります
  清八 例236 伐害(ザンガイ) 安達原三段目 「申し/\と伸び上り
  清八 例239 伐害(ザンガイ) 花上野志度寺 「いかにがんぜがない迚ても
  清八 例237 伐害(ザンガイ) いざり滝の段 「心ばかりは勝五郎
226八郎兵衛フシ恨鮫鞘鰻谷うぬ真二つにヤアきり/\/\な斬殺し浮世の夢や鮫鞘に 鰻谷だけの用いません手でございます。
227八文字戻り駕籠花よ花よと金やろ客が
  清八 例241 八文字六法 戻り駕 「恥し乍ら咄しませう花よ/\と金やる客は志んぞぶり出す八文字」
228乱レ伊賀越沼津サヽ御座れと先に立つ平作は千鳥足しんどが利になる蒟蒻の砂になるかと悲しさに小腰屈めて
  清八 例242 乱レ 伊賀越沼津 「サヽ御座れと先に立つ平作は千鳥足辛度が利になるこんにやくの砂になるかと悲しさに
229ツナギ恋飛脚大和往来新口村馴れぬ旅路を忠兵衛がいたわる身さえ雪風に
  清八 例243 ツナギ 恋飛脚新口村 「馴れぬ旅路を忠兵衛がいたわる身さえ雪風に
230ハリマ玉藻前三段目かくと知らせに館の後室衣紋正しく出で迎え これは井上播磨掾さんの編み出されたフシでございまして一番最初のフシとも申します。十二文字になればいずれに付けても付く手でございます
  清八 例256 ハリマ 玉藻前三段目 「斯くと知らせに館の後室衣紋正しく出迎い
231同じく替え手忠臣蔵六段目縞の財布の紫摩黄金仏果を得よと言ひければ 東風でござりますれば音遣いをのんびりと語り、西風になればすこし早くかつすねて語るんでございます。
  清八 例257 ハリマ 忠臣蔵六ツ目 「縞の財布の紫摩黄金仏果を得よと言ければ」(註)東風なればヲン(のんびり語る)西風なれば少し早くスネル
232同じくハリマガカリ菅原四段目 立派なやつや九つで
  清八 例258 ハリマカヽリ 菅原四段目 「立派なやつ健気な八つや九つで
233ハリマ重ネ千本桜すしや若葉の内侍は若君を宿ある方へあずけ置き
  清八 例259 ハリマ重ネ 千本桜寿し屋 若葉の内侍は若君を宿ある方へ預け置き」
234国太夫浪花八重霞新屋敷それも誰レゆへ秋鹿の
235文弥先代萩御殿忠と教へる親鳥の
  清八 例261 文弥 先代萩御殿 忠と教へる親鳥の
236同じく替え手日蓮記三段目しほ/\と涙片手に舁き入れて
  清八 例262 文弥 日蓮記三段目 しお/\と涙汗手に舁入て
237同じく替え手三代記八ツ目聞き納めと思へば弱るうしろ髪
  清八 例263 文弥 鎌倉三代記八ツ目 「聞納めと思へばよわる後髪
238同じく替え手廓文章吉田屋 アヽコレさりとては紙子ざはりが荒い/\引けば破れる掴めば跡にしはす浪人昔は鑓が迎ひに出る今はやう/\長刀の
  清八 例264 文弥 廓文章吉田屋 引けば破れるつかめば跡に師走浪人昔は槍が迎いに出る今はやう/\長刀の
239同じく替え手伊賀越沼津はよう苦痛を止めてくだされ親子一世の逢ひ初めの逢ひ納め
  清八 例266 文弥 伊賀越沼津 「親子一世の逢初の逢納め
240同じく替え手妹背山三の切サアかゝさん切て/\と身を惜しまぬ我が子の覚悟に励まされ
  清八 例267 文弥 妹背山三の切 「サアかゝさん切て/\と身を惜まぬ我子の覚悟にはげまされ
241同じく替え手躄滝泣上戸めったやたらに腹立上戸
  清八 例268 文弥 いざり滝の段 「泣上戸めったやたらに腹立上戸
242同じく替え手中将姫雪責けさまでもいたわりかしずく身なりしに
  清八 例269 文弥 中将姫雪責 けさまでも痛わりかしづく身なりしに
243表具忠臣蔵七段目数に入ってお伴にたたん小身ものの悲しさは
  清八 例270 表具 忠臣蔵七段目 「数に入ってお供に立たん小身物の悲しさは
244同じく替え手中将姫雪責さあどうじゃとするどなる詮議に姫は顔を上げ愚かの仰せ候らうぞや
  清八 例271 表具 中将姫雪責 「詮義に姫は顔を上げ愚かの仰せ候らうぞや
245同じく替え手堀川猿廻し暫し此世を仮ぶとん薄き親子の契りやと
  清八 例272 表具 お俊伝兵衛猿廻し 「暫し此世を仮ぶとん薄き親子の契りやと
246同じく替え手二代目綱太夫が語ったフシ[花上野志渡寺]乳母が亡き跡亡き父の
  清八 例273 表具 花上野志度寺 乳母が亡き跡亡き父の
247同じく三代目綱太夫の替え手合邦内かゝるけやけき姿をばお目に
  清八 例274 表具 摂州合邦辻下の巻 かゝるけやけき姿をば
248同じく替え手麓太夫蝶花形八ツ目捨つる命のありがたき
  清八 例275 表具 蝶花形八ツ目 捨つる命の有難き
249同じく替え手組太夫菅原三段目佐太村是非に及ばぬあの木とともに枯れし命の桜丸
  清八 例276 表具 菅原三段目佐太村 枯れし命の桜丸
250表具カカリ堀川猿廻しこの世に残っている気はあるまいいずくいかなる国の果て山の奥にも身を忍び
  清八 例277 表具カヽリ お俊伝兵衛猿廻し 「此世に残っている気はあるまいいずこいかなる国の果
251表具クズレ恋飛脚新口村懐ろに温められつ温めつ
  清八 例278 表具クズシ 恋飛脚新口村 「懐ろに温められつ温めつ
252同じく替え手堀川猿廻しそも逢いかゝるはじめより末の末まで言い交わし
  清八 例×278 表具クズシ お俊伝兵衛猿廻し 「そも逢かゝる初めより末の末まで言かわし
253表具重ネ千本桜すしや栄華の昔父のこと思い出だされ御膝に落つる涙ぞいたわしき 表具が二重になっています
  清八 例279 表具重ネ 千本桜寿し屋 栄華の昔 父の事思い出され御ひざに落つる涙ぞ」
254土佐節六韜[鬼一法眼]三略巻橋弁慶西塔の武蔵坊弁慶は其頃都にありけるが五条の橋には人を悩す曲者ありと聞きしかばそれを従へ召使はんと心も空も晴るゝ夜の月も音羽の山の端に出立つ鎧は黒革威好む所の道具には熊手ない鎌鉄の棒さい槌鋸まさかり刺股さすまゝに権現より給はつたる大薙刀真中取ツて打かづきゆらり/\と出でたる有様如何なる天魔鬼神なりとも面を向くべきやうあらじと我身ながらも物頼もしく手にたつものゝアヽほしやと一人言して打ち渡りンに向ふをきつと見てあれば
  清八 例280 土佐ブシ 三略巻橋弁慶 「西塔の武蔵坊弁慶は其頃都にありけるが五条の橋には人を悩ます曲者有しと聞しかば夫を従へ召使はんと心も空も晴るゝ夜も月も音羽の山の端に出立鎧は黒皮威好む所の道具には熊手ない鎌鉄の棒…………以下」
255外記三十三堂柳名を挙げてたもヤアヤアヤア母は今を限りにて このフシは院本には角太夫節と書いてございますが、いかほど調べても角太夫節じゃございません。外記節でございます
  清八 例281 角大夫ブシ 三十三間堂柳 「名を揚げてたもや母は今を限りにて
256同じく替え手大江山二段目切保昌館やあやあ怪童尋ぬる母はここにありとくとく出よと呼ばわったり
  清八 例282 外記 大江山保昌館 「ヤア/\怪童尋ぬる母は爰にありとくとく出よと呼はったり」
257江戸太功記十段目対面せんと呼ばわって三衣にかわる陣羽織小手臑当も優美の骨柄悠然として
  清八 例283 江戸 太功記十段目 「三衣に替る陣羽織小手脚当も優美の骨柄悠然として
258同じく江戸岸姫三段目相の襖を押し開き司姫を小脇にかゝえ勢いこんで義秀が
  清八 例284 江戸 岸姫松三段目 「間の襖を踏ひらき 司姫を小脇にかゝえ勢い込んで義秀が
259半太夫恋飛脚大和往来新口村ためかや今は冬枯れてすゝき尾花はなけれども世を忍ぶ身はあとやさき
  清八 例285 半中 恋飛脚新口村 「落人の為かや今は冬枯れてすゝき尾花はなけれども
260同じく替え手揚巻助六大文字屋かげも心もかき曇るお松といへど色かわる
  清八 例286 半中 紙子仕立大文字屋 「かげも心もかきくもるお松と言へど色かわる
261同じく半太夫野崎村ちょき/\/\切っても切れぬ恋衣や元の白地をなまなかにお染は思い久松が
  清八 例287 半中 歌祭文野崎村 「切っても切れぬ恋衣や元の白地をなま中にお染は思い久松が
262同じく替え手桂川帯屋信濃屋のお半は胸のうさつらさよそ目を包む振袖の
  清八 例288 半中 桂川帯屋の段 同じ思ひを信濃屋のお半は胸のうさつらさ余所目を包む振袖の
263半太夫のつづき堀川猿廻しよう合点いたしました殊にまた伝兵衛さんつい一通りで逢うた客深い訳でもないわいなしかし勤めの習ひにて人の落目を見捨つるを廓の恥辱とするわいなとても末の詰らぬこと
  清八 例290 半中 お俊伝兵衛猿廻し 「ツイ一ト通りで逢うた客深い訳でもないわいなァ
264同じく猿廻しのつづき[堀川猿廻し]憎し悪しもないやうに得心をさせまして品よく訳の立つやうに
265同じく替え手祇園信仰記笠の舞たどりたどりて
266カサ半太夫祇園祭礼信仰記[二段目切]かけて結んで付き纏われて
  清八 例293 半太夫 祇園信仰記 「あゝ申しその足元ではあぶない夜道せめてこれをといひ筒守りをブラ/\/\とかけて結んで付まとわれて猶も思いがまさきのかづらたぐりくる/\いつともなしに」
○ 繁太夫節 地唄の富崎春昇さんのやられます繁太夫節と義太夫の繁太夫節とちょっとかわってございます。大体におきまして同じことでございますが、あちらさまの「親方とこことにまだ五年ある年のうち」これが義太夫と地唄の方と音が違ごうております。つまりツボが違うんでございます。それから次にまいりまして、「人手に取られては私はもとより主はなお」ここが違うんでございます。それから次に参りまして「いっそ死んでくれぬかアア死にましょうと、引くに引かれぬ義理詰にふっと言いかわし」これが音が違ごうております。大体におきましてあまり違わんのでございますけども、義太夫ではあとが詞になっておりますので、「いつなんどきを最期とも」これで義太夫の方は節が終いになっております。地唄の方はまだ引き続きましてずっとそののちも地合になっとります。ご参考のためにちょっと申し上げておきます。
267繁太夫天網島河庄 紙治さんと死ぬる約束親方にせかれて逢瀬も絶え差合ひあつて今急に請出すことも叶はず南の元の親方とこゝとにまだ五年ある年の中人手に取られては私は元より主はなほい一ち分立たずいつそ死んでくれぬかアゝ死にましよと引くに引かれず義理詰めにふつと言ひ交はし首尾を見合せ合図を定め抜けて出よう抜けて出よといつなんどきを最期ともその日送りのあへない命
  清八 例295 繁大夫 天網島河庄 「紙治さんと死る約束親方にせかれて逢瀬も絶え差合有って今急に請出す事も叶はず南の元の親方と此処とにまだ五年ある年の内………………以下其の日送りのあへない命迄」
268道具屋伊勢音頭油屋北六万野が取り/\に、とさん盃硯蓋
  清八 例296 道具屋 伊勢音頭油屋 「北六万野が取り/\にとさん盃硯蓋
269同じく替え手千両幟猪名川内町中の贔屓に肩も猪名川が
  清八 例297 道具屋 千両幟猪名川 「町中のひいきに肩も猪名川が
270同じく替え手勢州阿漕浦平治内かかる嘆きの胴中へ
  清八 例298 道具屋 阿漕浦平治内 かゝる歎きの胴中へ庄屋を案内に打連れて」
271同じく替え手廿四孝三段目中下駄場二重の腰の白妙も
  清八 例299 道具屋 廿四孝下駄場 二重の腰の白妙も
272同じくカカリ三十三間堂柳夜は山賊の大胆不敵何でも掘出ししこ溜んと
  清八 例300 道具屋カヽリ 三十三間堂柳 「夜は山賊の大胆不敵何でも掘出ししこ溜んと大刀さし足」
273園八廓文章吉田屋忍ぶとすれど古しえの花は嵐のおとがいの
  清八 例301 宮園 廓文章吉田屋 忍ぶとすれど古しえの花は嵐のおとがいの
274スエテ三勝半七酒屋やつぱり元の嫁娘とおつしやつて下さりませお二人様とあとは言葉も涙なり
  清八 例302 スエ(又スエテ) 三勝半七酒屋 「おっしやって下さりませお二人様と後は言葉も涙なり
275同じく替え手一の谷陣屋 討つて無常をさとりしか遉に猛き武士も物の哀れを今ぞ知る
  清八 例303 スエ(又スエテ) 一の谷陣屋 「遉に猛き武士も物の哀れを今ぞ知る
276同じく替え手堀川猿廻し十五夜の月はさゆれど胸の闇すぎしわかれのいいかわし
277スエ菅原二段目切道明寺心のなげきを隠し歌 「テ」がございません。「スエ」
278同じく替え手安達原三段目祭文皮も破れし三味線の
  清八 例×303 スエ(又スエテ)安達原三段目 皮も破れし三味線の」
279政太夫のスエ忠臣蔵九段目祝言させてくださりませと縋り嘆けば母親は
  清八 例304 スエ(又スエテ) 忠臣蔵九段目 「祝言させて下さりませと縋り嘆けば母親は」
280同じく染太夫のスエ妹背山三段目久我之介はうつ/\と父の行く末身の上を守らせ給へと心中に
  清八 例305 スエ(又スエテ) 妹背山三段目 「父の行末身の上を守らせ給へと心中に
281同じく春太夫廿四孝四段目不憫ともいたわしともいわんかたなき二人が心とそぞろ涙にくれけるが
  清八 例×305 スエ(又スエテ)廿四孝四段目 「言はん方なき二人が心とスエテそゞろ涙に暮れけるが
282スエカカリ合邦内玉手御前俊徳丸の御行方尋ねかねつゝ
  清八 例307 スエカヽリ 摂州合邦辻下の巻 俊徳丸の後行衛尋ねかねつゝ」
283同じく替え手お染久松野崎村連れて行くその間遅しと駆入るお染逢いたかったと久松に縋りつけば
  清八 例308 スエカヽリ 歌祭文野崎村 「逢いたかったと久松に縋り付けば」
284同じくスエカカリすしやお変りないかとびっくりも一度に興をぞさましける
  清八 例309 スエカヽリ 千本寿桜し屋 「お変りないかとびっくりも一度に興をぞさましける」
285大スエ一の谷陣屋或はくやみ或は怒り涙は滝をあらそへり
  清八 例306 大スエテ 一の谷陣屋 「さぞ御一門の魂魄我を恨みんあさましやと或いは悔み或いは怒り大スエテ涙は滝をあらそへり
286同じく大スエ忠臣蔵六段目推量あれと血ばしる眼無念の涙[演奏なし]
  清八 例×306 大スエテ忠臣蔵六ツ目 「推量あれとスエテ血走る眼に無念の涙
287同じく[大スエ]反魂香吃又さりとはつれないお師匠じゃと声をあげて泣きいたる[演奏なし]
  清八 例×306 大スエテ反魂香吃又 「さりとは情ないお師匠じやとスエテ声を上げて泣きいたる
288同じスエテで四段目のスエテは少し違います菅原四段目急度見るより暫くは打守居たりしが
  清八 例×306 大スエテ菅原四段目 「キツト見るより暫らくは四段目スエテ打守りいたりしが
289新内明がらす山名屋情ない今宵別れ私が身や [解説(翻字略)]
  清八 例310 新内 明がらす山名屋 「今宵別れてわしが身や
290新内明がらす山名屋かかる憂き目をみせるのも皆私から起つた事  [解説(翻字略)]
  清八 例311 新内 同 「かゝる憂目を見せるのもみんなわしから起ったこと」
291サハリ廓文章吉田屋夕霧涙もろともに恨みられたりかこつのは色の習と言ひながら 俗に世間でサハリと申しますのはクドキとか[ ]と言う工合になっている。本当のサハリと申しますのは変わった手がございます
  清八 例312 サハリ 廓文章吉田屋 「夕霧涙諸共に恨みられたりかこつのは色の習と言ひながら」
292反魂香吃又それは土佐坊これは土佐の又平光起が師匠の御恩を報ぜんと身にも応ぜぬ重荷をば大津の町や追分の絵にぬるごふんはやすけれど名は千金の絵師の家今墨色を上にけり
  清八 例313 舞 反魂香吃又 「是は又土佐の又平光起が師匠の御恩を報ぜんと身にも応ぜぬ重荷をば大津の町や追分の絵にぬるごふんは安けれど名は千金の絵師の家今墨色を上にけり」
293平家千本桜渡海屋美しき御手を合せ見奉れば気も消え/\
  清八 例315 平家 千本桜渡海屋 「美しき御手を合せ見奉れば気も消え/\」
294[平家]布引瀧四段目三人上戸琵琶いざや諷わん是迚も浮世は夢の現つとやさわあれど恩愛の中心留って腸を断つ魂を動さぬということなし
  清八 例314 平家 布引滝四段目 「いざや諷わん是迚も浮世は夢の現つとやさわあれど恩愛の中心留って腸を断つ魂を動かずということなし」
295鼓歌日蓮記三段目燈火眠る隙間より吹来る風の身に染みて
  清八 例321 鼓歌 日蓮記三段目 「姿も見えず仏壇の燈火眠る隙間より吹来る風の身に染みて
296放下僧伊賀越五つ目政右衛門屋敷市松人形風車七つになる子に殿を持たせ済ました
  清八 例322 放下僧 長柄人柱あしかり道行 三下り放下僧あら面白の水の流れや筆にかくともつきずまじ東には八幡山崎長柄堤を迥れば廻れわすれたりとよ」
297琴唄朝顔宿屋露の干ぬ間の朝顔を照らす日影のつれなきに哀れ一むら雨のハラ/\と降れかし
  清八 例324 琴唄 朝顔日記宿屋 「露の干ぬ間の朝顔を照らす日影のつれなきに哀れ一むら雨のハラ/\と降れかし」
298地唄三十三所壺坂鳥の声鐘の音さえ身にしみて思ひ出すほど涙がさきに落ちて流るゝ妹背の川
  清八 例325 地唄 三十三所壺阪 「鳥の声鐘の音さえ身に染みて思ひ出す程涙が先へ落ちて流るゝ妹背の川を」
299次に地唄がひとつございますけれどこれは三味線なしでございますので略いたしておきます。
  清八 例326 地唄 三十三所壺阪 「エヽ儘よ憂が情か情が憂か露と消えゆく我身の上は」
300祭文安達原三段目お願い申したてまつる今の憂き身の恥づかしさ父上や母様のお気に背きし報ひにて二世の夫にも引別れ泣きつぶしたる目なし鳥二人が中のコレこのお君とて明けてやう/\十一の子を持つて知る親の恩知らぬ祖父様祖母様を慕ふこの子がいぢらしさ不憫と思し給はれとあと歌ひさし
  清八 例327 祭文 安達原三段目 「お願い申し奉る今の浮身の恥しさ父上や母様のお気に背きし報いにて二世の夫にも引別れ泣潰したる目なし鳥二人が中のコレこのお君とて……………以下」
301同じく祭文お駒才三鈴ヶ森不憫やお駒は夫のためかゝる憂き身の縛り縄首にかけたる水晶の数珠の数さへ消えてゆく屠所の羊の歩みより
  清八 例329 二上リ祭文 お駒才三鈴ヶ森 「不便やお駒は夫マの為かゝる憂目のしばり縄首にかけたる水晶の数珠のかずさえ消えて行く」
302同じく祭文替え手お染久松質店尊いも卑いも姫御前の肌触れるのはただ一人親兄弟も振捨てて殿御につくが世の教へ
  清八 例328 祭文 お染久松質店 「高いも低きいも姫御前の肌ふれるのは只一人親兄弟もふり捨てゝ」
303冷泉玉藻前三段目立つる樒の一ト本も
  清八 例330 冷泉 玉藻前三段目 「四隅には立る樒の一ト本も」
304同じくカカリ伊賀越五つ目政右衛門屋敷後から着せる羽織をひつしよなく
  清八 例331 冷泉カヽリ 伊賀越五ツ目 「後から着せる羽織もひつしよなく
305同じく替え手伊勢音頭油屋なく/\硯引き寄せて書き置く筆も命毛も
  清八 例332 冷泉カヽリ 伊勢音頭油屋 「泣く/\硯引よせて書置く筆の命毛も
306江戸冷泉加賀見山長局思ひ詰めたる浮き涙
  清八 例333 江戸冷泉 加賀見山長局 「小文庫に思い詰たるうき涙
307半冷泉彦山九つ目折節竹の音も冴えて
  清八 例334 半冷泉 彦山権現九ツ目 「折ふし竹の音もさえて
308ニシキ御所桜三段目紅に大振袖の伊達模様
  清八 例335 ニシキ 御所桜三段目 「大振袖の伊達模様
309同じく替え手天網島紙治内紐つく帛紗押開き差出す一包み
  清八 例092 ニシキ 天網島紙治 押開き差出す一包
  清八 例336 ニシキ 天網島紙治 「紐つく帛紗押開き差出す一包み
310同じく替え手阿波鳴門巡礼歌豆板のまめなを喜ぶ餞別と紙に包んで持つて出で
  清八 例337 ニシキ 阿波鳴戸八ツ目 「豆板の豆なを悦ぶ餞別と紙に包んで持って出で
311説経玉藻前三段目斯くとは誰も白小袖死出の晴着と姉妹が
  清八 例340 説経 玉藻前三段目 「斯くとは誰も白小袖死出の晴着と姉妹が
312同じく替え手先代萩御殿なんの便りがあろぞいな
  清八 例343 説経 先代萩御殿 「千年万年待ったとて何んの便りが有ろぞいなァ
313説経ガカリ三十三所壺坂寺この世も見えぬ盲目の闇より闇の死出の旅
  清八 例345 説経カヽリ 三十三所壺阪 「此世も見えぬ盲目の闇より闇の死出の旅
314地蔵経彦山九つ目さそはれ帰る稚子の目元しほ/\亡き母と知らでこがるゝ子心に聞き覚へてや拾ひ取り小石積んではかゝ様と慕ふ涙の雨やさめ草葉に落ちておのづから手向の水の
  清八 例346 地蔵経 義仲勲功記上 「地蔵様は六道の能化あなたをお頼申して極楽の道迷はぬ様にいてたもや/\只願はくば地蔵尊迷いを導き給うべし」
315同じくカカリ玉藻前三段目さいの河原をこの世から積む石数も姉妹の年も重目に持つ涙
  清八 例347 地蔵カヽリ 玉藻前三段目 「とく/\と賽の河原を此世から積む石数も姉妹の年も重目に持つ涙」
316詠歌三十三所花の山壺坂寺岩を建て、水をたたへて壺坂の
317同じく詠歌岸姫松三段目飯原兵衛館八千年や柳に長き命寺 この詠歌は普通の詠歌とちがいまして舟歌を加味してございますんでとてもやりにくいんでございます
  清八 例374 巡礼歌 岸姫松三段目 「八千年や柳に長き命寺」 註 岸姫松の詠歌は特長のあるもの
318同じく第二の詠歌岸姫松三段目遠き国より運ぶ歩みを
319舟歌八島日記日向島四海波風静かにて枝も鳴らさぬノンエイ玉の小柳もまれてよれてたどろもんどろ靡き治る八島のエイヨホンホヨホンホホンホン外まで君が代の
  清八 例375 舟歌 娘景清日向島 「棹の歌々四海浪静かにて枝もならさぬ…………以下」
320馬子唄恋女房十段目三吉子別れ泣き声に坂は照る照る鈴鹿は曇る土山間の間の土山雨が降る
  清八 例377 馬子唄 恋女房十段目 「泣声に坂はてる/\鈴鹿はくもる相の土山雨が降る」
321同じく馬子唄伊賀越八つ目中相合傘いやかいの/\いやな風にもよなびかんせまえ
  清八 例378 馬子唄 伊賀越相合傘 「いやかいの/\いやなァ風にもョなびかんせェ
322童歌先代萩御殿しゃくりながらのしめり声こちの裏のちさの木に/\雀三匹止まって/\一羽の雀がいうことにゃ/\アアこれ夕べよんだはなよめ御/\
  清八 例×383 童べ唄 先代萩御殿 「こちの裏のちさの木に/\雀が三疋とまって/\一羽の雀の言う事にや/\わしが息子の千松が/\」
323同じく[童歌]先代萩御殿場紛らす声も震はれてわしが息子の千松が/\アヽコレ七つ八つから金山へ/\一年待てどもまだ見へぬ/\
324俗謡桂川連理柵帯屋七くどいわいナア/\コレその長さんまいるはナア内の子飼いのこの長吉よ
  清八 例×384 俗歌 桂川帯屋 「七くどいわいナア/\コレ其長さん参るはなァ内の子飼の此長吉よ長さま参るお半よりテツヽツツンテレンチチンチンチイチイトチヽヽヽヽ」
325同じく[俗謡]帯屋うれしいごげんの願いまいらせそろう長さま参るお半より
326節季候恋飛脚新口村節季候だい/\代々は節季候お目出度いは節季候
  清八 例×386 節季候 恋飛脚新口村 「節季候だい/\代々は節季候お目出度いは節季候」
327題目忠臣蔵二つ玉南無妙法蓮華經南無妙法蓮華経あれわいさこれわいさよやまかせ
  清八 例×388 ひょうし題目 忠臣蔵二段目[二つ玉] 「南無妙チヨイナ法蓮華経南無妙法蓮華経」
328祈り花上野志渡寺南無金比羅大権現/\/\/\
  清八 例×389 祈り 花上野志度寺 「南無金比羅大権現/\」
329同じく祈り加賀見山長局さうぢゃ/\とちり手水一心無我の手を合せ南無観音様/\南無鬼子母神様/\
  清八 例×390 祈り 加賀見山長局 「南無観音様/\南無鬼子母神さま/\」
○ 念仏
330責念仏摂州合邦辻合邦庵室つゆと消え行くすすめの念仏南無阿弥陀仏/\/\/\/\/\/\
  清八 例×395 責念仏 摂州合邦辻下之巻 「南無まいだ/\/\/\」
331歌念仏忠臣蔵九段目泣く娘共に死骸に向ひ地の回向念仏は恋無常出で行く足も立ち留り六字の御名を笛の音に南無阿弥陀仏/\これや尺八煩悩の枕並ぶる追善供養閨の契りは一夜ぎり 但し枕並ぶるよりは枕念仏となります。
  清八 例×396 歌念仏 忠臣蔵九段目 「回向念仏は恋無常出行足も立どまり六字の御名を笛の音に…………以下一卜夜ぎり」(註)枕ならぶるより枕念仏となる
332地念仏菅原三段目佐太村鉦もしどろに南無あみだ/\南無あみだ/\/\南無あみだ/\/\
  清八 例×397 地念仏 菅原三段目佐太村 「なむまいだ/\/\/\/\」 (註)拍子乱れてなまいだ/\/\/\ は責念仏
333掛念仏桂川連理柵帯屋なまいだ、なまいだ、なまいだ
  清八 例×398 掛念仏 桂川帯屋 「南無阿弥陀/\/\」
334空也念仏[空也念仏※]思えば浮世は程もなし栄華は皆是春の夢冥利の心をとゞめて急いで浄土を願うべし南無阿弥だんぶや/\なもだ/\願ふ浄土は他にあらず聖衆の来迎時を待つ南無阿弥だんぶや/\なもだ/\三界処広けれど到りて留まる処なし譬へば夢にぞ似たりけれ
  清八 例×399 空也念仏   「思えば浮世は程もなし栄華は皆是春の夢冥利の心をとゞめて急いで浄土を願うべし南無阿弥陀ばんぶやなもだ/\」
335合邦内駈け出る玉手のう懐しや俊徳様
  清八 例×400 入 摂州合邦下の巻 「かけ出る玉手ノウ懐しや俊徳様
336同じく入菅原四段目すすみ兼てぞ見へにける小太郎が母涙ながら
  清八 例×401 入 菅原四段目 「小太郎が母涙ながら」
337クセ千本桜すしやお暇乞に参りましたヤアととさんにもお前にも随分おまでおまめでと ことばの中に三味線なしで地合がございます これをクセと申します
  清八 例×402 クセ 千本桜寿し屋 「お暇乞に参りました 親父様にもお前にも随分おまめで/\と
338カカリ廿四孝十種香こんな殿御と添臥の身は姫御前の果報ぞと
  清八 例×404 カヽリ (詞より地合いにカカルとき) 廿四孝四段目 「こんな殿御と添臥の身は姫御前の果報ぞと
339イロガカリ恋飛脚大和往来新口村尽きぬ涙を押しとどめ これはハリマブシよりでた上総の一種でございます
  清八 例×405 イロカヽリ(ハリマより出たる上総の一種) 恋飛脚新口村 「なをも涙を押ぬぐい」
340同じくイロガカリ綱太夫鳴戸 心を鎮め余所/\しく
  清八 例×407 イロカヽリ(綱大夫風) 阿波鳴戸八ツ目 「心をしづめ余所/\しく」
341ヒバリ苅萱高野山暮れゆく秋の眺めには
342鉢タタキ敵討襤褸錦雨[百]夜の数え唄暫しやすろう軒の戸をたたく水鶏のそれにはあらで叩く瓢べの音も冴えて二人連なる鉢たゝき仏も元は思わくの功徳のきづな結んでは抱いて涅槃の長枕かわすさんしたと聞くものをどうしたことの因果やらなもうだ/\ このフシもとても珍しいフシでございます。
  清八 例348 鉢タヽキ 襤褸錦夜の計歌 「叩く瓢べの音も冴えて二人連なる鉢たゝき仏も元は思わくの恋路のきづな結んでは抱いてねはんの長枕かわさんしたと聞くものをどうしたことの因果やらなもうだ/\
343岡崎伊賀越八つ目無慚や肌も郡山の国に残せし女房の思いのたねのうまれ子をだいてはるばる海山をたどり/\て岡崎の 夜道をとぼとぼ歩くときとか夫を尋ぬる時に用いるフシでございます。
  清八 例351 ウタヽキ 伊賀越八ツ目 「無残や肌も郡山の国に残りし女房の」
  清八 例349 岡崎 伊賀越八ツ目 「外は音せで降る雪に」
344同じく岡崎伊賀越沼津ヤツト任せの八兵衛とな杖する度に追従口
345海道忠臣講釈喜内住家祝ひし神送り
346同じく替え手本朝廿四孝下駄場雪の中なる白髪の雪
347相の山恋女房沓掛村つまみ銭煙も立たぬ貧家の軒その日
  清八 例352 相の山 恋女房沓掛村 「いざり仕事のつまみ銭煙りも立ぬ貧家の軒
348同じく替え手布引瀧四段目血筋四筋の糸筋に
  清八 例353 相の山 布引滝四段目 「恩愛の血筋四筋の糸筋に
349同じく替え手廓文章吉田屋胸と心の相の山
  清八 例355 相の山 廓文章吉田屋 「縁と縁胸と心の相の山
350同じく替え手太功記妙心寺是非なく次へ入相の
  清八 例356 相の山カヽリ 太功記妙心寺 「親子三人打連れで是非なく次へ入相の
351小室節一の谷組討鞍のしほでやしを/\と弓手に御首携へて
  清八 例362 小室フシ 一の谷組打 「鞍の塩手やしお/\と弓手に御首携えて
352同じく小室節太功記妙心寺栗毛の駒光秀ゆらりと打ち乗って この小室節は馬にのるときにきっと使う手でございます
  清八 例363 小室フシ 太功記妙心寺 「栗毛の駒光秀ゆらりと打乗って
353有田節堀川猿廻しお猿はめでたやめでたやネ聟入姿ものっしりと/\コレさりとは/\ナウヨウあろかいなさんなまたあろかいな
  清八 例364 有田フシ お俊伝兵衛猿廻し 「お猿は目出度や/\ねェ聟入姿ものつしりと/\コレ去とはノウ有かいなさんない又有かいな」
354オロシ一の谷三段目こは/\思いがけなき御対面と飛退き敬い奉れば
  清八 例365 オロシフシ 一の谷陣屋 「思ひがけなき御対面と飛退き敬い奉れば
355同じく替え手忠臣蔵四段目並み居る諸士も顔見合はせ呆れ果たるばかりなり
  清八 例366 オロシフシ 忠臣蔵四段目 「列いる諸士も顔見合せあきれ果たる斗りなり
356同じく替え手日吉丸三段目対面せんと明智の一声鶴の間の襖左右に押し開かせ悠々然と
  清八 例367 オロシフシ 日吉丸三段目 「襖左右へ押開かせ悠々然と
357大オロシ勧進帳当来にては九品ン蓮台の上に座せん
  清八 例369 大オロシ 勧進帳 「当来にては九品ン蓮台の上に座せん
358音頭佐倉曙下総屋せじよや万じよの鳥追が参りて
  清八 例370 オンド鳥追 佐倉曙下総屋 「表の方にさゝら四ツ竹鳥追がヤンラ目出度やヤンラ楽しやせじよや万じよの鳥追が参りて」
359伊勢音頭勢州阿漕浦平治内古郷は都茲は又
  清八 例371 伊勢オンド 阿漕浦平治内 故郷は都茲は又」
360同じく替え手勢州阿漕浦平治内胴中へ庄屋を案内に打連れて
361木遣音頭三十三間堂柳勇ましや和歌の浦には名所が御座る一に権現二に玉津島三に下り松四に塩釜よヨーイ/\ヨーイトナ
  清八 例372 木ヤリオンド 三十三間堂柳 「勇ましや和歌の浦には名所が御座る一に権現二に玉津島三に下り松四に塩釜よヨーイ/\ヨーイトナ」
362同じく後の[木遣]音頭三十三間堂柳木遣音頭は父が役、かざす扇もしをれ声むざんなるかな幼き者は母の柳を都へ送る元は熊野の柳の露に育て上げたるそのみどり子がヨイ/\ヨイトナ
363馬子唄妹背山四段目竹に雀竹にサ雀はナア品よくとまるナとめてサとまらぬナ色の道かいなア
  清八 例376 馬子唄 妹背山四段目 「立上り竹にさァ雀はなァ品よくとまるナとめてさァとまらぬナ色の道かいなョ
364子守唄天網島紙屋内すかせばすや/\稚子をいぶりながらも口説ごと
  清八 例×379 子守唄 天網島紙治 「すかせばすや/\稚子をいぶりながらも口説ごと
365同じく子守唄忠臣蔵道行やゝ生んでねん/\や/\ねんねが守りはどこへいた
  清八 例×380 子守唄 忠臣蔵道行 「二人が仲にやゝ生んでねん/\や/\ねんねが守りはどこへいた
366糸繰唄伊賀越岡崎来いと言た迚行かれる道か道は四十五里波の上 この唄はなるべくさみしそうに居眠るように唄うのが規則でございます。
  清八 例×382 糸繰唄 伊賀越岡崎 「来たと言た迚行かれる道か道は四十五里波の上」
367万才三十三所壺坂寺観音の御利生ありけるや見えぬ眼も見え明らかにありがたかりける新珠の年立返るごとくにて水も漏らさぬ夫婦の命も助かりけるは誠に目出たう候ひけるけふは嬉しや杖を納めて折しも朝の日の目を拝んでお礼申すや神や仏万見せ給ふはこれひとへに観世音
  清八 例×392 万才 三十三所壺阪 「御利生ありけるや……………以下偏に観世音」
368これより河内地を申し上げます。これは西風でございます菅原三段目佐太村烏帽子子になし下され、御恩は上なき築地の勤め三人のその中に桜丸が身の幸ひ人間の胤ならぬ竹の園生の御所奉公下々の下々たる牛飼舎人勿体なくも身近く召され菅丞相の姫君とわりなき中の御文使ひ仕終せたが仇となつて讒者の舌に御身の浮名つひには謀叛と言ひ立てられ菅原の御家没落是非もなき次第なれば宮姫君の御安堵を見届け
  清八 例×411 河内地 菅原三佐太村 「えぼし子になし下され…………以下御安堵を見届け」
369同じく河内地傾城反魂香吃又もうすも涙がこぼれまする。奥様まではもうせしが
  清八 例×412 河内地 反魂香吃又 「奥様迄は申せしが」
370同じく河内地恋飛脚大和往来新口村世のたとへにも言ふとほり
  清八 例×414 河内地 恋飛脚新口村 「世のたとえにも言通り」
371四段目と申しますとだいたい東風になりまして西風にはございません。そのまた四段目は菅原四段目の中に一箇所だけこの河内地がございます。それを申し上げます
371[河内地]寺子屋春藤玄蕃、首見る役は松王丸 [解説(翻字略)]
372大体三段目は西風と申しまして地味なもんでございますが、中途から四段目にかわります、つまり東風にかわるものがございます。その中の主なる者を申しあげます
372 花上野志渡寺入相の花は昔と散り失せて [解説(翻字略)]
373同じく西風から東風にかわりますもの近江源氏八つ目盛綱館峯吹き通す木枯らし 
374次は三段目西風のかちかちのものでございますけど途中から一箇所四段目になります。つまり東風で語らんならんのが
374 国性爺三の切獅子が城錦祥女はすがり付き一生に親知らずつひに一度の孝行なく何で恩を送らうぞ死なせて給べ母上と口説き嘆けば
  清八 例×418 西風であって途中より東風に変るもの 国姓爺三の切 「錦祥女は縋りつき一生親知らずついに一度の孝行なく何で恩を送ろうぞ」
375同じく三段目から四段目に変わりますもの千本桜すしや神ならず仏ならねど これから東風になるみたいです
376今ひとつ同じく三段目で四段目に変わります安達原三段目祭文あいとは云へど袖萩が久しぶりの母の前琴の組とは引きかへて露命をつなぐ古絃に [解説(翻字略)]
377アテブシ御所桜三段目こればっかりに引かされて三途の川や死出の旅
  清八 例×416 当ブシ 御所桜三段目 「三途の川や死出の旅」
○ これより各太夫の特別の風がございます。
378住太夫風先代萩御殿跡見送りて政岡が 他に加賀見長局・岸姫三段目
379麓太夫風になりますと派手になります太功記十段目残る莟の花一つ、水上げかねし風情にて 十八年がその間 [解説(翻字略)]
380綱太夫風合邦内寝た間も [解説(翻字略)]
381ネジガネブシ心中天網島河庄その涙が蜆川へ [解説(翻字略)]
382次は河庄河庄天満にとしふる千早ふる [解説(翻字略)]
  清八 例×417 ネジカネフシ 天網島河庄 天満に年ふる千早ふる」
383オクリの部で天王オクリが抜けておりましたんで申し上げます
383天王オクリ勧進帳越路の春の急ぐらん御心根ぞ
 

 
※※ 本サイトで使用した音源に欠けている曲節 (番号は飯島資料による)
233スリアゲ『増補忠臣蔵』本蔵下屋敷「これが忠義の仕納めかと。思へば足も」
234スリサゲ『絵本太功記』尼ヶ崎「真柴にあらで真実の母の皐月が七転八倒」
235投込『伊賀越道中双六』岡崎「拙者が金打と。死骸を庭へ投げ捨てたり」
236勇込『箱根霊験躄仇討』箱根滝「瞬く内イザ御出と。勇み立ち」
237割込『菅原伝授手習鑑』寺子屋「五色の息を一時にハツト吹きなすばかり也」
238セリ込『勢州阿漕浦』平次住家「下んせ下んせは。伊勢路にはやる言葉かや」
239責込『彦山権現誓助剣』毛谷村「母様用意と勇み立つ」
240キメ込『源平布引滝』九郎助住家「鞍の前輪に押し付けて。首掻き切つて捨てにけり」
241五重下リ『伊賀越道中双六』沼津「悲しい金の才覚も。男の病が治したさ」
242五重カカリ『仮名手本忠臣蔵』山科閑居「母も追付け後から行く。覚悟は良いかと。立派にも涙留めて立ち掛り」
243四ツ折『碁太平記白石噺』新吉原揚屋「意見上手な親方が籠る情に宮城野が」
244四ツ間『絵本太功記』尼ヶ崎「コレ見給へ光秀殿」
 

参考:曲節一覧(清八の例も含め)に表われない『義太夫節の種類と解説』の曲節
 
 ○太平三重 例057 太功記鉄扇 「せん方涙諸共に御門の外へ
 ○セリコミフシ 例093 天網島紙冶 「心地して一間の内へ
 ○九ツカゝリ 例126 伊賀越岡崎 「菰に積りし雪の儘着せて
 ○上タヽキ 例214 加賀見山長局 「中結ひ〆て玉の緒も今を限りの空結に
 ○ナゲフシ 例240 大江山戻り橋 今日の細布ならずして
 ○投込 例244 伊賀越岡崎 「拙者が金打と死骸を庭へ投捨たり
 ○勇込 例246 いざり滝の段 「瞬く中イザ御出と勇み立ち
 ○割込 例247 菅原四段目 「五色の息を一時にホット吹き出す斗りなり
 ○セリ込 例248 勢州阿漕浦平治内 「下んせ/\/\は伊勢路にはやる言葉かや
 ○責込 例249 彦山権現九ツ目 「母様用意と勇み立ち
 ○キメ込 例250 布引滝三段目 「鞍の前輪に押付て首かき切って捨てンけり
 ○五重下リ 例251 伊賀越沼津 「悲しい金の才覚も男の病が治したさ
 ○五重カヽリ 例252 一の谷陣屋 「いかゞ過行き給うらん未来の迷い是一つ
 ○四ツオリ 例254 白石噺揚屋 「意見上手な親方がこもる情に宮城野が
 ○舞詞 例316 反魂香吃又 「去る程に鎌倉殿義経の討手を向うべしと武勇の達者を選ばれし」
 ○謡 例317 娘景清日向島 「松門独り閉じて年月を送り自ら清光を見ざれば時の移るをも弁へず暗々たる庵室に徒らに眠り衣寒暖に与えざれば肌はぎようこつと衰えたり春や昔の」
 ○吉野山 例357 八陣六ツ目此村屋敷 「早程もなく入り来る上使は片桐市のかみと名乗るは表うら若き姿は花の盛りまつ吉野の山の初桜」
 ○サイ原 例358 梅川忠兵衛新町 「けんの手品の手もたゆく」
 ○シバガキ 例359 妹背山二の切万才 「五本の柱は五畿内安全八重九重の内までも治りなびく君が代の
 ○林清 例360 苅萱高野山 「いたわしや石動丸かゝる難所もたど/\と心も空に浮草の根ざしの父は顔知らず名のみしるべにたずね行く袖の涙ぞあわれなる」
 ○オロシフシ 例368 菅原四段目 「夢か現か夫婦かとあきれて詞もなかりしが
 ○読売 例×385 妹背門松質店 「此間大阪の町々で以下…………大きな声では言はれぬこと/\」
 ○題号 例×387 紙子仕立大文字屋 「格子先妙法蓮華経申すも忝や祖師日蓮大菩薩  以下」
 ○白骨文章 例×391 妹背門松質店 「夫レ人間の浮世なる相つら/\以下」
 

 
六 伝承の現状
 曲節の記録は音声で残すのが一番よい。大正期の文献には三世竹本越路太夫の宝章などが役立つが、昭和で特に進歩したのは録音の記録である。義太夫節の技巧に詳しい七世豊沢広助が曲節の型を分析して解説したレコード『義太夫 節と手順』は、上巻五枚、下巻八枚の両面に基本的な曲節百四十余程を収めて、邦楽同好会から頒布された。
 戦後になって無形文化財を保存する声が高まるにつれて、広助の業績に着目した文部省の文化財保護委員会事務局無形文化課とNHKが協力して、彼に研究させた義太夫の型とその種類を昭和三十年二月十日・十二日に録音した。それより以前、キング特殊盤に吹き込んだ経験のある二世鶴沢清八にも昭和三十三年に吹き込ませた。その時に広助の型を参照して清八が作ったテキスト『義太夫節の種類と解説』をもらったが、清八自筆の識語によると、二月四、五、八、十日の四日間BKで録音、文部技官榎本由喜雄氏が東京から来阪して立合い、局長岡田孝平先生から礼状をいただいたと記している。
 文部省が企画しBKで録音した広助、清八のテープは、演奏者が自ら研究して弾き語りで吹き込んでいるから、昭和の時点における資料として信頼に足るものであるが、両者には若干の違いが認められる。『染模様妹背門松』質店の段の「(いそ/\帰る辻占を)お染は勇み」のハルブシを、広助は春太夫ハルブシとするのに清八は二世此太夫とするが、宮戸太夫の『浄瑠璃発端』には春太夫ハルブシとあるから、広助が正しいのであろう。『伊賀越道中双六』沼津の段の「足に任せて」の三重を宮戸本は引トル三重、広助はシコロ三重、清八はキオイ三重とする。この種の相違は若干見られるが、元来が広助を取入れた清八本であるから、両者に相違がないのが当然であろう。 祐田善雄 「浄るりの系譜」 文学 37(1)p34 1969.1

 
空也念仏テキスト:空也念仏和讃 夕顔
空也念仏和讃
 世の中は只露の間の雨やどり随意の住家は来世なりとはめいかのさとし恐るべし静かに浮世を感ずればあすの命も期しがたし煩俗愚人の済度の為とて都の町を修行し給ふ其の威徳の有がたさ聖人は紫衣に錦の大五條其外役寺役からの御僧供僧の備へを立て黄金のふくべ白銀の瓢をたゝく鉦太皷殊勝にぞ猶法徳の尊とかりける次第なり斯も悟れる宗葉の学ばん事のあらずやと思ひやたる風流このみ春は花見に世をうか/\とうかれ烏の音もつれし夜のとぼそをほと/\と音信くるはたそやと見ればちよつと水鶏の夜の友秋をまねたる尾花は露と寝物語りも有明月のあかぬ別をたが白妙の雪やあられに吹きころぶとも何のいとはん瓢箪酒のとつかけ引かけむだに用ゆる此のふくべあら勿体なや御仏の教へを肖々煩悩のまふや人目の中くゞり中立入ぬ口切と後は浮名の下地窓かけもる月のさしつけて夫と云はねど世の人の口にさる戸も立られず苦舌にとけし茶筅髪にくい頭の鉢たゝき瓢箪ならぬすみとりのふくべの花は夕顔の思へば浮世は程もなし栄花はみなこれ春の夢名利の心をとゞめていそいで浄土を願ふべし、南無阿彌陀仏なもうだ/\願ふ浄土は他にあらず聖衆の来迎時を待つ南無阿彌陀仏なもうだ/\三界所広けれど来りて止まる所たとへば夢にぞ似たりけり。(昭和5年3月文楽座プログラム)
 
夕顔(義太夫・上方唄)
 本調子 浄〽世の中は、たゞ露の間の雨宿り、終の住家は来世なり、とは名歌のさとし恐るべし、静かに浮世を観ずれば、明日の命は期し難し、凡俗愚人を済度のためとて、都の町を修行し給ふ、その恩徳のありがたさ、聖は紫衣に錦の大五條、その外役事役行の五僧九僧の備へを立て、(合)〽黄金の瓢白銀の、瓢を叩く鉦太鼓、殊勝にもなほ法徳の、尊かりける次第なり、(合)〽かくも悟れる宗葉を、学ばん事のあらばやと、思ひ寄つたる風流好み、春は花見に夜を浮か/\と、浮かれ烏の寝もつれし、夜の扉をほと/\と、訪れ来るは誰そやと見れば、ちよつと水鶏の夜の友、秋を招ける尾花が露と、寝物語を有明月の、倦かぬ別れを誰が白妙の、雪や霰と吹来ることも、何の厭はん瓢箪酒を、ひつかけとつかけ無駄に用ふるこの瓢、あら勿体なや御仏の、教へを反く煩悩の、〽盆は切子や提燈の、明石縮か越後布、見え透く物は恋の道、いろほにあらはす豊の年、お前籾擦り私や連枷を、打つや現をぬか仕事。〽かづき手拭染地の模様、しかも揃ひの比翼紋。〽里は都の未申、すきとは誰が名に立てし、濃い茶の色の深みどり、松の位に比ぶれば、〽圍といふも低けれど、情は同じ床飾り、飾らぬまこと明かし合ふ。〽間夫や人目の中くゞり、媒入らぬ口切と、後は浮名の下地窓、蔭洩る月のさしつけて、それと云はねど世の人の、口にさる戸も立てられず、(中略)〽口説に解けし茶筅髪、憎い頭の鉢叩き、瓢箪ならで炭取りの、瓢の花は夕顔の。〽思へば浮世はほどもなし、〽栄華はみなこれ春の夢、名利の心をとゞめて、急いで浄土を願ふべし、南無阿彌陀ン仏や、なもうだ/\/\(合)願ふ浄土は他にあらず聖衆の来迎時を待つ(合)南無阿彌陀ンぶや、なもうだ/\/\、(合)三界処広けれど、到りて留まる処なし、譬はば夢にぞ似たりける、(合)〽既に光陰はや時移り、彌陀の迎ひに西へ行く(合)心一つに違はずば、骨と皮とに身はならばなれ、一度南無阿彌陀仏といへば、上がる蓮のその極楽を、はるけきほどと云ひ伝ふれど、我が勤むる処はいかに、後世も前世も空々寂々、空也上人お家の瓢箪、どつと打ち連れ打ち連れて、千代の始めの一踊り、先づはめでたく帰りけり。(京舞井上流歌集p465-468 1965.3.10)「文楽でも“空也念仏”として上演されている。狂言“福部の神”(鉢叩)に暗示を得たものか。紀海音作“傾城無間鐘”四段目にも鉢叩きが取り入れられているが、本曲と直接の関係はない。」([片山]博通)、「青字部分は地唄「女手前」による」と注記されている。