【 義太夫節の種類と解説 二世鶴澤清八 】

 
参考:田中 悠美子 義太夫節基本地の整理・分類試案 楽劇学(8) /2001.3 39-68 
 鶴沢清八については 飯島満:二代目鶴沢清八『義太夫 名人の型』―「明治文楽」追懐―参照
 飯島満:資料紹介 二代目鶴沢清八『義太夫節の種類と解説』 無形文化財の伝承に関する資料集 33-59 (2011.3.31)に、全文が音源の有無と併せて掲載された。(原本の傍線が一部削除されている。)

内容 

(1)「オクリ」
    宮戸オクリ 武者オクリ 林清オクリ 中オクリ、ウラフシオクリ、小オクリ、 フシオクリ、ウオクリ 、相の山オクリ、ヲンドオクリ、ハズミオクリ、オクリカヽリ、ギンオクリ、イロオクリ、駒太夫オクリ 、
(2)「三重」p18
    引取三重、上三重、下三重、ウレイ三重、ウレイ三重カヽリ、念仏三重、キオイ三重、サグリ三重、大三重、道具返し三重、太平三重、
(3)「フシ」p24
    ハルフシ、ツギフシ、地ウ、地ハル、地上ウ、本ブシ、フシハルカヽリ、地フシ、地フシハルカヽリ、ウフシ上、ウフシ、地ウフシ、中フシ、本ブシカヽリ、ワリ三ツユリフシ、ニシキ、セリコミフシ、色三ツユリ雛型ブシ、フシカヽリ、
(4)「 大落し又落オトシ」p33
    大落シ、筑前オトシ、中オトシ、カズサオトシ、ケイジオトシ、キオイオトシ、文弥オトシ、
(5)「ユリ」p37
    二ツユリ、三ツユリ、中フシ三ツユリ、裏三ツユリ、フシアト三ツユリ、四ツユリ、五ツユリ、六ツユリ、七ツユリ、九ツユリ、九ツカヽリ、ツキユリ、ユリナガシ、オルユリ、キオリユリ、ユリフシ
(6)「地ウギン」p43
    枕のウギン、ウギン、ハリギン、中ギン、ツリギン、ユリギン、地中ギン、ウラギン、揚ギン、江戸ギン、地ハルフシ、地色ハル、地色ウ、地色上、色ドメ、地色中
(7)「ハズミ」p50
   ハズミフシ、ハズミ津賀太夫クセ、江戸ハズミ、ノリハズミ、モロハズミ、拍子、ノル、本ノリ、中ノリ、大和地とはノルて、トルと言事、トルカヽリ、上クル、クルカン、クリ上ゲ、八ツグリ、上八ツグリ、ヒロイ、長地、長地カヽリ、矢トメ上、カン、 ウレイハルフシ、ハズミハルフシ、ウキンハルフシカヽリ、ハルフシカヽリ、アシライ
(8)
    タヽキ、上タヽキ、下タヽキ、ハルタヽキ、中タヽキカヽリ、ウタタヽキカヽリ
(9)p63
    ハルフシ大マワシ、小マワシ、六法、ウラ六法、ウレイ六法、位フシ、行儀、ケイジ、雛型フシ、シヤキリ、シヤリセン、伐害(ザンガイ)、ナゲフシ、八文字六法、乱レ、ツナギ、投込、勇込、割込、セリ込、責込、キメ込、五重下リ、五重カヽリ、四ツオリ、四ツ間
(10)p72
    ハリマ、ハリマカヽリ、ハリマ重ネ、文弥、表具、表具カヽリ、表具クズシ、表具重ネ、土佐ブシ、角太夫ブシ、外記、江戸、半中、半太夫、繁太夫、道具屋、道具屋カヽリ、宮園、スエテ、スエカヽリ、新内、サワリ
(11)p85
    舞、平家、舞詞、謡、鹿オドリ、鼓歌、放下僧、琴歌、地唄、祭文、二上リ祭文、メリヤス、冷泉、冷泉カヽリ、江戸冷泉、半冷泉、ニシキ、説教、説教カヽリ、地蔵経、地蔵経カヽリ、鉢タヽキ、岡崎、ウタヽキ、相の山、相の山カヽリ、吉野山、サイ原、シバガキ、林清、小室フシ、有田フシ、オロシフシ、大オロシ、オンド鳥追、伊勢オンド、木ヤリオンド、巡礼歌、舟歌、馬子歌、子守唄、糸繰唄、童ベ歌、俗歌、節季候、題号、ひようし題目、祈り、白骨文章、万才、責念仏、歌念仏、地念仏、掛念仏、空也念仏、入、クセ、読クセ、カヽリ、イロカヽリ、同(綱太夫風)、雲雀ブシ、河内地、大和地、当ブシ、ネジカネフシ、西風であって中途より東風に変わるもの、各太夫の特色ある語り風
 
  オクリの部
 
「オクリ」と云う事は一つの場面に最初に、又中途にして変わる時に用うる。
即ちマクラにある事にて此外に文章に依て「三重」もあれど大体は「オクリ」なり。
この「オクリ」にも種々あって「東風」「西風」或は「三段目」「四段目」「世話場」「端場物」等、これ等は皆夫々語り方、弾方も出しものに依て色々あり。
又東風の中にも色々風がある。
 
 東風の中 四段目物即ち
先代萩御殿 押明け入リにける
菅原四段目 引連れ急ぎ行く
太功記十段目 一間へ入りにけり
廿四孝四段目 伏戸へ行く水の
  以上の四つはふつうの四段目に弾くのである
 
 「世話物」は多少簡単で
恋飛脚新ロ村 前へさしかかる
阿波鳴戸八ツ目 道へ立帰る  等
  此の二つは初めのオクリはサラリと弾くこと
 
 東風三段目物にては
千本桜寿しや これはマクラ弾出しは三下り歌で中ホドニ「オクリ」あり この所少しサラリと弾き語るも亦その通り
 
 西風三弾目物にては
源平布引滝実盛物語の段 出して走り行く
 
 西風四段目物にては
花上野志度寺 泣く/\立って行く 等
 
  以上二つは大物時代故初めの「オクリ」は大時代に弾くのである。
 
又摂州合邦辻合邦内の段は四段目のオクリで弾くのであるが“しんたる夜の道”というこの夜の道という地ハルは普通の“ん”と違うのである。
 
忠臣蔵四段目 引添い<只のオクリ>御菩提所へと急ぎ行く
 
○宮戸オクリ
心中天網島紙治 すぐに仏なり
菅原三段目佐太村 あらず戻られし 等
  この二つの切場だけ宮戸オクリである。
 
  文章中のオクリ(一段の中にあるオクリ)
 
○武者オクリ
一の谷陣屋の段 呼はる声と諸共に一間へこそは入相の
千本桜寿し屋 梶原平三縄付引立て立帰る
 
○林清オクリ
三十三間堂柳 杖は我子を力草柳が元ヘとたどり行く
廓文章吉田屋 編笠の中の座敷へ通りける 
 
○中オクリ
日蓮記三段目 心定めて表の方 川辺に
太功記十段目 矢叫の声かまびしく <中オクリカヽリ>手に取る如く聞ゆれば
先代萩御殿 うば玉の 涙をかくすうない髪
 
○ウラフシオクリ
妹背山三段目 あなたの岸より
 
○小オクリ
忠臣蔵四段目 かゝる折にも花やかに 奥は  外にも沢山あり
妹背山二段目の中 大君の供御のしかけの米粒を 撰(え)るも女中の
○ この小オクリは特別のものである
 
○フシオクリ(又はケイジオクリとも云う道行には必ずあり)
千本桜道行 大和地さして
妹背山道行 歩むにくらき
 
○ウオクリ
太功記十段目 首途を祝う熨斗昆布 結ぶは
忠臣蔵九段目 見付たるほゝ笑顔 真深にきたる<フシドメ>帽子の内
 
○相の山オクリ
揚巻助六大文字屋の段 奥の間へ襖押明け入りにける
 
○ヲンドオクリ
忠臣蔵七段目 みれんになさで置くべきかと騒ぎに 紛れ入りにける
 
○ハズミオクリ
桂川帯屋の段 あとに引添い出来合の 壷をかぶった色事師打連れ
ひらかな盛衰記さかろの段 つなげる手船の渡海作り とも綱
 
○オクリカヽリ
恋娘昔八丈城木屋 そこひ闇 とぼ/\奥へ入りにけり
加賀見山長局 唱えんものと一間なる 仏間をさして日も西へ
安達原三段目 次第/\に降り積もる
 
○ギンオクリ
玉藻前三段目 淋しき黄昏や 間毎を照らす銀燭の
先代萩御殿 かたえに飾る黒柵より 取出す錦の袋物
加賀見山長局 三日月も 入るさの影の
  (註)オクリも世話場に弾く時はサラリと弾くこと。又二段目と三段目、四段目と各違いあり、特に駒太夫風は特別の音づかいがあって他のものと大変違っている。
 
○イロオクリ
楠三段目 手を引き合うておじうばは一間へ
 
○駒太夫オクリ
一の谷二段目切 こそは急ぎ行く
 
 
  三重の部
  起原は十二段草紙の中の侍女が三重の階段を降りる時のフシとも云うがそれより以前平家琵琶より取りしものが本当であらう。
 
○引トリ三重
増補忠臣蔵本蔵下邸 行く水の
 
○上三重
三十三所壺阪 <コレハ高ク云ウコト>たどり行く
 
○下三重
鎌倉三代記八ツ目 入相時[過]
忠臣蔵四段目 浮世なれ  マクラ故此三重は低く云うこと
 
○ウレイ三重
伊賀越沼津 合はす火影は親子の名残りあとに 見捨てゝ別れ行く
 
○ウレイ三重カヽリ 
中心講釈喜内住家 笑い顔 <ウレイ三重カヽリ>志おれ <キオイ三重ニナル>勇んで 出て行く
 
○念仏三重
忠臣蔵九段目 一夜ぎり 心残して出て行く
 (註)九段目段切を念仏三重ということ摂津大掾より教授されしもの
 
○キオイ三重
加賀見山長局 奥の間へ真一文字にかけり行く
伊賀越沼津 瀬川に続く池添も足に任せて 慕い行く
 
○引取三重 (又は吟三重とも云う)
忠臣蔵七段目 明りを照らす障子の内 蔭を隠すや
中将姫雪責 引出す 余所の見る目も
 
○サグリ三重 (盲人の這入る場合に用う)
朝顔日記宿屋 女の念力あとを慕うて<サグリ>
三十三所壺阪 御寺のさして<サグリ>たどり行く
 
○大三重
菅原伝授道明寺 思いにせきかぬる涙の玉の
 
○道具返し三重
 (註)道具の変る時に用う。一段の中にあり、又マクラに用うることもある。壺阪、沼津等外にも沢山あり
 
○太平三重
太功記鉄扇 せん方涙諸共に御門の外へ
 
  総体に大物又は風のある物は丁寧に弾くこと。又語るもその通り、只の三重又は世話場の三重は総体にアツサリ語り、又三味線もその通り弾く。
  マクラから三味線より弾出して語るもあり、即「壺阪」、「寿しや」等
  尚「城木屋」「沓掛村」「夏祭三婦内」の三つが鹿オドリでこの沓掛村だけ別に弾出しもある
 
 
  フシの部
 
○ハルフシ(註 ハルフシは初代春大夫より始まる。ハルフシの元祖なり フシハルも亦その通り 如何なる段にも沢山あり)
 
一の谷陣屋 相模は障子押開らき
廿四孝十種香 流れと人の簑作が
菅原三段目佐太村 鉦打納め  これは初代此大夫風のハルフシである。
太功記十段目 やう/\涙押止め
忠臣蔵七段目 思いついたる延べ鏡 <フシハル>出して写して読取る文章
楠三段目 今爰に思い合せし河内の国
 
 「ハルフシ」の各名人特演例
二世此大夫 お染久松質店  いそ/\帰る辻占をお染は勇み
二世綱大夫 阿漕浦平治内  仕習い安き下司仕事
初代鐘大夫 廿四孝十種香  こなたには心そゞろに
重大夫 朝顔日記宿屋  暫しは旅とつゞりけん昔の人の筆の跡
 
○ツギフシ
太功記十段目 百万石に増るぞや  丸本には中フシとあり、五字落しとも云う
 
○地ウ、地ハル
千本桜寿しや 思し召されん申釈 <地ウ>過つる春の頃
太功記十段目 <ハルウ>解けて逢夜のきぬ/\も
阿波鳴戸八ツ目 <地ハルウ>言ひつゝ内に針箱の
マ一度顔をと<地上>引きよせて
忠臣蔵六段目 <地ハルウ>扨も/\世の中におれが様な因果なものが
 
○地上ウ
先代萩御殿   遉が女の愚に返り人目なければ伏し転び死骸にひしと抱きつき前后不覚に歎きしは理り過ぎて道理なり
 
○本ブシ
天網島紙治 定木を枕転寝の 当る炬燵の小春時
忠臣講釈喜内 舁いて出たる亡骸に 書残したるもしほ草
 
○フシハルカヽリ
三十三所壺阪 斯かることとは露知らず
加賀見山長局 とまり烏の泣きつれて
 
○地フシ
阿波鳴戸八ツ目 巡礼に御報謝と 言うも優しき国訛り
 
○地フシハルカヽリ
三十三間堂柳 早東雲の街道筋
 
○ウフシ上
三十三間堂柳 哀れと思し 給はれよ
 
○ウフシ
三勝半七酒屋 泣音とどむるうき思い
 
○地ウフシ
箱根霊験記滝の段 <地>猫なで声の<ウフシ>面憎さ
花上野志度寺 あんぐりと刀を鞘に <ウフシ>納めた顔
恋女房沓掛村 受取と 揚り口に <ウフシ>だるま催促
 
○中フシ
三勝半七酒屋 園もうぢ/\ 手を仕え
菅原三段目佐太村 御恩も送らず先立不幸 御赦されて下れい
一の谷陣屋 胸もせまりて悲しやと くどき嘆かせ給うにぞ
 
○本ブシカヽリ
太功記十段目 三人は涙押包み 奥の仏間と湯殿口入るや
三十三所壺阪 声すみて いとしん/\と殊勝なる
 
○ワリ三ツユリフシ
天網島紙治 内に情ぞこもりける
 
○ニシキ
天網島紙治 押開き差出す一包
 
○セリコミフシ
天網島紙冶 心地して一間の内へ
 
○色三ツユリ雛型ブシ
天網島紙冶 心の限りくどき立て 恨み歎くぞ誠なる
 
○フシカヽリ
歌祭文野崎村 五条袈裟 思い切ったる目の中に
三十三所壺阪 哀れなりける次第なり
 
 
  大落シ又オトシの部
 
  (註)大落シは各段に沢山あり、又段によってはないものも沢山あり
 
○大落シ
太功記十段目 雨か涙の汐境浪立騒ぐ如くなり
 
○筑前オトシ
忠臣蔵四段目 忠臣義心の名を揚し根ざしは斯としられけり
加賀見山長局 錦とかわる麻のきぬ女鑑と知られけり
秋津嶋の段 連れて聞ゆる夜明の鐘これぞ此世の別れなり
 
○中オトシ
菅原三段目佐太村 有様は物狂はしき風情なり
増補忠臣蔵本蔵下邸 流れて外へ小柴垣庭にふちなす斗りなり
  (何れも文弥オトシでやる場合もある)
 
○カズサオトシ
菅原四段目 門火/\と門火を頼み頼まるゝ
 
○ケイジオトシ ( 駒大夫風)
一の谷二段目流しの枝 痛はしくも亦道理なり
 
○キオイオトシ
伊賀越岡崎 抱き入れたる我が身も雪と消ゆべき風情なり
明烏山名屋 流す涙は春雨に雪解け乱す斗りなり
三勝半七酒屋 涙浪花江泉川小きんを汲出す如くなり
歌祭文野崎村 榎並八ケの落し水ひざの堤や越えぬらん
 
○文弥オトシ(文弥オトシは丁寧に弾くこと 語りも亦同じ)
太功記十段目 曇りなき涙に誠あらはせり
北条時頼記女鉢の木 無用になして給はれとよいや/\とてもこの身は埋れ木のいつのさかりにいつの花いつの時をか待つべきぞ只徒らなる鉢の木を御身のために焼くならば是ぞ株康(サイクワ)きつ水の法の薪と思しめせ
 
 
  ユリの部
 
○二ツユリ
安達原三段目 身に応ゆるは血筋の縁
 
○三ツユリ
玉藻前三段目 胸にひつしと萩の方途方涙に暮れ給う
 
○中フシ三ツユリ
桂川帯屋の段 胸に釘打つ長右衛門面目涙に暮れ居たる
妹背の門松質店 夢合せ幾瀬の思いぞ辛気なる
歌祭文野崎村 気の毒さ振りの肌着に玉の汗
 
○裏三ツユリ
忠臣蔵九段目 只アイ/\も口の内帽子まばゆき風情なり
 
○フシアト三ツユリ
一の谷陣屋 よるもよられず悲しさの千々に砕くる物思い
 
○四ツユリ
菅原四段目 散りぬる命是非もなや
 
○五ツユリ
廿四孝三段目 此手柏の二タ面まゝならぬこそ恨みなれ
 
○六ツユリ
廿四孝四段目 いはいに向い手を合せ
 
○七ツユリ
お初徳兵衛教興寺 どちらをさしてよかろうやらと三人うろうろ立ちさわぐ
 
○九ツユリ
千本桜寿し 預りましたとどうと伏し身を震はして泣きければ
 
○九ツカゝリ
伊賀越岡崎 菰に積りし雪の儘着せて
 
○ツキユリ
揚巻助六大文字屋 とつかわ出るもゆっくりと泣に逝ると哀れなり
 
○ユリナガシ
お俊伝兵衛堀川の段 仰ぐも我れを渋団扇眼さえ不自由な暮らしなり
 
○オルユリ
歌祭文野崎村 骨身に応え久松お染何と返事もないじゃくり
 
○キオイユリ
累物語埴生村 いそ/\として彼の男納戸へこそは入りにけり
 
○ユリフシ
廿四孝四段目 立戻って手を合はせ御経読誦の鈴の音
千本桜寿し屋 知らぬ道をば行き迷う
 
 
  地ウギンの部
 
○枕のウギン
お俊伝兵衛堀川 同じ都も世につれて
蝶花八ツ目 秋は殊更物淋し
 
○ウギン
お俊伝兵衛堀川 詞に否も泣顔を隠す硯の海山と
白石噺揚屋 部屋は上品奥二階箪笥長持鏡台の
 
○ハリギン
加賀見山長局 胸撫で下ろし手を組んで思い詰たる其顔色
忠臣蔵九段目 枝打払えば雪散って延るはすぐなる竹の力
妹背の門松質店 心は爰に沖の船裾もほら/\走り行く
歌祭文野崎村 燃ゆる思いは娘気の細き線香に立つ煙
 
○中ギン
加賀見山長局 憂涙包むに余る小風呂敷
一の谷陣屋 纜にや障子に写るかげろうの
玉藻前三段目 綾錦袋の紐をとく/\と
忠臣蔵九段目 鴨居にはめ 雪にたわむは弓同然
 
○ツリギン
勢州阿漕ヶ浦平治内 思いやるせも涙の雨身に降りかゝるを身に受けて
 
○ユリギン
伊賀越岡崎 両腰そっと道端の雪かき集め押隠す
 
○地中ギン
太功記妙心寺 父に替って某が軍配取って一戦に
和田合戦市若初陣 礼義に隠す涙の袖縋れば払う愛別離苦
 
○ウラギン
花上野志度寺 偏に願上ますと額を土にうづくまる
一の谷組打 告知らす事有りて須磨の磯辺へ出られしが
 
○揚ギン
一の谷陣屋 さらば/\おさらばの声も涙にかきくもり
玉藻前三段目 そのお言葉たとえ何れの胤なりとも
 
○江戸ギン
橋弁慶 肌に練の御あはせ・・・・・以下
 
○地ハルフシ
増補忠臣蔵本蔵下邸 我身ぞ知る三世の縁も浅草の
一の谷三段目陣屋 申し上ぐれば御涙を浮め給い
 
○地色ハル
菅原四段目 かゝる所へ春藤玄番
恋飛脚新口村 言葉の端に孫右衛門
 
○地色ウ
千本桜寿し屋 様子聞たか <此間ホス>< いがみの権太
 
○地色上
三十三所壺阪 ハハ、ハアヽヽヽヽ有難や忝なや
 
○色ドメ
太功記十段目 はっと驚き口に手を当て
太功記十段目 かけ戻ってハッタとにらみ
 
○地色中
玉藻前三段目 母の嘆きにかきくもる
 
 
  ハヅミの部
 
○ハヅミ
増補忠臣蔵本蔵下邸 主人桃の井若狭之助忍びと
八陣政清本城 我本城へ我ながら
忠臣蔵道行 さった峠にさしかゝり見返れば
 
○ハヅミフシ
菅原四段目 松王は駕にゆられて立帰る
橋弁慶 糸かず
 
○ハヅミ津賀太夫クセ
いざり滝の段 こいつは叶はぬと逃て行く
 
○江戸ハヅミ
蝶花形八ツ目 まだ十才の腕白ざかり
 
○ノリハヅミ
八陣ハツ目 母上さらばと言捨てゝこそ欠り行く
 
○モロハヅミ
蝶花形八ツ目 股立ちりゝしく身ごしらえ
 
○拍子
堀川猿廻し 聟入姿ものつしりと/\
ひらかな盛衰記さかろ ヤツシイシヽヤツシツシ シヽヤツシツシ
 
○ノル
堀川猿廻し アヽいやゝの/\アヽあた世話な家持よりは金持に
太功記十段目 コレ見給へ光秀どの・・・・より以下
菅原四段目 私が倅は器量よしお見違え下さるなと
 
○本ノリ
太功記十段目 現はれ出たる武智光秀 の出の合の手
 
○中ノリ
菅原四段目 さらば/\北嵯峨の御かくれが・・・より以下
 
○大和地とはノル事
反魂香吃又 よい所へ酒肴幸い/\盃も戴いて
 
○トルと言事
恋娘昔八丈城木屋 堅い商売城木屋と門に印しの杉ならで
一の谷二の中 弓手に御首たずさえて
 
○トルカヽリ
菅原三段目佐太村 なむあみだ笠打かぶり西え行く足
伊賀越沼津 稲村の影に巣を張り待かける
 
○上クル
太功記十段目 はら/\/\雨か涙の汐ざかい
三十三所壺阪 折りしも坂の下よりも詠歌を道のしおりにて
日蓮記三段目 わっと斗りに泣倒れ正根正体なかりしが
 
○クルカン
三十三所壺阪 かゝる憂目は先の世の報いか罪かエヽ情なや
 
○クリ上ゲ
菅原四段目 疱瘡まで仕舞うた事じやとせき上てかっぱと
太功記十段目 祝言さえも済まぬ内討死とは曲がない
 
○八ツグリ
一の谷陣屋 聞えぬ我子やなつかしの此笛やと
 
○上八ツグリ(又はカン五字落シとも云う)
忠臣蔵山科 白髪のコレ此首聟殿に進ぜたさ
先代萩御殿 誠に国の礎ぞや
 
○ヒロイ
明がらす山名屋 そつと高欄より塀の外面を見下して
阿波鳴戸八ツ目 ドレ/\報謝進ぜよと盆に白げの志し
 
○長地
朝顔日記宿屋 娘御雪は身に積る嘆きのかずの重なりて塒失う目なし鳥
三勝半七酒屋 世のあじきなさ身一つに結ぼれ解けぬかた糸の
 
○長地カヽリ
合邦ヶ辻庵室 親里も今は心の頼みにて
三十三所壺阪 まめやかに夫の手助け賃仕事
三十三間堂柳 じっとこらえて立寄れど得も岩代の結び松
 
○矢トメ上
千本桜寿し屋 母は取付天命知れや不幸の罪
可愛や金吾は深手の別れ
忠臣蔵七ツ目 ヤア/\/\夫はマア本かいなア
 
○カン
恋飛脚新口村 永き親子の別れとも安方ならで安き気も
三勝半七酒屋 去年の秋のわづらいにいつそ死んで仕舞うたら
阿波鳴戸八ツ目 こんなむごい親々が広い唐にも天竺にもま一人と有物かと死骸に我顔を押あて/\抱きしめ流涕こがれ伏沈む
 
○ウレイハルフシ
朝顔日記宿屋 呼立る無残なるかな秋月の
御所桜三段目 始終の様子聞く信夫
 
○ハヅミハルフシ
和田合戦三の切 館をば出るも思い見る思い
 
○ウギンハルフシカヽリ
玉藻前三段目 露を待間やかげろうの哀れはかなき有様を
 
○ハルフシカヽリ
一の谷陣屋 武士を捨て住所さえ定めなき
 
○アシライ
菅原四段目 されば/\北嵯峨の御かくれ家時平の家来が聞出し召取りに向うと聞それがし山伏の姿となり危い所奪い取ったり
 
○タヽキ
白石噺揚屋 宮城野が部屋は上品奥二階
廿四孝四段目 鈴ンの音こなたも同じ松虫の
お俊伝兵衛堀川 薄き親子の契りやと枕につとう露涙
 
○上タヽキ
加賀見山長局 中結ひ〆て玉の緒も今を限りの空結に
 
○下夕タキ
花上野志度寺 伏し拝む手に露なみだ
 
○ハルタヽキ
太功記十段目 急がるゝ物ぞいのと泣々取り出す緋威の
三十三所壺阪 乱るゝ心取直し上る段さえ四ツ五ツ
 
○中タヽキカヽリ
玉藻前三段目 取出す用意の褥四隅には
先代萩御殿 楽ならでお末が業を信楽や
 
○ウタタヽキカヽリ
太功記十段目 別れの涙かゝれとてしもうば玉の
日吉丸三段目 片時も思い忘るゝひまもなう
 
大マワシ
恋飛脚新口村 落人の
 
○小マワシ
妹背門松質店 草鞋とく/\お上へ揚り
蝶花形八ツ目 心も先きえ飛石伝い
 
○六法
太功記十段目 真柴が武勇仮名書きに
玉藻前三段 しぼり兼たる朝日の袂と
三勝半七酒屋 茜染今色上し艶で姿
 
○ウラ六法
菅原四段目 あとは門火にえひもせず
 
○ウレイ六法
迎駕聚楽町 小梅も梅の花ちらしやがて茜の知るべまで
 
○位フシ
忠臣蔵四段目 入来る上使は石堂右馬之丞
 
○行儀(位オチとも云う )
忠臣蔵六段目 身をへり下り述ければ
忠臣蔵九段目 御用意なされ下さりませと相述る
 
○ケイジ
道行物は全部ケイジにて一番派手な語り風なり
 
○雛形フシ
忠臣蔵九段目 もう比処かえわしや恥しいとなまめかし
 
○シヤキリ
忠臣蔵九段目 由良殿と言うも涙にむせ返れば
 
○シヤリセン
忠臣蔵九段目 むせ返れば妻や娘は有るにもあられず
 
○伐害(ザンガイ)(これは片輪の人のある場につくフシ)
安達原三段目 申し/\と伸び上り
いざり滝の段 心ばかりは勝五郎
三十三所壺阪 細き心も細からぬ
花上野志度寺 いかにがんぜがない迚ても
 
○ナゲフシ
大江山戻り橋 今日の細布ならずして
 
○八文字六法
戻り駕 恥し乍ら咄しませう花よ/\と金やる客は志んぞぶり出す八文字
 
○乱レ
伊賀越沼津 サヽ御座れと先に立つ平作は千鳥足辛度が利になるこんにやくの砂になるかと悲しさに
 
○ツナギ
恋飛脚新口村 馴れぬ旅路を忠兵衛がいたわる身さえ雪風に
 
○投込
伊賀越岡崎 拙者が金打と死骸を庭へ投捨たり
然らば御免と
 
○勇込
いざり滝の段 瞬く中イザ御出と勇み立ち
 
○割込
菅原四段目 五色の息を一時にホット吹き出す斗りなり
 
○セリ込
勢州阿漕浦平治内 下んせ/\/\は伊勢路にはやる言葉か
 
○責込
彦山権現九ツ目 母様用意と勇み立ち
 
○キメ込
布引滝三段目 鞍の前輪に押付て首かき切って捨てンけり
 
○五重下リ
伊賀越沼津 悲しい金の才覚も男の病が治したさ
 
○五重カヽリ
一の谷陣屋 いかゞ過行き給うらん未来の迷い是一つ
忠臣蔵九段目 覚悟はよいかと立派にも涙留めて立かゝり
 
○四ツオリ
白石噺揚屋 意見上手な親方がこもる情に宮城野が
 
○四ツ間
太功記十段目 コレ見給へ光秀殿 外にもクドキの場合に沢山あり
 
 
○ハリマ
玉藻前三段目 斯くと知らせに館の後室衣紋正しく出迎い
忠臣蔵六ツ目 縞の財布の紫摩黄金仏果を得よと言ければ
  (註)東風なればヲン(のんびり語る)西風なれば少し早くスネル
 
○ハリマカヽリ
菅原四段目 立派なやつ健気な八つや九つで
 
○ハリマ重ネ
千本桜寿し屋 若葉の内侍は若君を宿ある方へ預け置き
反魂香吃又 将監も不便さのともに心も乱るれど
 
○文弥
先代萩御殿 忠と教へる親鳥の
日蓮記三段目 しお/\と涙汗手に舁入て
鎌倉三代記八ツ目 聞納めと思へばよわる後髪
廓文章吉田屋 引けば破れるつかめば跡に師走浪人昔は槍が迎いに出る今はやう/\長刀の
忠臣蔵六ツ目 涙さえ出ぬわいやいノウいとしや与一兵衛殿
伊賀越沼津 親子一世の逢初の逢納め
妹背山三の切 サアかゝさん切て/\と身を惜まぬ我子の覚悟にはげまされ
いざり滝の段 泣上戸めったやたらに腹立上戸
中将姫雪責 けさまでも痛わりかしずく身なりしに
 
○表具
忠臣蔵七段目 数に入ってお供に立たん小身物の悲しさは
中将姫雪責 詮義に姫は顔を上げ愚かの仰せ候らうぞや
お俊伝兵衛猿廻し 暫し此世を仮ぶとん薄き親子の契りやと
花上野志度寺 乳母が亡き跡亡き父の
摂州合邦辻下の巻 かゝるけやけき姿をば
蝶花形八ツ目 捨つる命の有難き
菅原三段目佐太村 枯れし命の桜丸
 
○表具カヽリ
お俊伝兵衛猿廻し 此世に残っている気はあるまいいずこいかなる国の果
 
○表具クズシ
恋飛脚新口村 懐ろに温められつ温めつ
お俊伝兵衛猿廻し そも逢かゝる初めより末の末まで言かわし
 
○表具重ネ
千本桜寿し屋 栄華の昔 父の事思い出され御ひざに落つる涙ぞ
 
○土佐ブシ
三略巻橋弁慶 西塔の武蔵坊弁慶は其頃都にありけるが五条の橋には人を悩ます曲者有しと聞しかば夫を従へ召使はんと心も空も晴るゝ夜も月も音羽の山の端に出立鎧は黒皮威好む所の道具には熊手ない鎌鉄の棒…………以下
 
○角大夫ブシ
三十三間堂柳 名を揚げてたもや母は今を限りにて
 
○外記
大江山保昌館 ヤア/\怪童尋ぬる母は爰にありとくとく出よと呼はったり
 
○江戸
太功記十段目 三衣に替る陣羽織小手脚当も優美の骨柄悠然として
岸姫松三段目 間の襖を踏ひらき 司姫を小脇にかゝえ勢い込んで義秀が
 
○半中
恋飛脚新口村 落人の為かや今は冬枯れてすゝき尾花はなけれども
紙子仕立大文字屋 かげも心もかきくもるお松と言へど色かわる
歌祭文野崎村 切っても切れぬ恋衣や元の白地をなま中にお染は思い久松が
桂川帯屋の段 信濃屋のお半は胸のうさつらさ余所目を包む振袖の
桂川帯屋の段 <半中サハリ>私しも女の端じやもの大事の男を人の花腹も立をし悋気の仕様もまんざらに知らぬでなけれども可愛い殿御に気をもまし煩いでも出ようにと案じ過して何にも言はず六角堂へお百度も
お俊伝兵衛猿廻し ツイ一ト通りで逢うた客深い訳でもないわいなァ
襤褸錦百夜の計歌 いたわしや少将は百夜通えどゆうやみの笠に降る雪積る雪恋の重荷と打かたげ涙のつらゝをけしなき
[○鉢たゝき]
信仰記花子芥子畑 又もや雨が降るの神杉夜半も過ぎんいざやいなうと言たれば
 
○半大夫
祇園信仰記 あゝ申しその足元ではあぶない夜道せめてこれをといひ筒守りをブラ/\/\とかけて結んで付まとわれて猶も思いがまさきのかづらたぐりくる/\いつともなしに
妹背山四段中 されば恋する身ぞ辛らや出るも入るも忍ぶ草露ふみ分けて橘姫
 
○繁大夫
天網島河庄 紙治さんと死る約束親方にせかれて逢瀬も絶え差合有って今急に請出す事も叶はず南の元の親方と此処とにまだ五年ある年の内………………以下其の日送りのあへない命迄
 
○道具屋
伊勢音頭油屋 北六万野が取り/\にとさん盃硯蓋
千両幟猪名川 町中のひいきに肩も猪名川が
阿漕浦平治内 かゝる歎きの胴中へ庄屋を案内に打連れて
廿四孝下駄場 二重の腰の白妙も
 
○道具屋カヽリ
三十三間堂柳 夜は山賊の大胆不敵何でも掘出ししこ溜んと大刀さし足
 
○宮園
廓文章吉田屋 忍ぶとすれど古しえの花は嵐のおとがいの
 
○スエ(又スエテ)
三勝半七酒屋 おっしやって下さりませお二人様と後は言葉も涙なり
一の谷陣屋 遉に猛き武士も物の哀れを今ぞ知る
安達原三段目 皮も破れし三味線の
忠臣蔵九段目 祝言させて下さりませと縋り嘆けば母親は
妹背山三段目 父の行末身の上を守らせ給へと心中に
廿四孝四段目 言はん方なき二人が心と<スエテ>そゞろ涙に暮れけるが
一の谷陣屋 或は悔み或は怒り<大スエテ>涙は滝をあらそへり
忠臣蔵六ツ目 推量あれと<スエテ>血走る眼に無念の涙
反魂香吃又 さりとは情ないお師匠じやと<スエテ>声を上げて泣きいたる
菅原四段目 キツト見るより暫らくは<四段目スエテ>打守りいたりしが
 
○スエカヽリ
摂州合邦辻下の巻 俊徳丸の後行衛尋ねかねつゝ
歌祭文野崎村 逢いたかったと久松に縋り付けば
千本寿桜し屋 お変りないかとびっくりも一度に興をぞさましける
 
○新内
明がらす山名屋 今宵別れてわしが身や
かゝる憂目を見せるのもみんなわしから起ったこと
 
○サハリ
廓文章吉田屋 夕霧涙諸共に恨みられたりかこつのは色の習いと言ながら
 
○舞
反魂香吃又 是は又土佐の又平光起が師匠の御恩を報ぜんと身にも応ぜぬ重荷をば大津の町や追分けの絵にぬるごふんは安けれど名は千金の絵師の家今墨色を上にけり
 
○平家
千本桜渡海屋 美しき御手を合せ見奉れば気も消え/\
布引滝四段目 いざや諷わん是迚も浮世は夢の現つとやさわあれど恩愛の中心留って腸を断つ魂を動かずということなし
 
○舞詞
反魂香吃又 去る程に鎌倉殿義経の討手を向うべしと武勇の達者を選ばれし
 
○謡
娘景清日向島 松門独り閉じて年月を送り自ら清光を見ざれば時の移るをも弁へず暗々たる庵室に徒らに眠り衣寒暖に与えざれば肌はぎようこつと衰えたり
  (註)此外一の谷二の中、赤垣出立、忠臣講釈喜内住家等にもあり
 
○鹿ヲドリ
恋娘昔八丈城木屋 言うも更なる繁華の地
恋女房沓掛村 吉凶しの身は世に連れて与の助が
 
○鼓歌
日蓮記三段目 姿も見えず仏壇の燈火眠る隙間より吹来る風の身に染みて
  此の外、かさね、土橋にもあり
 
○放下僧
長柄人柱あしかり道行 <三下り放下僧>あら面白の水の流れや筆にかくともつきずまじ東には八幡山崎長柄堤を迥れば廻れわすれたりとよ
 
<本調子放下僧>よその見る前おそろしおそろしの君の目元は水車の輪の如く川水はあしにもまるゝふくら雀が
 
○琴唄
朝顔日記宿屋 露の干ぬ間の朝顔を照らす日影のつれなきに哀れ一むら雨のハラ/\と降れかし
  外にもあり
 
○地唄
三十三所壺阪 鳥の声鐘の音さえ身に染みて思ひ出す程涙が先へ落ちて流るゝ妹背の川を エヽ儘よ憂が情か情が憂か露と消えゆく我身の上は
 
○祭文
安達原三段目 お願い申し奉る今の浮身の恥しさ父上や母様のお気に背きし報いにて二世の夫にも引別れ泣潰したる目なし鳥二人が中のコレこのお君とて……………以下
お染久松質店 高いも低きいも姫御前の肌ふれるのは只一人親兄弟もふり捨てゝ
 
○二上り祭文
お駒才三鈴ヶ森 不便やお駒は夫マの為かゝる憂目のしばり縄首にかけたる水晶の数珠のかずさえ消えて行く
 
○メリヤス
  (註 詞の中に弾くことをいう)
千両幟猪名川、いざり滝の段、伊勢音頭油屋、明烏山名屋、恋娘昔八丈城木屋、堀川猿廻し等
  外にもあり
 
○冷泉
玉藻前三段目 四隅には立る樒の一ト本も
 
○冷泉カヽリ
伊賀越五ツ目 後から着せる羽織もひつしよなく
伊勢音頭油屋 泣く/\硯引よせて書置く筆の命毛も
 
○江戸冷泉
加賀見山長局 小文庫に思い詰たるうき涙
 
○半冷泉
彦山権現九ツ目 折ふし竹の音もさえて
 
○ニシキ
御所桜三段目 大振袖の伊達模様
天網島紙治 紐つく帛紗押開き差出す一包み
阿波鳴戸八ツ目 豆板の豆なを悦ぶ餞別と紙に包んで持って出で
 
○説教
お染久松質店 胸も板えんそろ/\と忍ひ出たる娘気は恋路のやみのくらまぐれ心は先へ
梅野由平衛聚楽町 涙ながらに着せかえる
玉藻前三段目 斯くとは誰も白小袖死出の晴着と姉妹が
中将姫雪責 アラ痛はしの中将姫
ヤレ心なの下部ヤナ昨日までも今朝までも
先代萩御殿 千年万年待ったとて何んの便りが有ろぞいなァ
天網島紙治 サラバお酌を申そうかい涙ながらに取上る
 
○説教カヽリ
三十三所壺阪 此世も見えぬ盲目の闇より闇の死出の旅
 
○地蔵経
義仲勲功記上 地蔵様は六道の能化あなたをお頼申して極楽の道迷はぬ様にいてたもや/\只願はくば地蔵尊迷いを導き給うべし
 
○地蔵カヽリ
玉藻前三段目 とく/\と賽の河原を此世から積む石数も姉妹の年も重目に持つ涙
 
○鉢タヽキ
襤褸錦夜の計歌 叩く瓢べの音も冴えて二人連なる鉢たゝき仏も元は思わくの恋路のきづな結んでは抱いてねはんの長枕かわさんしたと聞くものをどうしたことの因果やらなもうだ/\
 
○岡崎
伊賀越八ツ目 外は音せで降る雪に
反魂香吃又 上り下りの旅んどの
 
○ウタヽキ
伊賀越八ツ目 無残や肌も郡山の国に残りし女房の
 
○相の山
恋女房沓掛村 いざり仕事のつまみ銭煙りも立ぬ貧家の軒
布引滝四段目 恩愛の血筋四筋の糸筋に
阿こや琴責 時の調子相の山吉野龍田の花もみじ更級越路の白雪も
廓文章吉田屋 縁と縁胸と心の相の山
 
○相の山カヽリ
太功記妙心寺 親子三人打連れで是非なく次へ入相の
 
○吉野山
八陣六ツ目此村屋敷 早程もなく入り来る上使は片桐市のかみと名乗るは表うら若き姿は花の盛りまつ吉野の山の初桜
 
○サイ原
梅川忠兵衛新町 けんの手品の手もたゆく
 
○シバガキ
妹背山二の切万才 五本の柱は五畿内安全八重九重の内までも治りなびく君が代の
 
○林清
苅萱高野山 いたわしや石動丸かゝる難所もたど/\と心も空に浮草の根ざしの父は顔知らず名のみしるべにたずね行く袖の涙ぞあわれなる
毎日入り来る初発心昨日剃ったも今道心おとゝい剃ったも新道心
 
○小室フシ(乗馬の時に用う)
一の谷組打 鞍の塩手やしお/\と弓手に御首携えて
太功記妙心寺 栗毛の駒光秀ゆらりと打乗って
 
○有田フシ
お俊伝兵衛猿廻し お猿は目出度や/\ねェ聟入姿ものつしりと/\コレ去とはノウ有かいなさんない又有かいな
 
○オロシフシ
一の谷陣屋 思ひがけなき御対面と飛退き敬い奉れば
忠臣蔵四段目 列いる諸士も顔見合せあきれ果たる斗りなり
日吉丸三段目 襖左右へ押開かせ悠々然と
菅原四段目 夢か現か夫婦かとあきれて詞もなかりしが
 
○大オロシ
勧進帳 当来にては九品ン蓮台の上に座せん
 
○オンド鳥追
佐倉曙下総屋 表の方にさゝら四ツ竹鳥追がヤンラ目出度やヤンラ楽しやせじよや万じよの鳥追が参りて
 
○伊勢オンド
阿漕浦平治内 故郷は都茲は又
 
○木ヤリオンド
三十三間堂柳 勇ましや和歌の浦には名所が御座る一に権現二に玉津島三に下り松四に塩釜よヨーイ/\ヨーイトナ
 
○順礼歌
鳴戸八ツ目 ふだらくや岸打波は三熊野の那知のお山にひゞく滝津瀬
岸姫松三段目 八千年や柳に長き命寺
  (註 岸姫松の詠歌は特長のあるもの)
  他にも壺阪、百度平等
 
○舟歌
娘景清日向島 棹の歌々四海浪静かにて枝もならさぬ…………以下
 
○馬子歌
妹背山四段目 立上り竹にさァ雀はなァ品よくとまるナとめてさァとまらぬナ色の道かいなョ
恋女房十段目 泣声に坂はてる/\鈴鹿はくもる相の土山雨が降る
伊賀越相合傘 いやかいの/\いやなァ風にもョなびかんせェ
 
○子守唄
天網島紙治 すかせばすや/\稚子をいぶりながらも口説ごと
忠臣蔵道行 二人が仲にやゝ生んでねん/\や/\ねんねが守りはどこへいた
廿四孝桔梗ヶ原 山を越えて里へいた里の土産の
 
○糸繰唄
伊賀越岡崎 来たと言た迚行かれる道か道は四十五里波の上
 
○童べ唄
先代萩御殿 こちの裏のちさの木に/\雀が三疋とまって/\一羽の雀の言う事にや/\わしが息子の千松が/\
 
○俗歌
桂川帯屋 七くどいわいナア/\コレ其長さん参るはなァ内の子飼の此長吉よ長さま参るお半よりテツヽツツンテレンチチンチンチイチイトチヽヽヽヽ
 
○読売 (売声ともいう)
妹背門松質店 此間大阪の町々で以下…………大きな声では言はれぬこと/\
 
○節季候
恋飛脚新口村 節季候だい/\代々は節季候お目出度いは節季候
 
○題号
紙子仕立大文字屋 格子先妙法蓮華経申すも忝や祖師日蓮大菩薩  以下
 
○ひょうし題目
忠臣蔵二段目 南無妙チヨイナ法蓮華経南無妙法蓮華経
 
○祈り
花上野志度寺 南無金比羅大権現/\
加賀見山長局 南無観音様/\南無鬼子母神さま/\
 
○白骨文章(おふみ)
妹背門松質店 夫レ人間の浮世なる相つら/\以下
 
○万才
三十三所壺阪 御利生ありけるや……………以下偏に観世音
廓文章吉田屋 誠に目出度う候いける
千本桜道行 徳若に御万才と君も栄えまします愛敬ありや頼もしや
 
  念仏
 
○責念仏 
摂州合邦辻下之巻 南無まいだ/\/\/\
 
○歌念仏
忠臣蔵九段目 回向念仏は恋無常出行足も立どまり六字の御名を笛の音に…………以下一卜夜ぎり
  (註)枕ならぶるより枕念仏となる
 
○地念仏
菅原三段目佐太村 なむまいだ/\/\/\/\
  (註)拍子乱れてなまいだ/\/\/\ は責念仏
 
○掛念仏
桂川帯屋 南無阿弥陀/\/\
 
○空也念仏 
  思えば浮世は程もなし栄華は皆是春の夢冥利の心をとゞめて急いで浄土を願うべし南無阿弥陀ばんぶやなもだ/\
 
○入
摂州合邦下の巻 かけ出る玉手ノウ懐しや俊徳様
菅原四段目 小太郎が母涙ながら
 
○クセ
千本桜寿し屋 お暇乞に参りました 親父様にもお前にも随分おまめで/\と
 
○読クセ
是は手紙を読むときの語りグセで「酒屋」「堀川」「紙治」「帯屋」等沢山あり
 
○カヽリ (詞より地合いにカカルとき)
お俊伝兵衛堀川 我身の働きで此養生がなるものかと
廿四孝四段目 こんな殿御と添臥の身は姫御前の果報ぞと
 
 
○イロカヽリ(ハリマより出たる上総の一種)
恋飛脚新口村 なをも涙を押ぬぐい
天網島河庄 治兵衛涙を押拭い
 
○同(綱大夫風)
阿波鳴戸八ツ目 心をしづめ余所/\しく
 
○雲雀ブシ
嬢景清日向島 春や昔の春ならん
一の谷須磨の浦 檀とく山のうき別れ
 
○河内地
梅川忠兵衛新町 炭火ほのめく夕べまで
菅原三佐太村 えぼし子になし下され…………以下御安堵を見届け
反魂香吃又 奥様迄は申せしが
妹背山道行 成程せつなる志仇に思はじさりながら
恋飛脚新口村 世のたとえにも言通り
 
○大和地
恋女房十段目 おそばの衆にはやされて幼心の姫君………以下全部
 
○当ブシ
御所桜三段目 三途の川や死出の旅
  外にも当ブシは沢山あり
 
○ネジカネフシ
天網島河庄 天満に年ふる千早ふる
 
西風であって途中より東風に変るもの
国姓爺三の切 錦祥女は縋りつき一生親知らずついに一度の孝行なく何で恩を送ろうぞ
  これより東風に語る
 
○各大夫の特色ある語り風
 
住大夫風 岡崎 志度寺 長局
麓大夫風 太功記十段目 日吉丸三段目
綱大夫風 志度寺の「爰から拝んで」
組大夫風 志度寺の「<綱大夫風>爰から拝んで<組大夫風>いるぞやと
染大夫風 妹背山三 「まじりくしやつくひだら道」
  日向島 「七五三、五五三共受させ給え」
   「源平数ヶ所の戦やみにけんその山坂を越えゆるが如く」

(2015.08.14更新 [日吉丸三段自→日吉丸三段目 の修正など]2016.07.22更新)