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【 矢野津の子 「逆賊非道」問題につき岡田蝶花形氏へ 】

(2023.03.01)
提供者:ね太郎
 浄瑠璃雑誌 390号 24ページ
 
 「逆賊非道」問題につき岡田蝶花形氏へ
    矢野津の子
 
「浄瑠璃雑誌」三百八十六号巻頭所載、岡田蝶花形氏の論稿中「浄曲往来」一月号の失名居士氏執筆「浄曲いろは往来」中の言説に対する御叱正の項拝読しましたが、これにつき次の諸点を明かにしておきたく、本誌上を拝借いたします。
 (一)失名居士といふ匿名を岡田氏は小生の別名執筆のものとお考へになつてゐられますが、事実は全く左様でなく、「失名居士」は小生以外に厳として存在してゐらるゝ訳で、その実名は記載することを憚りますが、小生の年少時代からの親友で、本人は義太夫を語らないけれども義大夫を愛し、機会ある毎にこれを聴き、筆に口に批評されてゐる人で、元来は文学者なのであります。このことは「浄曲往来」創刊号で紹介しておいたのですが岡田氏はその紹介文をお読みにならなかつたことと存じます。右の次第ですから今後も「浄曲往来」誌上に「失名居士」の名で発表する、稿はすべてその内容等に関して小生の責任でなく、即ち小生と失名居士とは同人人物でないことを先づ明かにしておきます。
 (二)小生自身は太十の「逆賊非道」も鳴戸の「盗賊」も岡田氏と同様の見解の下に原文通り語ることに賛成であり、鳴戸は声柄の関係で舞台に上したことはありませんが、太十は初上演の最初から終始原文通りで上演しており、小生の尊敬する古靱大夫氏が「逆賊非道に」と語つてゐられてもそれだけは採用しないことにしております。
 以上二項によつて、岡田氏が「津の子は間違っておる」と言はるゝ点は全然小生への御注告としては意味をなさぬことなのですからこの旨を岡田氏並に岡田氏の所説を読まれた諸賢に申立ておきたいのであります。
 (三)尚「浄曲往来」は小生編輯の雑誌であり、且つ研究はなるべく広く自由にといふ目的のため、早速失名居士氏へは岡田氏の言論の切抜きを送り何分の回答を求めておりますから、それは「浄曲往来」の次々号あたり(目下印刷中のものへは間に合はぬだらうから)掲載したく存じております。
(二月二十九日)