(参考:「日本古典全書・近松半二集」)
足利館大広間の段
春は曙漸く白く成り行くまゝに、雪間の若菜青やかに摘み出でつゝ、霞立ちたる花の頃は更なり。さればあやしの賤までも己々が品に付き、寿祝ふ年の兄、先づ咲き初むる室町の。
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(参考:S44.10東京国立)
・今回の通し狂言、詞章カットの見直しは行われていないのであろうか。 だとすれば、大序には二ヶ所の要復旧部分があるゆえ、朱書で補う。 ・二引両の旗は、三段目の詰における最重要のアイテムである。
・そして、通し狂言の偶数を織り成すのは、諏訪法性の兜である。
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足利館奥御殿の段
咲き分けし梅と桜の花よりも、…、詞しがらむから糸の、心も直江山城に繋がる縁の縁伝ひ 直江が手元じつと引き寄せ 「ヤレ待ち給へ」と手弱女御前 「わが愛着もこれ限り、身をば大事に平産せよ」と打つてかへたる御仰せ 袴の肩もきつとせし、眼の中鋭き術ある人相 狙ひ外さぬ義晴公、『うん』とばかりに息絶えたり 襖をさつと武田晴信 「ヤア怖くもない義清風」 |
・冒頭、直江山城の色模様、性根の一つを描出できるか。 ・賤の方のクドキは偽りだが、それを感じさせない色気が必要。 ・手弱女御前の格、智恵、捌き方(室町御所が平穏なのはこの人がいるから)。 義晴横死後の詞章「心乱さぬ手弱女御前」「泣かぬはさすが大将の奥床しくぞ見えにける」も重要。 ・義晴はお人好し(空っぽだが大きい)君主である(カシラは定の進)。 ・井上新左衛門(斎藤道三)の不審、不気味、 とりわけ鉄砲の語りは大きさ、強さが必要。 ・義晴暗殺後の急展開、景勝、晴信それぞれ性根に応じた違いがある。 ・孔明の信玄、鬼一の謙信、口明き文七の氏時、語り分けが眼目。 ・段切、直江山城の颯爽たる武士の働きで気持ち良く締められるかどうか。 |
諏訪明神百度石の段
(口) 商人百姓草刈の小童まで 「女子たらしで生白けたしやつ面」 (奥) 御灯の光しん//と神さび渡る 博奕打には似合はぬ横蔵 生まれついたる大名風 穴を穿つてぬつと出る白髪交り有髪の老人 「テ思ひ合ふた頼みぢやな。汝も」「御辺も」 |
・ツメ人形のおもしろさ。活写できるか。 ・簑作の大切な性根、世話に語る。 ・奥のマクラ情景描写で静まる。 ・本性を掴んだ描出が必要。 ・景勝の器量。下駄場への伏線。 ・石下より登場の老人、天下(雨が下)を狙う器量の象徴としての菅簑。 ・横蔵と老人と互いに譲らぬ面白さ。 |
信玄館の段
落葉角助、掃兵衛が、引きずる箒打水に |
・奴の語り口、軽妙さと語り分けと。 |
村上義清上使の段
思ひなき身の思ひ子を、思ひ侘びたる御気色 のつさ//と入り来たる上使は聞こゆる村上義清 |
・常盤井御前の格と母としての思い。 ・村上の権柄無慈悲の描出。 |
勝頼切腹の段
濡衣が、今は恨みを朝顔に言はん方なき憂身やと、声をも立てず忍び泣き 無漸なりける姿にも、武士の角立つ角前髪 母は駆け出で、「オヽよう止めてたもつたなう…」 かゝる事とも白洲の内、怪しの辻駕籠えいさつさ、跡に続いて板垣兵部 切り込む刀かい潜り、鍔元しつかと片手に握り 「サその訳語らん、よつく聞け」 |
・濡衣のクドキ第一、勝頼の覚悟第二、母の情愛第三。 (前半、陰気で辛気くさいという印象で終始しなければ上々) ・後半から場面が動き出す。 兵部は虎王カシラだが善人へのモドリも注目。 ・簑作は世話だが、兵部の剣を受けるなど颯爽たる武士勝頼の描写も必要。 ・信玄物語から段切まで動きもあり面白いが二段目の格を逸脱せぬよう。 |
桔梗原の段
(口) 高坂弾正が妻の唐織、越名弾正が女房入江 (奥) こゝに信州筑摩郡の辺に住む 慈悲蔵といふ者あり 名は慈悲蔵の慈悲もなく 「高坂殿、暫く」と、声をかけたる立派の侍 |
・老け女形と八汐カシラとの語り分け。 ・マクラ荘重にして直江山城を暗示する。 ・慈悲蔵から世話にくだける。 ・この詞章に収斂される苦衷知るべし。 捨て子、親の思い・哀感しみじみと十分抒情的に。 ・丸目の金時越名弾正、たまらなく面白いし大きい。 (参考公演は黒衣だが際立つ遣い方、先代勘十郎であった。流石の一言。) 高坂の孔明カシラとの対比も際立つ。 |
景勝下駄の段
ゆゝしけれ 音も吹雪に高足駄、踏み分け尋ね来る人は長尾三郎景勝 |
・重厚な三重で始まる、染太夫風典型の一段。 ・ここからが眼目。 が、ここまで実は情味ある語り場で十分な仕込みが必要。 |
勘助住家の段
(前) 無法無轍をしにせにて名も横蔵の筋違道 匂ふ留木の高坂が妻と知らせて 「ハア、ハツ」と立ち上がり、我が子を取つて引き放し 女房立ち寄つて、「ヤア峰松か、戻つたか」と飛び立つばかり (後) 窺ふ忍び足。早や日も暮に近づきて 眠れる花の死顔に |
・横蔵、唐織、慈悲蔵、そして何よりお種が観客の心と同期振幅するかどうか。 (俗に云ふ、筍の段の三難とは「解らぬ」と、「六ケ敷い」と、「前に受けぬ」と三ツである。『素人講釈』) ・大きさ、痛快、解放感、時代物三段目切場後半の典型なり。 ・段切、峰松の悲哀をきちんと含ませることも重要 |
道行似合女夫丸
偽りの、文字を分くれば人の為、身の為ならず恋ならず、心なけれど濡衣が亡き夫の名も勝頼に、伴ふ人も勝頼といふて由ある二人連れ |
・この道行の真髄はこの冒頭の詞章に尽きる。 しかも初冬、花も散り果ての道中、濡衣の悲哀がすべてと言っていい 。 それが美しい旋律の通奏低音となっていること。 |
和田別所化性屋敷の段(約24分)
√はらしける
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・「床本集」に未収録のため、掲載しておく(予習用にも)。 ただし、チャリ場であるから、劇場初見で楽しむのも一興か。 ・今回は、呂勢喜一朗の役場。
・丸本マクラの奴連中による百物語、中程での二人弾正の絡みはカット。
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謙信館の段
「暫く待つた長尾謙信、奥方よりの御上意あり」と呼ばはる声 跡見送つて関兵衛は、謙信の前に手をつかへ |
・前半(景勝上使)は謙信、景勝に関兵衛、簑作が絡んで面白いところ。 ・後半(鉄砲渡し)は切場へ繋ぐためか駒太夫風に色付け改変されている。 (が、詞章からしても感心できない。思い切って再改曲もありか?) |
十種香の段
臥所へ行く水の |
・ともかく、ヲクリからして四段目金襖物だと決まるもの。 (以下、芸談等多々存在するため省略する。) |
奥庭狐火の段
此方の間には手弱女御前、始終の様子窺ふともいさ白菊の花の番、小屋にとつくと関兵衛がつけ回しても神通力、花の間に//見えつ隠れつ神去る狐。
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(八重垣姫が汚く叫ばないように。)
・大序を付けた通し狂言なら、少なくとも四段目詰までは出すべきである。
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道三最期の段(約18分)
√行先の
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・柝とともに幕を切って落とすと大広間。御簾は下り、襖は閉じている。 出語り、三重で始まる。 ・下手から烏帽子大紋に改めた斎藤道三(関兵衛)。 天下を狙う大舅カシラ、「長袴の」コハリ、大胆不敵とはかくあるべし。 ・続いて勝頼が後を付け、上手からは景勝が登場。ともに裃姿で肩脱ぎ。 が、詞章の如く二人の若者などものともせず、正面で極まる。 ここは床の語り(弾き)分け如何で、まず実力がわかるところ。 ・道三、烏帽子を取り、大紋を脱ぐ。
・山本勘助、裃姿で登場。詞には格が必要。 ・この省略もまた詞章を読まぬ典型例。
・「出会ふた横蔵、珍しい対面するなあ」ここは品格を除いて語る。 ・これで大序からの鉄砲の件が解決する。
・勘助は全く動じない。冷静沈着かつ格を保って語り続ける。
・「エヽ口惜しや奇怪や」一杯。 ・無念の涙はもちろん娘の死に注がれている。
・長尾謙信、襖を開け弓を携えて登場、屋台上手側へ収まる。
・「堀深うして」から詞ノリ。 ・以下、謙信、勘助、勝頼、景勝の順で割台詞し極まる。
・謙信、法性の兜を持って中央へ、勝頼が屋台下で受け取る。道三絶命。 ・ここの詞章省略は、夜明けを単なる情景描写と判断したためか。
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