FILE 108

【 兜会・九重会は断然近江氏を支持 】

(2023.03.01)
提供者:ね太郎
 太棹 114号 表紙の次の頁
 
 兜会・九重会は断然近江氏を支持
   浄瑠璃雑誌問題東西の素義界に波及
 昭和十四年十一月発行浪花名物浄瑠璃雑誌第三八四号誌上に竹本津太夫の「沼津」に就いて、同誌同人諸氏の合評が掲載されたが、これに対し本誌一月発行第百十一号誌上に「樋口吾笑氏に」と題して一文を寄せられた近江清華氏に対し、武智氏は三月卅日発行の浄瑠璃雑誌第三八七号に於て「近江清華様に」と題してこれが反駁記事を書かれた。
 その記事が人身攻撃も甚だしいものとして、東西素義界の心ある人々は「近江氏のみならず素義たるものを侮蔑したものである」とて、浄瑠璃雑誌不購読の声が起つた。
 一方近江氏は感ずる処あつて、爾後浄曲界を断念すると共に兜会副会長を辞任し、同会々員たる事はもとより、九重会よりも退会せらるゝに至つた。
 近江氏より右の通告を受けた十週年記念大会の迫つてゐる兜会は、急遽総会を開き
『近江氏が副会長を辞任さるゝなれば、鈴木和楽氏も会長を辞す意向を洩らし、全会員は兜会を解散しても近江氏を支持する』
 と、全員結束して浄瑠璃雑誌を拒絶する事に協議一決し、会長鈴木和楽氏は病気の為め鈴木松宝、桑原美峰、本多可笑、寺岡三幸、荒木泉、松田和加葉の六氏が会を代表して近江氏邸を訪問し、会の決議を報告すると共に副会長留任を懇請したのである。しかして兜会は決議の結果を九重会の栗原千鶴氏に通達した処、栗原氏又九重会々員諸氏と相計り
 『近江氏の意見は斯道の為め当然の事で、これを曲解して武智氏の聞くに堪え難き記事を掲載された事に就いて、我等の言はんとする処は文楽誌上に伊藤為吉氏が書いてゐられるので、くどくしい言は哢さぬ、同じ道に遊ぶ我等同士は斯界の為め近江氏の意見に共鳴し、あくまで氏を支持する』
 とて、之又浄瑠璃雑誌と絶縁する事を表明し、なほ栗原氏は、此為め万一意見の相違で九重会から退会者を出すに至つても止むを得ずとて、断固たる決心を洩らされた。
 茲に於て近江氏は此両会の友情厚き誠意ある勧告に反しては友誼を無視する事になるとて、翻然兜会副会長に留任し、同時に九重会にも出演せられたのである。
 今回の件に就ては、大阪より某太夫が出京、近江氏を慰問するといふ噂もあり、又大阪某師の連中の憤りも非常なもので、これ又浄瑠璃雑誌とは絶縁の噂も伝へられ、素義界のみならず、玄人界にも東西を通じて相当此の様な火の手があがつてゐるらしいが、斯くの如き未曾有の問題を浄曲界に惹起した事は斯道の為め甚だ遺憾の極みである。