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【 松本午郎 樋口吾笑君にお尋ね 】

(2023.03.01)
提供者:ね太郎
 浄瑠璃雑誌 390号 30ページ
 
 樋口吾笑君にお尋ね
 ▼忠信は二人あり
 ▼田中煙亭も亦二人あるか
 私は本誌三百八十七號御掲載の「近江清華様に」を通読して武智鉄二氏の健筆の御議論に感激したものです、事実此通りと今更らながら批評なるものが重大な責務のあるものである事を痛感致しました、然るに東京の「太棹」五月号に田中煙亭氏が近江清華氏の為めに盛んに樋口氏や貴誌同人諸兄に罵声を上げて居られるのを通読しまして、矢張り同じ東京に住んで居る人として一方の話を聞いて兎も角事の理非曲直に拘らず東京人士の味方されて居るのも或点に於て無理もないわいと思ひましたが、茲に貴誌五月号の目次下に「田中煙亭氏の激励辞と推奨辞」の項目で△三八七号正に拝受誦読いたしました。不相変痛快巻を措く能はざらしむものあり、更に〳〵御健闘を祈る、東京にもこんなのがあつたら……尤も東京では此痛快論に対照すべきものなしか、素義のみ語り数に於て発展するらしきのみ、云々又△三八八号本日落掌感謝々々各位の御研究愈々精彩を放ちて吾等よい学問を致します事謹んで御礼申上ます、云々の端書体の通信文らしきものを見て之れを「太棹」記載の田中煙亭氏の記文と対照して何だか狐につままれた様に感じました。心境の変化と云ふものか、但しは忠信に四郎兵衛忠信と狐忠信のある様に、田中煙亭と、狐煙亭と二人あるのですか、然し信忠は二人共大将義経の味方であつたが此煙亭なる人は一つは樋口氏や貴誌の味方であり、今一つのは樋口氏の敵、貴誌の敵であると思はれる。こんな人こそ吾等江戸ツ子のつらよごし、○の力で自己の本性がくる〳〵変化するなど、こんな江戸エウ子には昔の幡随院も地下で泣いて居るだらうと思ひます、殊に樋口氏が近江氏に陳謝に伺候したなどの記事は全く虚事と聞く、そこで之は田中狐煙亭ではなくで野狸煙亭とでも云ひたい位のものだと思ふ、恐らく煙亭が二人あつて貴誌へ激励の辞を送つたのが本物の田中煙亭氏で、「太棹」に執筆して居るのは野狸の煙亭で、初音の鼓の音で現れたのではなくて○の力で現はれた。ぽんぽこ狸かと思ひます、今後の参考にもなる事ですから樋口君此辺の消息を吾等江戸ツ子に貴誌々上でも又私信でもよろしいからくわしくお知らせ願ひます。
 (本誌愛読者松本午郎)
 御深切を奉謝す。無学不徳の小生注意の足らぬ点、非難攻撃は覚悟の前、されど私情と芸評は別、詳細は私信に譲ります。(吾笑)