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【 樋口吾笑 公義と私情の交錯は絶対禁物 】

(2023.03.01)
提供者:ね太郎
 浄瑠璃雑誌 389号 1ページ
 
 公義と私情の交錯は絶対禁物
 竹本津大夫は浄瑠璃界の最高権威者にして高齢者なり。斯道に在る者は悉くこれを擁護すべし。若し此の技芸に論評を下す者あらば斯道の破壊者なり。吾々は断じて排斥せん。浄瑠璃雑誌は吾々の贔屓なる此の尊者に対し縦横無尽に論評して遺す所なきは其の常識を疑はざるを得ぬ。津大夫を愛護し斯道を振興する意味に於て同誌を廃読するといふ決議が東京の一部と大阪の一部に行はれた事を深く恥ぢて居ります。
 私は津大夫師とは再三会談し意思は既に業に疏通して居ります。故に私は私的関係は一切を放棄し仮令権利を蹂躙せられても如何なる侮辱をも隠忍して居ります。然れども公的任務芸術批評に関しては何等の拘束制肘を受ける者ではありません。津大夫師と握手した事は私的関係のみと承知して居る。故に仲介の勢を執られた諸氏に対しては深甚の敬意を表し利害も感情も東海に流して芸一筋で邁進する者であります。批評が峻烈なから廃読するとの宣告は拙者不徳の致す所と恐縮して居ります。今後は一層厳密に注意検討し誠心誠意を以て昭和維新の芸術報国に邁進したいと思ひます。絶大の御支援を希願致します。
 本誌同人は皆愛国愛道に誠意の限りを尽して健闘せる新知識でありますが、私は既に老齢たゞ新人の歩調に遅れざらん事をのみ念願として居ります。今此の重大時機に於て些細な私情に拘泥し肝心の公的措置を誤つたら取返しがつきませぬ。私の生命は旦夕も計られぬが、国家の命数は天地と共に無窮、芸術報国は之れに比例すべきものと信じます。何卒微衷を諒察ありて叱咤御鞭撻を願ひます。(樋口吾笑)