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【 石割松太郎 温習会 堀江の義太夫 】

(2023.05.28)
提供者:ね太郎
 
温習会
 堀江の義太夫
 サンデー毎日 大正十五年十一月廿八日 p15
 
 
 太棹は堀江の名物だ。この堀江で十一日から四日間太棹の温習会が開演された▲みどりがすむと「躄仇討」「三日太平記」--出し物が悪い▲次ぎが「時雨の炬燵」米二の三味線が素的だ。かつちりと引締つたぢみなうちにしつかりとしてゐる、チンと底響きのする桜炭▲すると次ぎの「志度寺」の三味線の扇ぶりはパツとした派手な撥さばき、米二が一輪生の侘助ならば扇ぶりは桃の花、気品は米二にあつて、扇ぶりは濃艶▲いし子が治兵衛で味をやるが遺書をよむ処で治兵衛でなくていし子になりたがる▲いし勝の五左衛門は無理だ広之助の小春にも艶がない--とすると広作のおさんが一等、が、せりふはむつかしいものと見える▲「志度寺」では源太左衛門が伝吉、とにかく面白くない浄るりだ、源太左衛門がよいと引立つ浄るりだといふが、何れにしても悪い作、伝吉の源太は悪いとはいへぬ、女であれだけは褒めていゝ▲駒市がお辻、むつかしい「なむ琴平権現」が物たらぬ、ふと団十郎の柄平太が縄付で引すゑられながら北条を罵り段々と声がしはがれていつた舞台を思ひ出した、あのイキが「琴平権現」に出るといゝのだなと思ふ▲大切が「蝶の道行」で場内真黒ら、照明で舞台の菜の花の上に二羽の蝶、おもちやの飛行機のかた、これが消えると菜の花の後ろに春若の小巻と松笑の助国が道行の心で添うて立つてゐるといふ舞台だ▲この浄るりにこんな新様式の舞台を使ふ気が知れぬこの不調和を平気で行へる堀江の技芸員は幸福だ(石割生)