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【 石割松太郎 『沼津』と『矢口』 暑中前の文楽座 】

(2023.05.28)
提供者:ね太郎
 
前週の演芸 石割松太郎
 サンデー毎日 大正十三年六月廿九日 3(28) p.27
 
【新国劇の特色 浪花座の沢正一座】
 
『沼津』と『矢口』 暑中前の文楽座
 前が「太功記」「妙心寺」を語る筈の弥太夫が死、紋下の「沼津」を弾く筈の吉兵衛が死んで、さらぬだに淋しい文楽はいとゞ物淋しさをましたやうだ。
 伊達「尼ヶ崎」十次郎、初菊、操はいゝが光秀に難がある、即ち前半がよく語れたが後半に至つて浄るりが小さくなるが綺麗な手ざわりのいゝ「尼ヶ崎」といへる。
 中が「沼津」で先代津太夫の十三回忌の追善を利かしてゐる。絃は吉兵衛の代りを吉弥が勤めた。津の「沼津」は代役を勤めた出世芸であるといふ、つい一両年前にも割に好評であつたが今度も悪くはない。が、この語り口では重兵衛が六かしい。
 切は古靱の「矢口渡」で珍しい出し物である。又あの声の悪い古靱があれだけに聴かした声使ひのうまさには感心するが、六蔵にもつと軽いうま味、剽軽な面白味があつていゝが全くダメであつた。矢張頓兵衛に身が入つてよく聴かせた。
 人形では栄三の操、重兵衛がいゝ。お舟には感心しなかつたが、操が一等よく遣つた。
 玉蔵の光秀は大きく、六蔵は軽妙、此の人の芸はいつもイヤ味のないのが嬉しい。
 文三の久吉は一通り、平作は大してよくもない、もつと面白味を期待したのであつた。
 辰五郎の頓兵衛も一通り。
 
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