FILE 128
【 江戸版 浄瑠璃秘伝抄 抜書 】
(2022.05.15)
提供者:ね太郎
江戸版 浄瑠璃秘伝抄 抜書
浄瑠璃評判記集成による
新座元 竹本家太夫
時なるかな〳〵去ル天明元年十二月廿日よりふきや町あやつり座芝居ふしんに取かゝられしハ誰人ならんと思ひしに古人桝太夫殿の門弟俗名金兵衛宝暦五年の春青柳硯二段め相合かさをかたり殊外にでかされしが其後数ケ年しか〳〵出座もなかりしが此度ふきや町土佐の芝居をこうぎやういたさるゝ事おてがらとぞんじまする是につけて思ひ出しまする此人の師匠桝太どのも辰松八郎兵衛座元を暫く致されしが後に丹後掾となりて肥前掾座へたちかへられしがつゐに古人となられしが今度家太夫殿も師の功におとらず芝居興行いたされすなはち土佐少掾橘正勝座元家太夫といほりかんばん出されふしんにぎはしく当二月上旬よりも初日のよし家太夫どのゝ手がら江戸中皆〳〵めをおどろかせ初日を待まするげに時津風の富貴〳〵吹屋町の新芝居新春の新上るり大あたり大はんじやうちよよろづ世と祝ひまする。
下り 豊竹八重太夫
去冬より外記座へお下りにてかんばん出みな〳〵相まちし所当春初日つゝがなく御出勤大けい〳〵三ケ年己前に当地にて出かたりいたされし梅川忠兵衛の大あたり大ひやうばんにてそのせつは夜あるきの人〳〵はもちろんの事酒屋のたるひろいまたははし〳〵の遊里にても廿日あまりに四十両といふ文句をかたらぬものもなきほどなる大ひやうばん成しかまた〳〵このたび御下り則当春耕上るり鏡山古郷のにしきゑ九段目のおやくばことに目見へ出かたりは近江源氏九ツめ三味線野沢冨八とのさても〳〵おもしろい事でござりまする江戸の諸見物しうもよい〳〵とのひやうばんまづははつ春のめみへめでたふ見物衆もうけとられまして珍重〳〵是から九段めをしつほりとうけ給りたいとみな〳〵まちまするぞへ本町店のわかい衆のいはく去ル安永五年三国無双奴請状の上るり四段めの口は此人の役場めつ永大ぜんのちやりはおよそ京大坂江戸三ケの津はいふにおよばす四国西国おくおうしうまでもかくれのない大あたりであつたそれゆへにお江戸中の見物しうもきゝたい〳〵とつね〳〵まちにまつてのうはささぞさぞ上がたにいらるゝ内もくつさめがふだんいたされたであろふと思はれまするぞ見物大ぜいがいはく其奴請状の上るりは御当地にては四ケ年いぜん豊竹肥前掾座にて致されすなはち三段めの切は住太夫とのゝかたられしが其時は三段め切はかりにて四段めは出ずこれまつたく四段めのかたりてなきがゆへなりさいわいなるかな今年住太夫どのと御同座の事なればどふぞ〳〵此四段めがきゝたいものと江戸中が神やほとけへぐわんをかけていまするほどにかならず〳〵当年のうちにぜひかたり給へきゝたい〳〵
本町四町目大横町 中山清七板