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【 評判花相撲 】
(2022.05.15)
提供者:ね太郎
評判花相撲
浄瑠璃評判記集成による 【*は日本庶民文化史料集成の翻字と異なる箇所】
《次第上》四本柱に水引は〳〵土俵の気色成らん《詞》是ハ奥州筋外が浜に安部川南兵衛と申関取にて候扨も此度摂州難波におゐて勧進相撲御座有により.只今大坂へと急候《道行上》住馴し津軽の浦を立出て.〳〵雲もそなたか西山や常陸武蔵野分過て.伊勢の宮居をふしおがみ.都路なれや程もなく名に大坂に着にけり〳〵
《序》爰に大坂の米問やに亀甲屋十作とて名高き数代の分限者年中遊興くわんらくに春夏秋冬事を分ての楽はや春も立夏も過キ既に初秋の遊ひに移りしに毎日御きげん取のあんま坊太鞁末社四五人色〃のはなしの中に鶴井儀八といふ末社かいへるはきのふ南堀江へ用向にて参り候所に此度の角力の場所例よりも大躰にこしらへ看板に諸方にて人の知りたる名代の相撲取斗撰て大関は東西ともにかつて人の聞及ひなき名なる故所の者に委く尋候へば八幡山太郎八と*申て九州第一の大男尤力量勝レ猶又角力の手段たんれんし凡此者これ迄見たる人なければ勧進元の大関にして此度角力興行いたし候所によりの方にも奥州の相撲阿部川南兵衞と言て大イ兵手利そのうへ力量骨がら無類の角力取をつれ来り明後日より相撲会合致し候とて評判すさまじきにぎはひにて候と申ければ亀十大臣きこしめされ是は面白事をいゝし事かな今年は春よりして初芝居色一座花見祭礼涼舟何れの遊ひも和らか事にて少は退屈におもひし折から相撲とは今迄に品替りて気力を増よき見物事殊更東西の大関比類なき力量関と関との結ひまで初日より見物致しづゞくへしといさみ給ふに太鼓末社も成ほどまづ第一に薬じやと申ますと有事ない事いふて御機嫌に入しかけ也扨又かの角力は明日より初まり〳〵とふれ太鞁町中を八重十文字によび歩行当日に至つての諸見物古今まれなる大入誠に爪もたゝぬといふは是成べし理りかなまへ角力より名ある取手共ばかり取組し出合なれば思ひ〳〵にひいきの方へかけ声してほうびの金を出す事或は羽織又は腰の物純子金入の識*物是又きびのよい引出もの也亀十大臣この有様を見給ひ尤直に引出物遣す事昔よりして人のする事ながら我等は此度の角力には花を出すと言新敷事をすべしもつとも賞翫する正花此節取合されば作り花にて遣すべし梅さくらぼたん杜若山吹つゝじなんど是をもつて角力の位を見立内証へ金子を送り候はん事は如何にあるやと仰ければ是は旦那の思召付又格別の御趣向一入よふござりませうと皆申せしは誠に風ウ雅の有様なり扨初日より段〳〵色〃に取組なせし角力なれ共関と関との取組勝てなさゞるハこれ大事の出会何レ勝負有つては古今無類の角力に疵の出来るが残念にて東西の勝負を見度ものながら遠慮していたるも又尤の事ぞかし今日は八日目にて終の日に至りけれは行司罷出此度の興行はん昌仕難有しと例の礼口上終りて東西の関一世一代の勝負今日とらせ御目にかけ申候併いづれが負ても今日の一番にて重て出会申さゞる大切の勝負なればおしとやかに御一覧下さるべしと申けり時に東のかたより阿部川南兵衞と名のり出たる男いやはやとかふいわれぬ大男なり西の方より八幡山太郎八しづ〳〵と出たる躰像[テイソウ]是又少もおとらぬ男ぶり昔赤沢山にて股野の五郎と河津の三郎が出合しもかくやと思ふほどの心よさ諸見物の心もち唯いそ〳〵として物をもいわずまち居たり其時行司しとやかに立出ぐんばいうちはにて東西をへだて双方の眼[ガン]中見合規矩にさつと団扇を引ければさしつたりと引組ンて又ほぐれつ入レちがへ手を尽して取結ぶやんや〳〵の力声諸見物おどり立気をはりこぶしをにぎり見物す両人の角力はすぐれたる大男力量もたがいにおとらぬ手取にて半時斗もみ合ていまだ勝負わかざりけり時に四つ手に引組ンで互に押合〳〵しが中央に両方共にこりかたまつたるやうにて少も動ずいたりけれバ行司立より目附年寄に声かけ此角力左右を引わくべし是九死一生の手になりともに難義と成べしとよばはりし故十人斗の世話役人共角力をほぐし東西へわけはやく水をのませ休ませけり其時行司土俵の真ン中へ立出諸見物に向ひ只今の相撲引分ケ候事御ふしんに思召候はんが是は九死一生と申て角力の大事でごさりまする其わけは両人の取組すんぶん甲乙なき取手にてたがひに情一ツはいの力量こりかたまり極意は双方すぐ見合夫なりに勢をつからかし一所に息たへ候事もござります故かくの通り引分ケました此勝負重而の興行まで我ら預り申候間左様に思し召下され候へと事をわけてもらいしかば諸見物もなるほど是は尤と言はざるはなかりけり此時亀十大臣さんじきよりかの作り花同様に弐本出し東西の関へ送りければ行司諦*取さるお方様より双方へ花を下さると左右へ渡しければ勧進元の大関是を請取是は難有ごほうひ箙のうたひにかつ色見する梅かえと申文句にて御ほうびの御引出もの忝なしと一礼をのべければ南兵衞も桟敷に向ひ是をいたゞきかふも有ふかと口号[スサミ]に我国の梅の花とは見たれども大坂人はいかゞ見るらんと詠じければ諸見物東西の角力取を感心し扨〳〵男ぶりと言角力の手取と申其上心いきまでしほらしき近比恥かしき者共とて一度にどつと賞美の掛声しばしは鳴もしづまらざりけり此悦びに行司ども千秋万歳と一度ニ座中手を打て首尾能角力はおさまりける扨両人の関取ハ亀十大臣へまいり今日惣仕舞に風雅の梅花を給りし御礼申上げれば大臣又〃千両の金子を五包つゝならべ両人にあたへ今日の花は此五百両つゝを参らせんといふ心をもつて梅花を送りし所にさすが名代の関取連やさしき詞を以てのふいてう諸見物のうるほひ我等が本望此上や有べき夫に付当春当地の新上るり奥州安達原の趣向此度両所の立合によく叶ひ諸方大当りの浄留理あやつり今に評判しかと沙汰なく候へば此両人の大評判を以て三ケ津の太夫三弦のよしあしの品定メを頼申べきぞと有ければ東西の関共此義は当所のれき〳〵衆をさしおき我らつたなき身にて品定を申事は御用捨下さるべしと再三辞退申ければいや〳〵此義じきに及び申まじ両所の出会諸人の悦ぶ所余人の及ふべきにあらざれば頭取となつて評者し給へと大勢の頼みに是悲なくさあらば我等も好キの道心のたらぬ所は御遠慮なく御差図下さるべしと左右の関取おしなをり是より位付評判の初り〳〵
三ケ津浄瑠理太夫三味線
▲見立草花尽し
大坂之部
至極上上吉 竹本大和椽*
うつくしく咲分ル源平の梅の花
極上上吉 豊竹若太夫
品数多くてよいさくら花
極上上吉 竹本政太夫
富貴のかたちとほめる牡丹の花
木上上吉 豊竹駒太夫
香イは上なし俗にはうすし蘭の花
ナ上上吉 竹本錦太夫
久敷盛をたもつきつきの花
大上上吉 豊竹鐘太夫
お名にかなふた丈夫なしゆろの花
上上吉 竹本染太夫
あたりつゞけし百日紅の花
上上吉 豊竹此太夫
功者にふしをまハす小車花
上上吉 豊竹麓太夫
日の出とほめらるゝ朝[白ハ]の花
上上吉 竹本志賀太夫
あけをうばふ紫のかほよ花
上上吉 豊竹十七太夫
ふもとの盛にぎやかなもゝの花
上上吉 豊竹加賀太夫
しほらしいはたが見ても卯の花
上上 竹本淀太夫
手入なしに見事なぼけの花
上上十 豊竹久米太夫
名所に名を得しはぎの花
上上 竹本喜太夫
上品にしてまゆつくり花
上上 竹本生駒太夫
仙人もつうを得たりや冬爪*の花
上上 竹本文太夫
手打に上手の入ルそばの花
上上 竹本咲太夫
聞てしほらしいわふよふの花
上上 豊竹喜代太夫
丈夫ても見ばへのなきびわの花
上上 豊竹光太夫
とり廻しやぼでない水仙花
上上 竹本礒太夫
ぢんしやうなけしき茄子の花
三味線之部
大上上吉 野沢喜八郎 竹本
分て水ぎわの立さぎ草
上上吉 鶴沢重次良 豊竹
うまいの親方ちゝ草
上上吉 鶴沢文蔵 竹
めつきりと見上たくわん草
上上吉 靍沢寛次 豊
おもふやうにまはる風見草
上上吉 鶴沢名八 豊
うつくしうとなへる美人草
上上士 野沢吉五郎 竹
正に愛すべしさくら草
上上 冨沢豊次良 豊
まめやかに引せる此よもぎ草
上上 大西金二 竹
上〃 冨沢平五良 竹
上〃 鶴沢仲助 豊
上〃 鶴沢弁蔵 竹
上〃 冨沢万五郎 豊
上 鶴沢市太郎 豊
上 鶴沢梅松 豊
上手にあいしらふ水くさ
惣巻軸座本
無類 豊竹越前少椽*
世界のまれ者うどんげの花
京都之部
上上吉 竹本中太夫
ぼたんに似たよふな物芍薬の花
上上吉 竹本音太夫
出世のはやい事日まはりの花
上上吉 竹本住太夫
次第にはづみのくる手まりの花
上上吉 竹本元太夫
是はとほめはずんだ柚の花
上上士 竹本家太夫
そまつに人の思はぬ蓮の花
上上 竹本常太夫
くせのないもの山茶花
上上 竹本絹太夫
色に取合のよきおどり花
上上 竹本佐世太夫
波打ぎわの鵜*殿*花
上上 竹本比奈太夫
源氏物がたりにもれぬ夕[白ハ]の花
巻軸
上上吉 竹本土佐太夫
座中しんとする茶の花
三味線之部
上上吉 竹沢鬼市
元日に賞翫する福寿草
上上士 冨沢徳次郎
こまかにわかる露草
上上 大西文吾
丈夫な所は師匠のかたみ草
上 冨沢文二
上 大西友蔵
上 冨沢音五郎
上 鶴沢小次郎
江戸之部
大上上吉 竹本春太夫
ゆつたりとして色を用る藤の花
上上吉 豊竹友太夫
しつかりと手あつい椿の花
上上吉 竹本岡太夫
聞人かんにたへ心を百合の花
上上吉 豊竹美名太夫
人聞てのんどなら*して引つわの花
上上吉 豊竹出雲太夫
まへ〳〵大キにはやりしもの菊の花
上上士 竹本綱太夫
初メて見て悦び給ふかぼちやの花
上上吉 豊竹須广太夫
ひいきにひかりをます仙翁花
上上士 竹本八義太夫
こまかにしをらしいは南天の花
上上士 竹本折太夫
誰レもうれしかる金銀花
上上 豊竹伊佐太夫
口中さく〳〵とした梨子の花
上上 竹本伊久太夫
とゞこほりなくとをるかいとうの花
上上 豊竹新太夫
やす*らかにふつくりと綿の花
上上 竹本鷲太夫
気に拍子の有ルたんほゝの花
上ト 豊竹瀧太夫
上ト 豊竹利喜太夫
上ト 竹本家太夫
よらずさわらず野菊の花
上 竹本玉太夫
上 竹本伊関太夫
上 豊竹三和太夫
上 竹本鳴戸太夫
上 竹本佐太夫
上 竹本妻太夫
世にはびこりて目出度稲の花
巻軸
功上上吉 豊竹丹後椽*
小金にたとへしもの山吹の花
三味線之部
上上吉 竹沢和七 肥前
心に有難ク思ふ観音草
上上吉 野沢文五郎 土佐
皆人此手にはほうれん草
上上士 野沢冨八 土
ひいきの場に長くすみれ草
上上士 鶴沢園次 肥
よくむすびかなへたけまん草
上上士 冨沢勝次良 土
手づよく名付た金剛草
上上 竹沢鬼作 肥
上上 竹沢三次 土
上上 竹沢東八 肥
にぎやかに聞ゆるもの七草
上上吉 岡村弥吉 土
ばちにはいか程のちから草
上 竹沢長五郎
上 竹沢久米蔵
上 竹沢冨蔵
上 竹沢喜四郎
上 竹沢和三郎
上 竹沢和吉
上 竹沢重蔵
上 野沢喜二郎
上 野沢源次
上 鶴沢平次
上 木村勘蔵
諸国へ名をひろめし田の草
座元之部
不出 豊竹肥前椽* 座元
其土地にはびこる鳳凰草の花
上上吉 竹本伊勢太夫 座元
末の賑なもの孔雀の尾花
寶暦十三歳
未の
初秋
浪花東都軒
口上
江戸堺町於外記座に大西藤蔵座本にて操芝居興行仕。尤名代看板新浄留理天竺徳兵衛郷鏡之由、初日出次第太夫・三味線評判差加可申候。其節又〃御もとめ奉願候。