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【 波のうねり鼎噂 】
(2022.05.15)
提供者:ね太郎
浄瑠璃評判記集成による *は日本庶民文化史料集成の翻字
波のうねり鼎噂
序
銭銀[ちこ]がなければ短夜[みじかよ]さへ寝寐られす、むつしやくしやとお笹のあられに歯[は]をいためふと思ひけるに、其昔[そのかみ]天王寺五郎兵衛殿佐ゝ木大鑑の末段の栄ゑ、今槌[つち]の子はやりもちまても此道をもてあそふ。折々は夜念仏[よねんぶつ]茶[ちや]つけの塩[しほ]ともなりぬ。又宮内[きうない]けい古屋等も夫々に声[こへ]をわけ節[ふし]を述る。上留利・三味線・人形の三つは庚申[かうしん]の若衆に似て一つかけても見ずきかず、三つの太鞁のてんから拍子に無里がきて予も慮外を吐出す、まことに唐人に乳とやらかし。
時首夏吉日
東西〳〵、大夫さみせんあやつり重問[ねどひ]のはしまり、かち〳〵〳〵。
「豊竹越前少掾」
声はこけらくず・とははて内通にやつた
節はゑりかうせん・なぜ雪の段切であつた
いん居してまだじゆずもたぬ伊勢参り
*節はゑつ王かうせん
巻頭大上上吉 竹本此太夫
声は床[とこ]のひやうぶ・とはひくふてもたてもの
節はなすび香物[かうのもの]・なぜもどつてからうまい
上上吉 陸竹佐和大夫
声はつよ気の相場・とはどふぞあげてほしい
節はちりめんのかゝへおび・なぜしめるほどしりがゑい
上上吉 竹本志广大夫
声はみなみの御堂様・とは高いてんじやうじや
節は毛とろめんのおび・なぜつよふても中から下
上上吉 竹本政大夫
声は鯉[こい]のさし味[み]・あぢはいより名がよひ
節は者[しや]のはてそふな・なぜうつりが残[のこ]つてねる
上上吉 豊竹陸奥大夫
声は坊主[ぼうず]あふぎ・とはほねぶとなが始末[しまつ]
節はかい帳のふだ・なぜ近[きん]ねんのはやり物
上上吉 竹本錦大夫
声は祝言[しうげん]の二日ゑい・とはもふわれました
節は功[かう]をへたすつぽん・なぜ川中のすい方[ほう]
上上吉 豊竹上総大夫
声はさかつきから茶椀[ちやわん]・とはめき〳〵とあがつた
節はよい衆[しゆ]くち・なぜすこし水くさい
上上吉 豊竹駒大夫
声は同家[どうけ]のいん居・とはうらがきく□しもた
節はやぶれたかみ子・なぜ初手[しよて]のうは気はどこへやら
上上吉 竹本文字大夫
声はまめ巾着[きんちやく]に小玉[こたま]・とはちいそうてもきれいな
節は勘当[かんだう]のむす子・なぜ江戸もどりからよい
上上吉 豊竹采女大夫
声ははりしの殺生[せつしやう]・とはそろ〳〵引ます
節は江戸のひたい・なぜすみ〳〵にねんがいる
上上吉 豊竹伊世大夫
声はあすか川・とはせが世になつた
節は四ほこし・なぜもちつとたらぬ
*節は四匁二分
上上吉 豊竹元大夫
声は切付[きつつけ]のせつた・とははてしりがほそい
節はやき物のうし・なぜ京からの出じや
上上吉 竹本百合大夫
声は生魚節*[なまぶし]同[どう]ぜん・とは大きうて歯[は]ぎれがせぬ
節は進上[しんじやう]に一升樽[せうたる]・なぜどふでも徳利[とくり]がない
上上吉 陸竹伊豆大夫
声はきやらのすりこ木・とはへらねばよいが
節は文弥[ぶんや]女郎[ぢよらう]・なぜ余[あま]りにくひ物でもなし
上上十 陸竹桝大夫
声は大めしくらい・とははりまくさい
節は茶[ちや]の下座[しも]・なぜおりが残[のこ]る様[やう]な
上上吉 陸竹桐大夫
声は金[かな]どうろうの紐[ひも]・とはもとはうきから出た
節は臥竜竹[ぐわれうちく]・なぜ座敷[ざしき]での内匠[たくみ]
上上十 竹本信濃太夫
声は嵯峨[さか]の名物[めいぶつ]・とは名ほどあり大竹
節は三りにやいと・精[せい]出したら達者[たつしや]になろ
上上十 陸竹冨たゆう
声はくつたくあたま・とはとかくふけました
節は末社[まつしや]の神・なぜ稲利[いなり]からの仕似[に]せ
上上 豊竹春太夫
声はのべのはながみ・遠音[とほね]がさゝぬわいの
節は五郎兵衛櫛[くし]・なぜこまかできれいな
上上 陸竹嶋太夫
声は当代[たうだい]のぬり笠・とはちと花者[くわしや]めいた
節は半額[はんかう]あたま・なぜ越前[えちぜん]の流義[りうぎ]
上上 竹本友太夫
声はつめ袖のげい子・とはじみでさみしい
節は町[てう]のめいわく・なぜまあワキでもめ
上上 陸竹左馬太夫
声は加茂[も]さむらい・とはうらがばゝい
節はごまのはい・なぜこまかにせらる
上上 豊竹鐘太夫
声は箱根[はこね]うぐいす、とはかはいらしいがなまる
節は在所出[ざいしよで]のまゝたき・なぜこはしやはらかし
上上 陸竹初太夫
声は朱唐紙[しゆたうし]・とはベち〳〵とする
節は親方[おやかた]せりふ・なぜずいぶんはたらけ
上上 陸竹美知太夫
声は弐百二十屋・とは平野[ひらの]の通用[つうよう]
節は呑[のん]で花見・なせしゆらなふて京がよい
上上 陸竹常太夫
声ははうづきみやげ・とはちよつこりやすい
節はよごれじゆばん・なぜどこやらうぢつく
上上 イ巴*国弥太夫
声はなら茶[ちや]くらへ・河内[かはち]からの出じや
節はやとひ徒士[かち]・どこやらそゝつく
上上吉 尾張力太夫
声は手をたゝく・かんがござらぬ
節はきんかあたま・すれてひかる
巻軸 大上上吉 豊竹上野少掾
声はびろうどのふとん・とはむつくりとするがちとよはい
節は鏡のいゑ・なぜ受領[じゆりやう]のうつは物
竹本播磨少掾
延享元 子七月廿五日 五十四才
名不聞院乾外*孤雲居士
名残はぐせひの船・とはのつた〳〵
天人の琵琶[びわ]に合して今もさぞ
三味線之部
名物極上上吉 鶴沢友治郎 竹本
太左衛門橋筋[はしすじ]・なぜ三筋のひんぬき
上上吉 竹沢弥七 陸竹
まこも草[くさ]・なぜ佐和太の引手[ひきて]
上上吉 鶴沢平五郎 竹本
ひれの吸物[すいもの]・なぜあらなり
上上吉 竹沢伊左衛門 休足
上上吉 竹沢善四郎 豊竹
上上士 鶴沢万三郎 竹本
上上士 野沢文五郎 豊竹
上上士 冨沢正五郎 陸竹
たらいぶせ・なぜよい分[ぶ]へはいるを待[まち]まする
上上 鶴沢儀助 豊竹
上上 竹沢乙五郎 陸竹
上 鶴沢伊八 竹本
上 野沢新蔵 豊竹
上 野沢卯七 同
馬[むま]のなみだ・似ました〳〵
精出して宿[しゆく]へ御はいり〳〵
巻軸 大上上吉 野沢喜八郎 豊竹
西横ぼり・引事[ひくこと]なら得手物[ゑてもの]
人形立役之部
左
上上吉 桐竹助三郎 竹本
名あらい・なぜあくがない
*水あらい
上上吉 若竹東九郎 豊竹
工藤[くどう]左衛門・なぜひがしの立役
上上吉 吉田才治 竹本
あべのどうじ・なぜとしよりはつめい
上上士 豊松弥三郎 豊竹
けいせいの寺[てら]参り・なぜうつくしいばかり
中尊
上上吉 桐竹門三郎 竹本
能書[のうじよ]とみた・なぜてら子やがよかつた
上上士 松本次良七 陸竹
餅[もち]さいく・なぜやはらかに遣[つか]ふ
上上吉 若竹伊三郎 豊竹
上手の鳶[いか]・なぜあがりばへがみへる
上上吉 浅田祐十郎 陸竹
あそがだけ・なぜ大にしのたて者
右
上上吉 豊松藤五郎 豊竹
銀四分一[ぎんしぶいち]・どこやらがくろふ御ざる
評預り 中村勘四郎 陸竹
女中さい領[れう]・役がらもとし相応[さうおう]
人形おやまの部
上上吉 藤井小八郎 豊竹
ひくひ髪[かみ]・なぜひがしのおやま
上上吉 山本伊平次 竹本
関の芝居[しばい]・なぜにしのおやま
上上吉 藤井小三郎 豊竹
土用干[どようほし]・なぜなはどこ迄[まて]も
上上士 三浦新三郎 同
ぐみの実[み]・なぜすふてもあまい
上上吉 笠井藤四郎 陸竹
たいこ持[もち]・なせ風[ふう]はよいがこしがかゝむ
惣巻軸
極上上吉 吉田文三郎 常座
阿蘭佗人[おらんだじん]・とはくろん坊[ばう]の大将
若緑 吉田八太郎 同
やがて鳥井[とりい]が立[たつ]・なぜ三度[さんど]の吉田[よしだ]
作者論甲乙あるといゑ共たとへば六拾九屋が四拾三屋となる是か 当世肝要〳〵。
細評頓る本出し申候祝儀