編輯室の窓

文楽 3巻7号

  

 九月の新橋演舞場へ文楽が一年ぶりに東上することになつてゐるが、現下における一般経済界の情勢から見て、今年度も昨年どほりの超満員を再現させるかどうか、これは疑問である。しかし、さうした興行成績にのみ拘泥した見方でなく、もつと本質的な成果をこの一年一度の東上興行に期待したい。

 この六月の大阪歌舞伎座、引続いて七月の東京新橋演舞場で上演された北條秀司氏の「文楽」をめぐつて作家の自由と事実の劇化とが問題となり、大阪府市会と北條氏との間に係争事件が起つたが、これについて特に作家北條氏の手記を頂戴することが出来た。

 本号から竹本綱太夫師の聞き書「むかしの師匠たち」を当分連載することにした。いふまでもなく綱太夫は次代の櫓下と目される俊鋭だが、私ごとき後輩が芸談でもありませんから、といふ心遣ひで、大序時代の思ひ出を語られることになつた。吉田兵次師の「淡路人形ばなし」とともに御愛読願ひたい。(S)