編輯室の窓

文楽 2巻8号

  

これは、むしろ最初、創刊号のこの欄で一筆すべきことだつたかも知れないが、その後機を逸してゐたので、遅々ながら今改めて一寸お断りしておく。

 それは他でもないが、本誌が誌名を「文楽」と命名してゐるといへ、決して文楽座とも、その経営者の松竹とも何等の直接的な関係を持つものでないといふことなのである。すなはち、本誌は名こそ「文楽」だが、当の文楽座乃至松竹株式会社から、金銭的援助は勿論のこと、凡ゆる意味における援助の一片すら受けてゐるものでないことを、明らかにしておきたい。従つて、雑誌「文楽」は夢にも文楽座の宣伝雑誌ではない。

     ×

 この点、本誌は何処までも自由で、何処までも明るく、独自の途が邁進できる。世に媚びることもなければ、権威におもねる要もない。況んや文楽座や松竹当事者から制摯を受くべき何ものもない。

雑誌「文楽」は常に自由なる「文樂」であり、公正なる「文楽」である。

     ×

 誌名が「文楽」だけに、或は一部識者の間に誤解を招く恐れなしとせないので、念のため、一応こゝでお断りして、本誌の本質を明らかにしておく次第である。

     ×

 この九月に、文楽座は八年振りに東上、京劇で二十日間興行を打つてゐるが、終戦後の劇場、宿舎、食料、交通あらゆる悪条件のため実現に至らなかつた待望の東京公演だけに、非常な感激で迎へられてゐる模様だが、さらに、この久々の東京公演を契機に、毎日薪聞社の「演劇教室」はじめ各方面で「文楽をめぐる」種々の計画が実現されてゐるといふ。それら「東京における文楽」については既に河竹繁俊先生から十一月号の本誌へ興味深き玉稿をいただく快諾に接してゐる。この点も十分の御期待を願つておきたい。(H)