編輯室の窓

文楽 2巻2号

  

 この月は読者諸賢に御報告やら御願ひすることが多々ある。

 第一にまづこの号から「鑑賞読本」と「芸能人のページ」の二つの欄を新設したことを申上げておきたい「鑑賞読本」は能楽、文楽、歌舞伎の鑑賞に是非とも心得べき基礎知識を最も正しく、然も最も平易に解説して行きたい意図から出た。執筆者は能楽に栗林貞一氏文楽に大西利夫氏、歌舞伎に渥美清太郎氏をそれぞれわづらはせて当分連載の形式で進みたいが、これは古典芸能の解説書として最も権威ある立派な定本となるべく十分御期待して頂けるつもりでゐる。

 「芸能人のぺージ」は舞台に立つ演技者の人たちが幕間のホッとした憩ひに、楽屋からそこはかとなく観客の皆さまへ話しかけるといつた寛ろいだ随想サロンにして行くつもりでゐる。そしてその第一の幕間に阪東蓑助と杉村春子の両氏に登場をお願ひした。いふまでもないが阪東蓑助氏は阪東三津五郎氏の令息で歌舞伎の若手俳優中最も知的な演技を注目されてゐる有為の逸材。最近では映画「歌麿をめぐる五人の女」の歌麿でも活躍されてゐる。杉村春子氏は文学座の杉村春子といふよりもむしろ、今日の新劇界切つての名女優として読者諸兄のすでに十分御存じの方である。

 さらに、この号から「梅玉芸談」を連載することとした。中村梅玉丈については、これも今さらめいた贅言の要はないが、この寡黙の名優が果して如何なる珠玉の芸談を語り出すか、興趣万々のものがある。執筆者には最近の好著「延若芸話」の著者山口廣一氏に担当して頂いた。これにも十分御声援を御願しておく。

 なほ、この機会に御報告申上げて読者諸賢とともに欣びたいことは、本誌が創刊の最初から編輯企画の上に何かと御助力を賜つてゐた別項の十三氏を改めて本誌の編輯企画委員として就任して頂いたことである。十三氏いづれも東西における斯界の権威者であり、これで本誌の内容と声価の上にさらに一段の充実を加へ得ることいふまでもなく、委員諸先生の御厚志のほど重ねて御礼を申上げておく。(B)

 

 本誌編輯企画委員
豊竹古靱太夫
大西利夫
河竹繁俊
高安吸江
能勢朝次
久住良三
山本修二
山口廣一
渥美清太郎
齋藤清二郎
木谷蓬吟
北岸佑吉
三宅周太郎
(イロハ順)