竹本 土佐尾

   
   
 
■(も)しそれ見台に向つて演するあらば、その多年修めし所の伎芸、普通娘義太夫一座の切前(きりまえ)の地位を保ち、スケ比羅の価値(あたひ)を有するも、今や収めて三味線弾となり、目下人気の大王、花方の親玉なる竹本綾之助を弾き毎夜二席の掛持に少からぬ好評を博する嬢の芸品、その弾振りに聞けがしの野心なく克(よ)く太夫を輔ふて弾く殊勝さ老練にあらざれば能はす、嬢は元来名古屋出身にて其師は先代の竹本土佐吉にして彼の土佐太夫と呼びし播磨翁の孫弟子たり、十二歳の時始めて同地の寄席に出で後ち就業に幾多の年月を積み去廿七年中出京し綾之助一座に加はりて三田春日亭を初席として顕はれしは同年の八月十六日なりき、以来今に至る五年間依然として同座を動かざる又珍らしゝと謂ふべし
【義太夫雑誌29:17評判】
 
旅籠町一丁目五番地星野喜三郎方白木アイ事 竹本土佐尾