豊竹 錣太夫
一は岡太夫が秘蔵の門人にて若手中秀芸の聞え高く、
丈の評判は屡々本誌に顕はるゝことなれば諸君は先刻ご承知イヤお馴染みの錣丈、何がさて確かりとしたる咽(つゝ)なれば節のこなし方自由にて殊に何を語りても車輪にやらるゝ所が即ち聴客(きゝて)に満足を与へる所以にして、手強くハキ/\とせし詞遣ひなど中/\心地よし、得意の語り物も多くある中に、丈が一手専売とも謂ふべき彼の「新比翼塚」品川楼の段なぞは取分て評判よきもの、この語り物を聞かんとて其夜を指折りて待つ客多しとはテモすばらしきもの哉、去り乍ら欲には少し沈着(おちつき)が出来て寂(さび)の添ひなば夫こそ申分なき上乗(ぜう/\)もの、何は兎もあれ目下若手中には得易からぬ好太夫、この分にて怠り惰けるなくんば真打の看牌も遠からぬ内に掲げ得るに至るべし
【義太夫雑誌32:8評判】