竹本 小正
目下女義太夫中の若き花形の一人として好評おさ/\先輩を凌駕し、尤も学徒書生間に贔屓の声高く、嬢が為めに組織されたる贔屓連一二にして止(とど)まらず、嬢があ下町の席を了(おはり)て山の手席に掛持を為せば、それが贔屓客は、又その車を追ふて掛持に聴行くの客数十を数ふに至つては、又盛んなりといふべく、前代の綾之助、兼花に比し、当代の京子に較べ得べきものあり、嬢は素故竹本若濱太夫の門より出で濱之助と名乗り尤も幼稚(いとけ)なくして夙に真打の看牌を上げて端席(はせき)に興行せし折から既にすでに前途有望の評嘖々たりしが、果せるかな睦席に加入せし以来、好評ます/\高く、今や竹本小政の門に入り師の名字より胚胎(はつたつ)して小正と改名し目下同師一座の切前(もたれ)に据り花形の花を彩りて倍々好評を博しつゝあり尚聞く所によれば近き看牌を上ぐるといふ全盛なる哉/\。
【義太夫雑誌50:22評判】