竹本 兼花
一は竹本兼花と云ひて目下花方中に評判高く彼の京子と倶にドウスル連に歓迎されつゝあるもの。
一昨年頃、東橋、新柳などの昼席に出勤し、染子と名乗りて口二三枚を語り居りし時代は左程人の目を惹き耳を傾くる事もなかりしが一とたび奮発して一意身を芸道に委ねしよりメキ/\と上達し、且つ芸外の美貌はます/\艶の添ひて今は天晴の花方と持囃され、席亭の引張り凧となりて木戸口に咲く兼花のビラに引寄せらるゝ客足の過半はドウスル連に持ち切られ掛持ちの席へは贔屓連が掛持ち先廻りして詰寄する全盛、不思儀の好人気を博せるより兎角評判を新聞に謡はるゝも、盛んなる時祟るものなき譬へにて、人気に打ち勝つ誹評とてなく伎芸熱心、席亭大切に二三掛持を怠らぬ勉強には帰家(かへり)て稽古の間(ひま)もなき程なりとはテモ驚くべき全盛の勢ひは嬢の為め誠に賀すべきと倶に又々望まねばならぬ伎芸の道、その以前隅造に学び、小染に習ひ、清花に修め若くは組、土佐の二丈にも教えられし当時の熱心を忘るゝなく、いよ/\益々勉強して遙けき前途真打の看牌にも今に劣らぬ盛りの花を咲かせ、寔(まこと)伎芸の実をも結び、伎芸と人気と両方を兼花嬢との評判を得るやう今より心掛るか肝心々々
【義太夫雑誌33:12-13評判】