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【 人形のノートから 】
人形のノートから
−文楽人形衣裳割之部から−
内海繁太郎
marionnette 1巻 p94−95 1930.7.28
一 妹背山婦女庭訓 山の段
(イ) 大判事清澄
頭 鬼一頭
鬘 胡麻二つ折
衣裳 緞子着付、紺金裃
(ロ) 大宰後室定高
頭 老女形
鬘 切髪
衣裳 唐草模様鉄色緞子着附、同裲襠、茶金の帯、紫金の紐、抱帯。
(ハ) 久我之助清船
頭 若男
鬘 細髷
衣裳 紫熨斗目の着附、紺金の袴、白足袋
この人形は八陣の加藤主計之助、忠臣蔵の力弥等にそのまゝ使用す。
(ニ) 雛鳥
頭 娘頭
鬘 十能
衣裳 緋緞子四季模様繍振袖、金裲襠、萌黄八枚、白縮緬扱帯。
この人形は、太閤記十段目の初菊、鎌倉三代記の時姫、本朝二十四孝十種香の八重垣姫、増補忠臣蔵本蔵下屋敷の三千歳姫等共通
(ホ) 腰元
頭 娘頭
鬘 高島田
衣裳 振袖、茶金の帯
二 大閤記十段目 尼ヶ崎の段
(イ) 明智日向守光秀
頭 文 七
鬘 操み上げ
衣裳 紺金鉄砲(筒袖)、萌黄の大口、白金襴ちはや、同丸絎の帯、脛当、紺足袋、武者草鮭。
(ロ)十次郎光義
夕顔棚の場
頭 源太
鬘 前髪茶筅
衣裳 白金織物の着附、紺金裃。
出陣の場
頭 あふちの源太
鬘 前髪茶筅
衣裳 赤地金織物の鉄砲、白金の大口、赤の丸絎、緋縅の鎧、金鍬形の兜。
手負になつてから
頭 あふちの源太
鬘 びんぱらの前髪
衣裳 出陣の場と同じ
この出陣後の人形は三代記の三浦之助、一の谷の小次郎等と共通。
(ハ) 真柴筑前守久吉
僧形の時
頭 検非違使
衣裳 白の着附、白帯、墨染の衣、白手甲、脚絆、草鞋
切の久吉
頭 検非違使
髭 茶筅
衣裳 白金銭砲、紺金大口、赤繍陣羽織、鍬形立烏帽子 萌黄金丸絎、脛当、紺足袋武者草鞋。
(ホ) 皐月
頭 婆頭
衣裳 卵地、切つぎ着附、水浅黄緞子、巾着帯。
(ヘ) 操
頭 老女形
衣裳 浅黄江戸淡紅の着附、全裲襠、紺金帯。
(卜) 初菊 (雛鳥は同じ)
上田万年博士、樋口慶千代氏共著の「近松語彙」を初め、木谷蓬吟氏の「文楽今昔譚」、三宅周太郎氏の「文楽の研究」等々、最近に到つて人形浄るりの研究考証に関する著書が、続々と刊行される事は喜びに耐えない。九月早々には決して雑話でない、石割氏の「人形芝居雑話」も近刊される。雑誌では既に第三巻に入つた「民俗芸術」が創刊当時から殆んど毎号、我国各地の人形浄るりを研究紹介してゐるのを初め、昨年の「演芸画報」人形芝居号、石割氏の「演芸月刊」石井琴水氏の「浄るり世界」等々、可成の多数にのぼつてゐる。其等はいづれも本号読者の好参考書である。