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【昭和十年代新作浄瑠璃文楽座床本集 勝舞龍】

(2016.08.15)
(2018.07.15補訂)
提供者:ね太郎
  
◎ 勝舞龍 PDF
 昭和19年1月
 
西亭作詞並ニ作曲 阪東三津之丞振付
大塚克三舞臺装置 村田芳生舞臺照明
勅題海上日出に因みて
新作 勝舞龍[しようぶりゆう]
一幕
(床本)
 そも/\これは八汐路の千尋の波の底深く四海を鎭め護るなるこの龍宮に年經るゝ仕へまつれる龍女なり。
 我れ悠久の昔より治まる時津風、この有難き~國のその古事の今爰に、おさ/\申すぞおそれあり。
 それ千早ふる~代の昔天地雷明震動く、雲霧蔽ひ重なりて、天水爲に紛紜たり時に御~示現あり、天明水澄と分ちあるこれ國常の~とあがめ申すそ尊けれ。
 其後七代の御時に諾冊二~なりまし給ふ、二尊は天の御弟もて天祖の御教へ浮橋に立たせ給ひて海原をかき分け申し奉れば、時に御矛のしたたりに凝り固りて生れしはこれぞ八州の豊國なり。
 扨も國土の鎭まりて地~の始めと曰さくは申すもおそれ天照大~にてましますなり、それより五代の千代と經て~むと皇との道直ぐに今も妙なる秋津州御影ぞまこと有難きそも浮橋の古しへの~歌に鳥羽玉の我K髪も亂れずに結び定めとゝの給ひて日月雨露の御ン惠み雷~風~龍~の各~ゝの現れて~コを衞護し給ふにぞ、空には五雲柵引きて風も治まる四海波八汐路はるか青海の春は女浪の靜やかに、月の光りの影澄みて夜遊の舞樂、ふる袖は汐の引く手の和けさ、秋は男波と寄す波に濱の砂もたわむれて悦ぶ聲は松風の䔥條たりける笛の音實に面白き和田の原、女浪男浪の睦ののおどろ/\と鳥る音は、四季を壽く調べにて聲萬歳と和しにける。
 さるにても時にこれ正像過ぎし末古の頃、世も弘安の四ツの年、西の小島を突き進み、皇土に迫る荒風の寄せたる夷十萬勢、畏れ多くも皇の討夷の詔かしこみて、時の勇將時宗は、筑紫隼人の兵達、老も若きも女子もなく打物取つて馳せ向ふ、八面大皮の勢ぞョもしさともョもしゝ實に/\、それよ其時なれ/\我國の理りや、などが御加護のあらざらん、幾百龍も吟ずれば、K雲雷鳴凄じく怒濤は山と逆巻くに敵の軍船木の葉と散り、水底深く白波の藻くずとこそはなりにけり。
 其時上がる勝鬨の聲は萬里の波の果てとふ/\とこそ響きけり、とふ/\とこそ響きけり。
 されば秋津州日ツ本は天日出づる~國なり、やはか夷敵にけがさんや。
 今又四海に打ち寄する不敵の夷討ちくだき、この波風を治めんと、~意の命に時を得て我れ冷爰に龍~と化して昇天いたすなり。
 元より二身ン一體の龍~龍の通力は飛行自在に嵐を蹴立て、雨風を起し雲を呼び逆巻く汐の廻ると共に天空はるか舞ひ上れば龍宮の燈火煌々と一天日月光明~天兩光一如となりかゞやく光り明かに奏でる樂の音につれて行衞も知れず飛びにけり、行衞も知れず飛びにけり。