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【昭和十年代新作浄瑠璃文楽座床本集 國威は振ふ】

(2016.08.15)
(2018.07.15補訂)
提供者:ね太郎
  

◎ 國威は振ふ PDF
 昭和17年2月
 
 乍憚口上
皇軍の向ふ處戰勝赫々として世界に輝き誠に御同慶の至りに奉存候然る處當座に於ても國内の皆々様が日夜の御熱誠なる銃後のお勤めに對して尤も文化的に明日への御活動に備ふるよりよき御慰樂を差上ぐる可く種々苦心配慮仕り當月も引續き總出演の豪華配役を以て秘藏狂言を時間の許す限り豊富に配列いたし太夫三味線人形連中全員愈々報國的熱演を以て御目見得致す可く殊には戰捷祝賀の意を籠めたる新作曲をも御試覧に供し度幸ひに御批判を賜り度尚又當興行にては野澤喜代之助改め五代目野澤吉三郎、吉田文作改め三代目桐竹龜松兩名の襲名披露を申上ぐ可く元より時節柄華美虚飾に亘る儀は差控へ唯々日頃の御恩顧に酬ふ可く車輪に相勤め可申候間何卒相變らず御引立御來場の程偏に奉御願申上候
  昭和十七年二月一日
    四ツ橋畔
     文樂座敬白
 
 
西亭作詞作曲
食満南北演出並衣裳考案
村田芳生照明
大塚克三舞台装置
大東亞戰爭に因みて
 國威は振ふ 全九景
場割
第一 元軍来寇
第二 南陣注進
第三 通有陣所
第四 元軍討入り
第五 大本營陸海軍部發表
第六 ハワイ大空襲
第七 ラモン湾上陸母船大江少尉戰死
第八 ラモン湾上陸戰
第九 國民總進軍歌
 
 御挨拶
 大東亞戰爭の赫々たる戰果に思ひ及びまする時銃時に於ける私共は一日も現状に安んずることなぐ、更に感奮興起して國力の充實を期さねばならぬことゝはゞかりながら存じます。就きましては聊か戰捷祝賀の意を含め、且つは精神作興の一助にもと「国威は振ふ」と題して新作曲を御尊覧に供することゝいたしましたが、元より短時間にて充分の意を盡す能はず、唯々祝賀曲とも御覧くだされ、出演連中の熱意のあるところを御鑑賞くださいますれば洵に幸甚に存じ上げます次第でございます。     敬白
  昭和十七年二月
          白井松次郎
 
大東亞戰爭に因みて
 国威は振ふ 全九景
 
 第一景 元軍來寇
 天津~、七世の後の天が下、照らしまつらふ大~地~五代の鎭まりて、人皇の始畏くも、~武天皇踐祚あり、皇威八紘にうるほして、悠久爰に千九百、四ツ一ト年の時ぞ今。弘安四年五月闇夢打ち破る胴羅の音、再び襲ふ元の軍、多々良の濱に寄す波の競ひに競ふ十餘万、今國難に上下無く、固き决意も皇民の心ぞ一つ悲壮なる。
 
 第二景 南陣注進
 爰、南陣の固めには、河野通有通時とて、菊池竹崎諸共に武勇筑紫に並びなき、其陣立の物々し、折もこそあれ武者一騎、馬を飛ばしてはせ來り、ヤア/\南陣の内へ物申さん、我は本陣の使者菅丹波御注進、と呼ばはりける、河野が郎黨走り出で、ナニ御使番とや御苦勞千万シテ/\注進のその趣き、されば候、先刻對馬よりの早舟にて、注進ありて候は、彼地に屯の後詰の軍、高麗江南の數万の勢援軍として追々に對馬を出でて向ひし由、今宵夜半は多々良の沖、勢を揃ふは必定なり、かくてもあらば猶々に、夢々油断は致されず、士氣を皷舞して御固め此上大切肝要との時宗公の御軍令、先きを急ぎの使番、乘打御免と式禮も、そこ/\心急ぎの駒、引返してぞかけり行く。
 
 第三景 通有陣所
 早夕陽もかたむきて、陣所/\はかゞり火の燃ゆる隼人の赤心に、敵も恐れて船がゝり、對陣すでに十餘日、河野が陣の帷幕の内、死を一筋の通有が、心面にあらわして、いかに通時、尋常ならぬ今度の合戰、畏れ多くも上、龜山上皇には、敵國降伏の御祈願に、御製「世の爲に身をば惜しまぬ心とも荒ぶる~は照らし覧るらむ」と御詠じ我國難に替らせんと、伊勢大廟に御宣命を捧げまつるぞ勿躰なや、この皇恩に我等が身の、幾千屍をさらすとも、やわか~國寸土たりとも、夷敵に汚する勿れ、すでに先刻决めし通り、明曉奇襲と極むる上は、何れ命を筑紫瀉卑怯の振舞仕給ひそ。仰せまでも候はず、一死元より君國の爲、武門の譽れこの上や候べき、執權北條時宗公にも、决死决意のこの國難尋常にては中々の事、寡兵を以て機を制すは、是ぞ~國無双の兵法、何條元軍幾万たりとも、斬つて/\斬りまくり、武威八紘にかゞやかさん、御安堵あつて候べし。と、實に後の世にかくれなき河野通有通時が勇武の程ぞョもしき、當番の兵士まかり出で、ハツ申上げまする、只今是へ北陣の將、竹崎季長公御越しにて候、何季長殿御來陣とな、夜陣の訪れ何かは知らずとく是へ御ともなひ申せ。ハヽツ畏まつて候。と立つて行く間も荒武者の小手脚當もりゝしげに早入り來れば河野道有。これは/\、よくぞわせられし竹崎殿、イザ先づ是へ、アヽイヤ/\非常の陣中御氣配御無用、イヤナニ通時殿にも日毎の對陣さぞ氣づまり、何れも陣中平懷御免。とむづと座して一融す通有不審の眉を寄せ、季長殿、打見る所、おことが面躰常ならずことさら夜陣の訪れは、されば候、某推參外ならず、思ふ仔細の候て、今宵御暇乞に參つて候、知らるゝ如くかく對陣以來、未だ雌雄の合戰もなけれど、生死不明の戰場なれば、何時如何なるやも計らず、若しかく申す季長が明日にも討死と聞かれなば、後陣のことはくれ/\も、御ョみ申す通有殿。と詞少なに語るにぞ通有猶も不審げに、これは又改つて、合點の行かぬ仰せかな、そも合戰の常として、命は捨つるは武士の習ひ、まして今度の此國難、我國民は一様に、皆々覺悟はあるべけれ、なれ共事急なる其お詞、深き仔細の候べしおかまひなくば明かされよ。さらばお話し申さんが、無謀の仕義とお止めもあらんなれ共、一度思惟の我一念必ず御止め御無用ぞ。承らねば仔細に知らず、いかにも仕義によりては止めはせじ、先づ何がな語られよ。さらば打明け申さん。と心かなめの軍扇に力をこめて季長が、そも/\去んぬる文永の役、敵敗戰の意恨に燃え、再度襲ひし元軍は、先きに幾倍數千の兵船、たとへ幾千幾万なりと、何條恐れ申さんや、寸毫尺土も我~國、けがさす事の荒夷、されど雲霞の敵大軍、夢々油斷はなり申さぬ、今又受けし本陣の急使の次第聞つらん、一日待てば一日の敵は後詰めを増すばかり、守る計りの戰陣は、却て士氣のゆるむのおそれ、折よし吹くは天津風、我は决死の手兵をあげ、この機を襲ふは兵法の、奥義も直ぐに敵船の眞ツ只中に切つて入り、夷が荒ぎも冥途の土産、死すべき時に死してこそ、ますら隼人の本懷なれ、死地に入りてぞかつ戰、御稜威の光り~國の、武威をしめすは今此時、後陣の事はくれぐもョみ存ずる通有殿。と、勇氣りんぜん季長が决意の程ぞョもしゝ、通有我が意と莞爾と笑み。ホヽヲ健気なり季長殿、などか御止め申さんや、さらば我等も申さんず、これも今宵はその謀議、一門引具し敵船へ打入る手はずもとゝのひいる、貴殿の心底聞くからは、さらに勇氣も百倍増し、共々御供仕らん。フムさては和殿も、通時殿にも。仰せ愚かや季長殿、などか後れて候べき。こは言はれたりな通時殿、實にョもしゝ/\。と敵をのんだる不敵の鬼武者天晴れ丈夫の魂なり。折ふし風に吹送られ、連れて聞ゆる胴羅の音、季長きつと聞き耳立て、あの物音は後詰の着到、エヽかしましき唐人共ろくにも立たぬこけおどし。蚊程にうるさきどうによふ八、明日のほえ面見ものに候、ムヽハヽ/\ハヽヽヽヽ如何に各々、幸先き祝ひ門出の盃、一献くまん季長殿、通有肴仕らん。面白の事なれや、實に面白の事なれや、敵の大船揖枕我は命も捨小舟、えい/\運を天津風、木の葉と散らせ夷敵原櫻と散らん大和魂いざ諸共に/\。ヤア/\方々勝鬨/\。エイ/\オー/\/\。
 
 第四景 元軍討入り
 筑紫多々良の海せまく、元の軍船滿々たり、ちやるめら太皷どらによふ八、打ち立て/\舟音頭只かしましき計りなり、中に大船大將の座船のともに兵士共、隊長沈元聲はり上げ、多隣/\張多隣/\來々/\。と、呼ばわれば、張多隣走り出で、沈元隊長何用あるか、大將より酒下さる、見張り止めて呑むよろしいな。日本兵中々豪膽中々強い、もし攻めて來るあぶないナ。なん/\我國忽必來王、中々えらい、この舟大將の船一番大きいナ日本舟小さいナことに此波風荒い、ナカ/\日本兵來る事無い/\、見張よろし、無用/\。それもそふあるなこの酒對馬の酒ぶんどる中々うまい、一ぱいやるよろしこれ/\阿呆丹/\、お前胡弓する、歌うたふよろし、皆々騒ぐよろし、エーイゲツプ。イヤチンツイニー、ターナンヤアンハン、マーイスンナコチマリラツソワン、シエン チエン パーヌチヤパツライパイソワン、パンヌチヤナコミンクソヲツンソワン、アーンヨー。キヤツ、ウン、ワアツ日本兵、それ來たナ、石火矢/\、ソレ皆々討つよろし、ワアンウン、それ、方々、勝鬨/\、エイ/\オー/\/\。
 
 第五景 大本營陸海軍部發表
 廻る日の、年はうつれど彌榮ふ竹の園生の尊くも我日の本のゆるぎ無き、大本營陸海軍部發表(十二月八日午前六時)帝國陸海軍は本八日未明西太平洋において米英軍と戰闘状態に入れり。本日畏くも大元帥陛下に於かせられましては、宣戰の大詔を渙發あらせられ、爰に大日本帝國は敢然として暴戻米英に對し宣戰の布告を致しました、時これ正に昭和十六年十二月八日。いまや我國未曾有の大難局にまことに畏れ多い事でありますが御聖斷により。斷然として打開せられ、一億一心の向ふ所まさに天日を仰ぐの感があるのであります、今や御稜威の本忠勇無比なる皇軍將士は電光石火の~速と决河の勢を以て陸に海に空に勇戰奮闘致して居るのであります、緒戰早くもハワイの大奇襲戰には米太平洋艦隊、空軍の全滅、マレイ半島上陸、續く英東洋艦隊覆滅、フイリツピン上陸等々正に有史以來の大戰果であります、然しこの戰捷に醉ふ事なく、勝て兜の緒を〆め、一億一心固き决意を以て前途の光明に突進致さねばなりません。
 
 第六景 ハワイ大空襲
 
 第七景 ラモン灣上陸母船大江少尉戰死
 思ひはるけきフイリツピンラモン灣頭敵前の上陸一歩先發隊、敵の機銃の彈の雨、壮烈悲壮日本魂、先發隊重傷者であります、そふかよし、アツ大江少尉か、軍醫殿殘念ツ……ヲツ弟か、しつかりせい兄だ恭臣だ。兄さん殘念です。ウツ察する、傷は淺いしつかりせい。イや自分の事はかまはず部下の負傷者に早く手當をしてやつて下さい。心配するな、他も皆手當をして居る、大江君、僕はあちらへ廻る、こゝは君にョんだぞ、殘念乍ら助かるまい、よく別れを。弟、よくやつたぞ。兄さん自分は敵兵の顔も見ず上陸の第一歩で……申譯けありません。ウムツ無念じやろ……氣もちはよつく解るが弟、お前達のその負傷で、どれ程戰友が奮起するか知れぬ、敵は今に取つてくれる、今こそ米領に初めての日章旗が燦然と打建てられるのだぞ。ヲヽ日章旗/\想出の伯林の空高く揚つた、アノなつかしい日章旗、今度こそは世界の空高く揚るのだ。弟、聞ゆるか、あの昔、アノ軍靴のひゞき、後續部隊の突撃だぞ。ヲツ聞へます/\勇ましい進撃の聲アヽ御稜威の光りは/\世界の果てまで輝くのだ
 
 第八景 ラモン上陸戰
 天皇陛下萬歳、大日本帝國萬歳、萬歳/\/\
 
 第九景 國民總進軍歌(全員合唱)