杉山其日庵遺作浄瑠璃集

此の冊子は、故其日庵主人杉山茂丸翁の義太夫の著作及補輯数種を印刷に付したもので誠に翁が敬仰すべき国士として政治方面に活動奔走せられる傍ら、義太夫節を大に愛好し、且造詣の頗る深かりしことは、今更申す迄もなきことで、又翁が此の道に関係のある者を愛撫し保護し督励せられて、義太夫道の権威ある大家大先達として重き存在であつたことも世人の普く知る所で、本年七月翁が突然長逝せられたことは誠に哀悼の至りである。此の冊子を繙きまた今日の此の演芸界に臨むにつけても漫ろに翁が在世の日を追想し感慨無量である。せめて今少しなりとも翁が長く在世せられたならば、必ずや此の道の為めに更に幾多の意義ある何物かを残された事であらうと思へば返へす返へすも翁の長逝は痛惜の限りである。

「杉山其日庵先生を偲ぶ竹本素女会の日」なる

昭和十年十一月二十八日 柳原義光 識