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 【 浄瑠璃秘曲抄 】

(2000.08.18)ね太郎
(2019.03.18補訂)

浄瑠璃秘曲抄 国会図書館デジタルライブラリ
底本 『浄瑠璃早合点』(架蔵本)
明治三十四年十月十五日発行 竹中清音堂
浄瑠璃早合点と浄瑠璃秘曲抄を合綴
 
浄瑠璃秘曲抄 寛延元年序 (日本庶民文化史料集成 第七巻 人形浄瑠璃)を参照した。[  ]内(目録、口中開合の項以降)は史料集成本による。
引用箇所の明らかなものは【 】内に外題名とともに頁数を示した。出典は文末に示した。 
 

浄瑠璃秘曲抄 序
岷江(ミんかう)はじめハ觴(さかづき)をうかぶ、楚(そ)に入ては則(すなハち)底(そこ)なしとかや。まことなる哉(かな)我(わが)竹本(たけもと)の一節(ふし)、其源(ミなもと)ふかゝらざるにはあらず、其枝葉(えだは)しげりてむつかしきこととなれり。今太平の御代(ミよ)にて、人ゆたかに事巧(たくミ)なり。故に当世(とうせい)の浄瑠璃(じやうるり)ハ昔(むかし)にたくらべがたし。こゝに古井(こゐ)の上(うへ)播磨(はりま)より義(ぎ)太夫、伝(つた)へ義太夫より後(のち)の播磨(はりま)伝(つた)ヘられし音節(おんせつ)の秘曲(ひきょく)、予(よ)に伝(つたハり)て此道(ミち)に妙(めう)を得(ゑ)たり。今(いま)これを当代(たうだい)のはやり浄留利(じやうるり)に引合(ひきあわせ)せて、其節(ふし)事のこまかなることを人に知(し)らしめん為(ため)、此一巻(くハん)をあらハして秘曲抄(ひきょくせう)となづく。人よく是を見て考(かんが)ヘハ其音節(おんせつ)の妙(めう)なることをしらんとしかいふ。
[注 史料集成本は下線部なし こゝに古井(こゐ)の上(うへ)播磨(はりま)より義(ぎ)太夫、伝(つた)へ義太夫より後(のち)の播磨(はりま)]
[寛延元たつのとし]
[汲古堂三東 撰]
竹本播磨掾撰
竹本大和掾校
[注 史料集成本は上の二行なし]
竹本錦太夫 
竹本政太夫 評
[ 目 録
一 初段口伝一 二段家伝一 三段秘伝一 四段相伝
一 五段明伝一 四歩六歩至極之事一 はまる拍子逢柏子一 地詞ふしの事
一 浄るり発端五言一 三重七ケ之品一 五節段切之事一 おくりに七ケの伝
一 ハヅミ一 ぬきひやうし一 ノリ地一 中ノリ
一 ヒロイ一 コハリ一 詞より地にかゝる四地の事一 地の心もち
一 拍子の次第一 五段共に心得の事一 道具屋ぶし一 表具ぶし
一 セツキヤウ一 地蔵きやう一 鹿ヲトリ一 江戸
一 舞一 三かつふし一 八郎兵衛ぶし一 角大夫がし
一 海道一 半中一 外記一 才もん
一 乱一 サハリ一 タヽキ一 半大夫
一 本ふし一 三ツユリ品三ツ有事一 四ツユリ一 七ツユリ
一 吉の一 江戸冷泉一 スエテ一 長地
一 あミと一 色一 ゴマぜウ一 林清
一 フシ一 同あミと一 三ツ引二字下り三字下りの事一 道行出端の事
一 五段の内ふし付仕様一 二ツ引三ツ引の事一 うれいふし付口伝一 助語七情のわかち
一 口中開合の事一 四季調子の神秘一 調子之性一 出妙丸
一 金竜丸]   
 

初段口伝 大方恋慕(れんぼ)
一 序(じよ)の内(うち)おろし迄(まで)ハ一番(ばん)の内(うち)の式(しき)三番(ばん)なり。あるいハ謡(うたい)より出、地(ぢ)より出、節(ふし)より出る。心持かハるべし。調子(てうし)ハ大やう一越(こつ)可(か)なり。いかにもあさやかに、乱(ミだれ)たる糸(いと)をさばく様に語(かたる)なり。見物の気をしむるならひ有。段切五段共に大事なれ共、初段の段切殊(こと)に大事なり。初日の初段ハ子細(しさい)有事なり。恋慕(れんぼ)ハしのび段などゝて、昔(むかし)より一通り有事也。只風俗(ふうぞく)を大事に、心をつよく詞(ことバ)をかろく、気(き)をしほれてかたる也。女房のせりふいやにならぬ様にかたるべし。恋なればとてやハらかにかたれパもたれてうるさし。せりふ川瀬(かハせ)のごとく、ふしは淵(ふち)のごとくといふならひあり。
二段家伝 大方修羅(しゆら)
一 初段の位(くらい)をかゑてめいらぬ様(やう)に語(かたる)。かろきハ位(くらゐ)なり。修羅(しゅら)ハ古播磨太夫の秘蔵(ひさう)せられし口拍子(くちひやうし)有。聞人掌(たなこゝろ)をにぎる様に気(き)をたるます語也。緩急(くハんきう)急緩(きうハわん)といふ事有。舞詰(まいつめ)のたくひ、口はやくハ心をしづかに持べし。口のおもきハ心をかろくかたるべし。
三段秘伝 大方愁歎(しうたん)
一 浄るりのこなしあやつり迄三段めを眼(まなこ)として、能(のう)ならパ曲舞(くせまい)也。但し浄るりの趣向(しゆかう)により何の事もなれど、位を付(つけ)て三段めにして語(かたり)こなすならひ有。三段めの位(くらい)とて別(へつ)に有。君臣(くんしん)のはかせと云事(こと)奥(をく)に記(しる)す。愁歎(しうたん)ハ真実(しんじつ)をわすれず、
一番(はん)の浄るりを胸(むね)にとめてかたる事(こと)なり。心の持用(もちやう)、かんおつの習(ならい)有。口説(くどき)、物語(ものがたり)、過去(くわこ)、目前(もくぜん)、感涙(かんるい)等(とう)のしな/\にしやベつあり。
四段相伝 大方道行
一 間(ま)を広(ひろ)くもたれぬ様に語べし。浄るりも大様むすびになり、人の気もつくる比なれハもたれてハあしし。道行ハふし事の第一とする也。貴賤(きせん)、老若(らうにやく)、男女、長(なが)道中、
一日路(ぢ)、舟路(ふなぢ)、山路(やまぢ)のかハリめ有。され共是は心持斗也。三味線に打そひやさしく語もの。序破急(じよはきう)の三段、序の急、破の破口伝まち/\也。但三味線に打そふと云事そふにあらず、拍子(ひやうし)にはまるといふ事、逢(あふ)といふを工夫(くふう)あるべし
五段明伝(めいでん) 大方問答(もんどう)
一 壱番のくゝりなればむつかしき物也。さりながら五段目ハ浄るりの趣向(しゆかう)次(し)第なり。位(くらゐ)は祝言(しうげん)。初段ハ絹(きぬ)、二段目ハうら絹、三段目ハもやう染色(そめいろ)上絵(うハゑ)ぬいはく、四段めハ糸綿、五段目ハ仕立也。問答詞ハ皆狂言なり。公家(くげ)、武家(ぶけ)、土民(どミん)、町人、敵役(かたきやく)、女、若衆(わかしゆ)、仏神の詫宣(たくせん)わきて大事有。但し躰の字、用の地と云事有。惣して是にかぎらず、ひつきやう狂言(きやうげん)の物まねなり。鳥類(てうるい)、畜(ちく)類、水のながれ、風の音(おと)、有情(うじやう)非情(ひじやう)迄口にて其景色(けしき)をうつす事也。然ども牛(うし)を牛の声(こへ)、ほらがいをほら貝(がい)の様にむさと似ふしを付ることあてしまいとてきらふ也。表裏(ひやうり)の物似(ものまね)有。表(おもて)とハわざをまねる、裏(うら)とは心をまねる事也。ゑしやく有べし。
四歩六歩至極(しごく)之事
一 高壱尺の物を始五寸の内にかたり、末(すへ)五寸の間を三寸に語(かたる)事有。又始五寸を二寸五分に語(かたり)、末五寸の間を七寸五分にかたる事有。三味線の合手、又あしらいともに、浄るり斗りにて三味線の間をかたる事なり。一挺(いつてう)皷(つゞみ)同意(どうゐ)の秘(ひ)が中の秘なり。
はまる拍子(ひやうし)逢(あふ)拍子といふ事
忠度の道行に【薩摩守忠度p327】
     持はまるといふ
物思ふ身ハ今さらに     余(よ)准之(これにならへ)
     持たず逢といふ 01
 
立ぬきと云事有。織物のごとし。さればこゑのあやをなすといへり。
    ノベル心   心の切 
タテ 此比なれししほ風も物思ふ身ハ今さらに
   チチム心  心の切  タテ
ヌキ ミヽにきびしく身にぞしむこゝこそこゝよ 02
 
君臣(くんしん)のこと。浄るりハ君、三味線ハ臣(しん)なり。君臣(くんしん)といふふし有。たとへハ
    臣ノフシ    君ノフシ
わせおくてなかてかるたや一二三
君ノフシ        臣ノフシ
けふりのすへを見わたせばいせの海づらべう/\と 03
 
地詞(ぢことバ)ふしの事
地ハ水のごとし。詞ハながれのことし。ふしはよどみのごとしともいへり。
 
浄るり発端(ほつたん)五言(げん)の事
初段ハ 扨も、其後 04
二段目ハ さて其後 05
三段目ハ さるほどに 06
四段目ハ かくて其後 07
五段目ハ さるあいだ 08
但し三四五段共に二段のふし付也。右五ケの詞わかち有と斗心得、音(おん)の出所ふしの語やう其功(こう)あらわるゝ物也。初段のかたり出し一越調(いちこつてう)を可といふ事此奥(おく)に記(しる)す。
 
三重七ケ之品
大三重 たとヘハ五人兄弟初段中入 【曾我五人兄弟p280】
たいこのこゑやつゞミのねちゞの秋こそ [カン]09
是を真の三重共いふ。是ハ初段の中入より外にはなき事也。其外ハ行草(ぎやうそう)の三重なり。
三重 是ハ何事もなき常の三重なり。
猛(きをい)三重 たとヘハ義経千本桜序の中【義経千本桜p23】
あミをのがれて 10
 
愁(うれい)三重 たとヘハ芦屋道満四の口 【蘆屋道満大内鑑p489c】
尋来ませ和泉成信田(しのだ)の[上]森(もり)へと 11
 
中愁(うれい)三重 たとヘハ千本桜二の口 【義経千本桜p40】
涙と共に道すじをたとり[上]/\て 12
 
しころ三重 是ハ大かた道行の中に有。
 
吟三重〔トルトモ云〕 たとヘハ忠臣蔵に 【仮名手本忠臣蔵p73】
あかりをてらす障子(しやうじ)の内かげをかくすや 13
 
五節(ごせつ)段(たん)切之事
神祗(じんぎ)釈教(しやくけう)恋(こい)無常(むじやう)哀侍(あいじう)祝言(しうげん)等(とう)などに付、責(せめ)詰(つめ)勇(いさミ)などのかハリめ有。たとヘバ神祗ハ天智天皇の三段目三人(ミたり)の翁(おきな)の段切高砂の謡(うたい)のごとく双調(さうてう)にかたるべし。祝言に是も同じ音声引すて迄めいる事なきやうにかたるべし。釈教は五戒魂(かいのたま)三段目の段切平調よりとりて次第にあげ、詰(つめ)を語るべし。無常ハ黄鐘(わうしやう)などゝて、皆それ/\理の上に呂律(りよりつ)の配当(はいたう)有べけれども、大やうかく心へ、只ふしの語様はやめ、詞のわかるやうにしてもたれざるをよしとするなり。
 
おくりに七ケの伝
常のヲクリ 是ハハル中品(しな)ばかり。記(しるす)に不及。
 
小ヲクリ たとヘハ手ならひ鑑道行の内 【菅原伝授手習鑑p47】
行ハ車の供ならであとゝ 14
 
キンヲクリ たとへハ姫小松二ノ中に 【姫小松子日の遊35丁ウ】
   早ふ/\にぜひなくも一間に 15
[注 此の項 史料集成本では
たとヘハ忠臣蔵九段目 【仮名手本忠臣蔵p86】
詞もしどろあし取もしどろに
と例示されている]
是ハユリあるも有、なきもあり。
 
色ヲクリ たとヘハ楠昔噺三の切に 【楠昔噺p403】
手を引あふておぢうバヽ一間へ 16
[注 史料集成本ではウヲクリ]
 
ウヲクリ 小おくりとまぎろ敷物なり。たとヘバ忠臣蔵八段目道行の内に 【仮名手本忠臣蔵p84】
娘小なミがいひなづけたのミも 17
[注 史料集成本では色ヲクリ]
 
アタリヲクリ たとヘハ児源氏道中軍記道行 【児源氏道中軍記】
其俤(おもかげ)ハ我ながらわしとハ 18
 
歌ヲクリ たとヘハせみ丸の道行の中に 【せみ丸p346】
きけばやアヽ爰にあハた口 19
又甲賀三郎三段めに 【甲賀三郎窟物語】
つぼね/\に火をとぼす 20
是ハ後の詞小歌よりうつるゆへ、まゑよりヲクルフシに心へあり。
 
ツキヲクリ たとヘバびやうぶ八けいの内に 【義経新高館】
浜名のはしハ後たへてさよの 21
 
ハヅミ
是に三ツあり。大友真鳥に 【大内裏大友真鳥p129】
ふきミだ[合]る柳の枝の 22
大方修羅の内
あたりをにらんで立[フシ]たるハ、心地よかりしありさまなり 23
風俗三の口に 【風俗太平記】
暇申て今むらさきハ、[フシ]本国さして帰りけれ 24
 
ぬきひやうし
たとヘバ行平の道行に 【行平磯馴松p59】
あるかなきかの草のはら露ほどなりとも[トル]今いちど、25
是ハ合イ間へ行ひやうし。
 
ノリ地  中ノリ
ヒロイ
たとヘハ清和のはたそろヘに 【清和源氏十五段】
三ツびし四ツひし五まいのかぶと、たんざく印のさ[トル]し物こそ 26
 
コハリ □□ □□  キン 之しだひ
  ハルフシ ハルフシ フシ 27
 
詞より地にかゝる四地の事
地色 地ハル 地ウ 地中 28
右の四地わからねばいつもおなし地あひにて、浄るりめいるものなり。
 
地の心もち
いづくにても先ハルより出れは其音(おん)にて語(かたり)、其中迄ハ心持(こゝろもち)右のハル中同断、又其中よりハ最前ハル文句ハ終りにて、中かゝる文句の始りなれども、音ハ中をだいにして語るべし。文句さへはたらけば浄るりハめい/\の浄るりとかたるべし。さるによつて文句の内の中かならず人形受取渡しに有物なり。同じ人形に有るハすくなしと、かくハ地あいくちにたまらぬやうに語るべし。
 
拍子(ひやうし)の次第(しだい)
三ツ五ツ七ツと心へべし。たとヘバ瀧の水のおつるごとくなり。三ツても壱尺、五ツでも壱尺、七ツでも壱尺、右ひやうしなくてはあまたれ拍子にて退屈(たいくつ)するものなり。そこを程よく引立て、気はいつきぬやうに語るを名人といふなり。播磨(はりま)/\と一体(たい)をしれぬやうに、義太夫ふしといふ物ハもと表(おもて)嘉太夫裏播磨と合したる物なり。よく/\工夫すべし。
 
浄るり五段共に心得の事
序(じよ)より五迄に、いつ迚(とて)も幕(まく)切て始の節(ふし)迄ハ只何事もなく其気色(けしき)斗りに語なす物なり。始の節(ふし)すぎてハ其節迄の気をかへ、文句大事に語べし。惣而人形替る度々其気をかへ、同じ人形度々物をいへともさきの人形目当(めあと)替ならば、同し人形成(なり)共心持をかへ語物なり。当代の浄るりハ節斗りに気を付ケ、肝心(かんじん)の文句(もんく)ハおるすになつて浄るり語ルでハなふて節(ふし)語(かた)る也。少々節(ふし)ハ三ツゆる所を二ツでも四ツでも其時の拍子(ひやうし)次第、とかく文句に気を付、一字のかなでもあそばぬよふと語べし。然れども節のゆり迄ちがハぬ程浄るり修行有ハ、おのつから文句も働(はたら)く道理(だうり)なれば是第一の肝要(かんやう)なり。
 
道具屋ふし
たとヘハ清和源氏はたそろヘに 【清和源氏十五段】
[ハル]よくもとふたりかしこ[下]くも、[ウ]此具足をめ[ウ]されんハ、[ウ]清和源氏の大将へ、[中ウ]此姥がさゝけ物ミはたを[フシ]立て待ぞとよ
29
 
表具ぶし
たとヘハ清和の道行に 【清和源氏十五段】
[ウ]びやうぶふすまの絵ならでハ 30
 
セツキヤウ
たとヘハ行平の道行に 【行平磯馴松p59】
ヤア姉君かいのとはしり付、ミ[ウ]づからがじゆんれいもおまへのぼだいのためなるに、
31
 
地蔵きやう
たとヘハ時頼記の道行に 【北条時頼記p112】
さいしちんぼうぎ[ウ]うわうゐけんそくぎうばお[中]ほけれど、[中ウ]たましゐちううに[
ハル]入ぬれバひ[中]とつもしたかふも[ウ]のそなき、此[中]時たれをか頼べき[ウ]その時たれかたすくべき 32
 
鹿(しゝ)ヲトリ
たとヘハあづまかゞみ四の口に 【東鑑御狩巻】
[ハル]うつり行、すがたばかりハかハれども 33
 
江戸
たとヘハ東鑑(あづまかゞミ)三の切に 【東鑑御狩巻】
[ウ]一卜間の内よリ[ウ]立出る、朝[ウ]比奈三郎義[色]秀、さ[ウ]ほうたゞしきゑ[ハル]もん付、なか、[下]はかまの[ウ]すそふみしたき、[]しぜんとそなハる、[フシ]勇者(ゆうしや)のぎやうそう
34
 
舞(まい)
たとヘバふし見西行五段めに 【軍法富士見西行p338】
[ハル]梅が枝こそ[ウ]鶯の、や[中]ぐら[ウ]のかハらつの見ゆる 35
 
三かつふし
たとヘハかさねゐづゝ道行に 【心中重井筒p155】
[歌ウ]爰ハ竹田か夜ハ何時ぞ、[ウ]五ツ六ツ四ツ千[入]日寺のかねも八ツか七ツ[ウ]のしばゐ 36
 
八郎兵衛ふし
たとへばだんどくせんの道行に 【本朝檀特山】
[歌ウ]とんとせなかへもたれてかゝる、[ウ]人の見[ウ]るめと[ウ]にな川が 37
 
角大夫ふし
たとヘハ万戸(まんこ)の三の口に 【万戸将軍唐日記51丁オ】
こしもかいなもめつき/\[ハル]跡ばりにいたんでくる 38
 
海道(かいだう)
たとへばながらの道行 【摂津国長柄人柱p202】
[中]ゆくも山中、また行道も、[ハル]山中の 39
 
半中
同じくながらの道行に 【摂津国長柄人柱p202】
[上]ミねにこたまの音すれバ [ウ]谷におちくる水の音そらを[]そろしや我が身より、[ウ]我が身をせむる我心 40
 
外記(げき)
同じ道ゆきの奥に 【摂津国長柄人柱p202】
アレ/\ [ハル]む [下]かふの小[色]松原、 [ハル]君の御ゆきを待顔に、[中]山をかくしてな
[ウ]ミ木の松、[ハル]是を味方の軍兵と [色]名付やがて御かせい [ウ]うんかのごとく 41
 
才(さい)もん
八百やお七道行よぶこ鳥といふ出し、それよりいろ/\の才もんあり。二上り三下りあり。古よりさいもんと云。隅田川道行はらひ清め奉ると云がさいもんなり。語りやうハ大分替るべし。
 
乱(ミだれ)
猿(さる)丸太夫 酒宴車(しゆゑんくるま)に 【猿丸太夫鹿巻毫 二段目道鏡酒宴車】
[ハル]いざや酒 [下]をく[ウ]もふよ、く[中]め共つきぬ、いづミの[ハル]甘露(かんろ)、[ウ]薬と[下]菊[ハル]の酒、と[ウ]もにめぐる盃、[ウ]竹の葉のし[]
たゞりし [ウ]づくとつもつて、ゑいをすゝむ [ハル]たのしミ面 [ウ]白のしゆゑんや、 42
 
サハリ
浄るりの内少しにても外のふしにかゝるをさハリといふなり。
 
タヽキ
たとヘハかり金の道行に 【男作五鴈金p238】
[中ウ]見れバこよひも早、四ツ[キン]橋を[]一ツ渡りて又渡る、[ハル]是
ハうき世を渡ス橋、[上]我ハう [入]き身のはし [中]女良、 [ハル]花車(くわしや)がしからふ禿(かぶろ)がたづねふ、アヽ[ウ]まゝにして [フシ]すミやまち 43
 
半太夫
清和の二の切に 【清和源氏十五段】
[ハル]思ひ候、べくの、ゆ [ハル]りバなしたるすいぶすいふ[]つたがとがになるならバ [ヲクリ]おさき、鳥毛や十
[フシ]もんじ 44
 
長地ニ二ツ有。壱つハいつものことく、壱ツハたとヘバ大塔の宮道行に 【大塔宮曦鎧p286a】
きのふ [ハル]詩作り歌によミ、 [長地]しきにか[ウ]くとハ[ウ]思ひきや[ウ]けふ見るしづがい[中]となミ 45
是ハ少し心得早く語へし。
 
林清
たとヘハ文七の呉服の段に 【男作五鴈金p187】
去ほどに、 [キン]おぐりどの、照天の姫と御祝言、三〃九度の盃に、[ウ]毒酒をすゝめもりころす、よこ山一家が悪心、[ウ]夢にもしろしめされいで、
[フシ]引請/\のミ玉ふ 46
 
惣して入ふしの直り大事なり、よく/\心得べし。
 
あミと
たとヘバかりがねの道行に 【男作五鴈金p238】
木にさらさるゝとゆうがらすなく/\[合] 47
壱ツハ合手無キも有り。たとヘバかるかやの五段目めに 【苅萱桑門筑紫[車+栄]p554c】
心ほそ道わけまよいおりつ、のほりつ 48
【名著全集本:心細道つく杖は[アミド]おりつ登りつ行先を】
 
此外文弥、国太夫、一中いろ/\有。其外時〃のはやり歌、あるひハ何にても入レぶし有時ハ、先其(その)音声(おんせい)を能聞とり、跡にてふしのユリを覚へべし。たとへふしユリ覚へても、其つぼを覚へねバ義太夫ふしへの取りつきわるし。しかしながらいかなる入レ事をましへかたるとも、浄るりのじやうかくといふものをとかくむねにもちてよく/\くふうすべし。
 
本フシ ハル 是ハ常の通り。
又盛衰記(せいすいき)序の切 【ひらかな盛衰記p627c】
夕部の儘[下]ふりミだし 49
【名著全集本:[本フシ]ゆふべの儘に振乱し】 
又真鳥(まとり)三之口 【大内裏大友真鳥p109】
けいやうこがうの [ハル]つくも髪 50
 
三ツユリ品三ツ有
忠臣蔵道行に  母の心もいそ/\と 【仮名手本忠臣蔵p84】51
同しく道行に  いふて嶋田のうさはらし 【仮名手本忠臣蔵p85】52
同 九段目に  仁躰(じんたい)捨(すて)し遊ひなり 【仮名手本忠臣蔵p86】53
 
四ツユリ
たとヘハ真鳥道行に 【大内裏大友真鳥p128】
かたしく袖の片思ひ 54
 
七ツユリ
たとヘハ夏祭道行に 【夏祭浪花鑑30a】
[ウ]今一腰とくづおれて、ついに此身のおハり坂 55
 
吉の
たとヘハせみ丸の道行に 【せみ丸p347】
雨[ノル]にハ、あ[ウ]らてヤこれの木〃の木のはか[合] 56
【全集:あらてやこれのきゞの、きゞの、このはが】 
 
江戸れいせい
たとヘハあしや道満の道行に 【蘆屋道満大内鑑491b】
行 [ノル]ハかすかに [合]夕つく [下]日 57
 
スヱテ
是に二ツ有。品〃あれども、先一ツハうれい、道行の内に有。又一ツハふしおかみとて、是ハ随分うれいなきやうにいふかよし。
 
是ハ詞へしつかりと取付時のふし也。
何として何と[色]して、何[詞]としてから何として 58 此如く也。
 
59 是をごまぜうといふ。
 
フシ  其段の内にハ数〃有なれども、外之段ハ各別其段にてハ同し様に語(かたる)事を忌(いむ)也。
 
ハルフシ60 フシ
 
是もよく/\心得べし。此外に二ツ引三ツ引、二字下り三字下りといふ事有
 
道行出端(では)の事
五人兄弟の道行に 【曾我五人兄弟p342】
[フシ]ほとけももとハ 61
是をふしといふ。
 
又百日曾我の道行に 【百日曾我p534】
[ハルフシ]恋といふ 62
是をハルフシといふ。
 
又世継曾我の道行 【世継曾我p30】
[ハル]さりとても 63
是を狂女の出端(では)といふ。あやつりのしくミに人形つか/\と出る時か、或(あるひ)ハくかひの時か、人形出てかたり出すに此ふし有。
又せみ丸の道行に 【せみ丸p345】
[フシハル]むすぶの[中]神も 64
是をハルフシと云。右の四品ハ平生定まりたるふしながらも、位とかたり様有。其外時のはやり歌にてかたる事有。
 
五段の内ふし付仕様(しやう)
かハらめや 65
と二字同じやうに引クハいやし。
 
三ツ引といふも左のごとし。
 
うれいふし付口伝
甲の甲といふ事惣じて人のなげく声、女の調子(てうし)ハ断金(だんきん)也と云。又おつにてかたるうれいはくどきと云也。謡(うたい)のふしの思ひ入よし。
 
助語(じよご)七情(じやう)のわかち
ハア ハア ヱヽ ヱヽ アヽ アヽ ヲヽ ヲヽ イヤ イヤ
ムウ ムウ ナウ ナウ ナフ ナフ/\ 66
 
おどろく時のハア、かなしミ/\てのハア、いかつてのヱヽ、たのし見てのヱヽ、にくミてのヱヽ、我身をくやミてのヱヽ、とをくよひかくるナウ/\、ちかき物いふナウ、其品〃ハ文理をよく/\工夫あるべし。あなかしこ/\。
 
トアルハすぐにかたる章
トアルハもつなり
トアルハさぐる
トアルハさげてもつ
トアルハいるゝ
トアルハおす
トアルハつよくおす
トアルハ入ておす章也
トアルハふるなり
トアルハもつて少シおす
トアルハのむ
トアルハもつてはぬる
トアルハはやむる
トアルハはつてはぬる
 
トハ地詞にもあらず、つめる心なり
五字ヲトシフシトハ何としてからものとする 67
ウフシ 何としてからものとする 68
キンハルフシ 何としてからものとする 69
 
二ツ引三ツ引の事
二ツ引、あるひハ五人兄弟道行の中に 【曾我五人兄弟p342】
今の衆生にかハらめや 70
 
口中開合(かいがふ)の事
アイウヱヲ  鼻喉(はなのんど)にわうず
カキクケコ  をく歯(は)にわうす
サシスセソ  歯(は)にわうず
タチツテト  舌にわうす 軽
ナニヌ子ノ  舌にわうず 重
ハヒフヘホ  唇(くちびる)に軽(かるく)わうず
マミムメモ  唇に重(おもく)わうず
ヤイユヱヨ  喉音(こうをん)にして鼻に近(ちか)し
ラリルレロ  舌の根(ね)より出る
ワ井ウヱオ  鼻(はな)喉(のんど)にわうず
口(くち)をすぼむ
舌(した)を出し口を中(ちう)に開(ひら)く
歯をかミ口をほそむ
歯をかミ唇をひらく
歯も盾も開く
十二時もおなじ事、とらの時を平調(へいてう)にあて申候。それより次第/\なり。左の図(づ)のごとし。
図省略(浄瑠璃早合点参照)
春ハ双調
夏ハ黄鐘
秋ハ平調
冬ハ盤渉
土用ハ一越
双調 黄鐘 一越
平調 盤渉
呂の音よろこひの音とするなり。夫ハ天に用ゆへ天には楽しミ多によつてなり。律の音かなしミの音とする也。夫は地に用ゆべし。下界にくるしミ多ニ依て也。
一、調子之性
双調ハ 木  春のどのこへ
黄鐘ハ 火  夏はのこゑ
一越ハ 土  土用きはの声
平調ハ 金  秋したの声
盤渉ハ 水  冬口びるの声
 
○出妙丸(しゆつめうぐわん)こゑのくすり
一 方(ほう)能(よく)声音(せいおん)を出す。常(つね)に音曲(おんぎょく)を好(このむ)人常(つね)に用て効(しるし)あり。或(あるい)ハ夜陰(やいん)に
声(こへ)を遣(つか)ハんと思ハ、早朝(さうてう)より頻(しきり)に用ゆべし。
石菖蒲(せきしやうぶ) 一寸に九節(ふし)有をよしとす。白水(しろミず)ニて洗ひ[坐+リ](きざみ)炙(あぶ)る
麦門冬(ばくもんどう) 能(よく)肥(こへ)たるを去心(しんをさり)きざみ、炙(あぶり)鉄をいむ。
氷砂糖(こほりさたう) 各(おの/\)等分(とうふん)
右三味(ミしな)細末(さいまつ)煉密(れんミつ)ニて煉(ねり)、熱湯(あつゆ)にて用。
金竜丹(きんりうたん)
治(ぢ)同前(まへにおなじ)、或(あるひハ)久(ひさ)しく痰咳(たんがい)などを患(うれ)ふる人必後(かならずのち)に失声(しつせい)す。又ひさしく声をつかふ人、後(のち)に悪(あし)くなるに用て声よく出る事妙(めう)也。常に用る時(とき)ハ声に潤(うるほひ)を出し、いかほどつかふといへども声あまるなり。
薄荷(はつか)十匁、川[草/弓](せんきう)二匁五分、桔梗(ききやう)三匁、竜脳(りうのう)五分、五味子(ごミし)五分、甘草(かんざう)五分
右細末(さいまつ)にして白密(はくミつ)にて煉(ねる)。
常に痰(たん)の気(き)有(ある)人(ひと)生姜湯(しやうがゆ)にて用。余(よ)は白湯(さゆ)にて用ゆ。
 
   南本町一丁目
彫工 本屋嘉兵衛
   綿袋町
書林 播磨屋佐兵衛版]
 
参照テキスト

 
大塔宮曦鎧日本名著全集江戸文芸之部浄瑠璃名作集 上
芦屋道満大内鑑日本名著全集江戸文芸之部浄瑠璃名作集 上
苅萱桑門筑紫[車+栄]日本名著全集江戸文芸之部浄瑠璃名作集 上
ひらかな盛衰記日本名著全集江戸文芸之部浄瑠璃名作集 上
夏祭浪花鑑日本名著全集江戸文芸之部浄瑠璃名作集 下
大内裏大友真鳥叢書江戸文庫竹本座浄瑠璃集1
行平磯馴松叢書江戸文庫竹本座浄瑠璃集3
男作五雁金叢書江戸文庫竹本座浄瑠璃集3
軍法富士見西行叢書江戸文庫竹本座浄瑠璃集3
楠昔噺叢書江戸文庫竹本座浄瑠璃集3
北条時頼記叢書江戸文庫豊竹座浄瑠璃集1
摂津国長柄人柱叢書江戸文庫豊竹座浄瑠璃集1
世継曾我近松全集第1巻
薩摩守忠度近松全集第1巻
せみ丸近松全集第2巻
曾我五人兄弟近松全集第3巻
百日曾我近松全集第3巻
心中重井筒近松全集第5巻
菅原伝授手習鑑岩波文庫30-241-2 
仮名手本忠臣蔵岩波文庫30-241-1 
義経千本桜岩波文庫30-241-3 
万戸将軍唐日記加島屋清助版 
姫小松子日の遊加島屋清助版