今日此頃義太夫細見(明治廿七年十月上旬調)
「別世界」二巻十一号 明治27.11.5
倉田喜弘編 東京の人形浄瑠璃 p216-218
目下の嗜好に迎へられて義太夫の流行する事今日此頃より甚だしきはなし。此流行の機に後れじとて、大坂、西京、阿波地方、偖は名古屋の各処より続々義太夫語りの上京り来りて、目下東京に在る男女の義太夫語りは、三味線弾ともを併せて実に九百余名の多きに上れり。今其筋(チト大袈娑)の調べを写して是等の人名を本誌に掲げ、同好諸君のお慰みに供するも亦流行に後れじとの心懸けのみ。左れど此に出すは、男女何れも一等、二等の鑑札を有する者のみに限れば、もし万一御贔負の名前の見えぬものあれば三等以下の者と思召して、編者の故意にあらずと悪しからずお恨みなきやう願ふになん。仙寿楼主人識す
○一等鑑札の部(男八名、女一名) | ||
竹本政太夫こと | 日比野又市 | 文化十二年三月生 |
竹本綾瀬太夫こと | 中村彦兵衛 | 天保四年十二月生 |
竹本播磨太夫こと | 大和田伝四郎 | 天保六年十二月生 |
竹本相生太夫こと | 三輪平太 | 嘉永元年正月生 |
竹本朝太夫こと | 中井丑之助 | 安政三年二月生 |
野澤語助こと | 成瀬松次郎 | 文政十年九月生 |
当時大阪へ旅行中のもの | ||
豊澤団平こと | 加古仁兵衛 | 文政十年三月生 |
豊澤広助こと | 栗原豊助 | 天保四年○月生 |
○二等鑑札の部(男三十名、女五十九名) | ||
竹本組太夫こと | 片岡藤七 | 弘化四年七月生 |
竹本津賀太夫こと | 上田久兵衛 | 安政三年三月生 |
竹本職太夫こと | 仁木卯三郎 | 安政四年三月生 |
竹本織太夫こと | 加藤房次郎 | 安政三年八月生 |
豊竹駒太夫こと | 川崎宗太郎 | 安政元年三月生 |
豊竹磯太夫こと | 田中猶七 | 嘉永元年五月生 |
豊竹新呂太夫こと | 永井卯兵衛 | 安政六年正月生 |
竹本筆太夫こと | 福田虎造 | 天保十二年六月生 |
竹本筑後太夫こと | 長島平吉 | 文政十二年二月生 |
竹本菖蒲太夫こと | 島谷吉造 | 天保九年四月生 |
竹本古倭太夫こと | 加藤鉄三 | 天保七年三月生 |
鶴澤豊造こと | 植松広右衛門 | 文政十二年二月生 |
鶴澤清六こと | 石井平次郎 | 天保九年三月生 |
豊澤松太郎こと | 高木松太郎 | 安政四年四月生 |
豊澤小団二こと | 井上槌太郎 | 嘉永四年十月生 |
鶴澤文蔵こと | 成川清吉 | 天保十三年四月生 |
鶴澤豊吉こと | 今西音次郎 | 文久二年十二月生 |
鶴澤紋左衛門こと | 鈴木国三郎 | 慶応二年九月生 |
豊澤広兵衛こと | 辻安之助 | 文久元年十一月生 |
鶴澤寛三郎こと | 水野好太郎 | 慶応元年二月生 |
豊澤新兵衛こと | 田中市松 | 明治元年正月生 |
竹澤竜造こと | 松沢重吉 | 安政三年八月生 |
鶴澤蟻鳳こと | 高井庄五郎 | 天保十年四月生 |
鶴澤新造こと | 谷川新造 | 安政元年九月生 |
鶴澤安太郎こと | 鶴沢安太郎 | 天保六年正月生 |
鶴澤市作こと | 福島政吉 | 弘化二年七月生 |
鶴澤大造こと | 梅本和三郎 | 元治元年十月生 |
豊澤門造こと | 小林重三郎 | 安政六年九月生 |
野澤語八こと | 鈴木倉吉 | 嘉永四年十二月生 |
鶴澤一二こと | 森利三郎 | 嘉永五年正月生 |
右は決して伎芸の優劣を以て順序を定めしものに非ず、只何となく列挙しものなれば、万一、お気に召さぬ処あるとも御不平は真平々々。尚また猫の眼に等しき世の中、瞬く間に変るが習ひなれば其節は又取調べて幾度にても掲げ出すべし。〔女性分は割愛〕